1 死神の王
「で、此処何処?」
ファミュレスに促されるまま、連れて来られたのは荒野だった。地面には青々とした草は見当たらず、土が露出しているし、僅かに生えた木々も、ほぼ草を落としてみずぼらしい姿を晒している。空を見上げると紫がかったような夜空。絶対に昼とは認めない。
そしてそんな成れの果てのような地に、中世ヨーロッパのような古城が設立されていた。古城と言っても皆が想像するような艶めかしいものではなく、はっきり言って廃城。主に見捨てられ、長年世話をされて来なかった幽霊屋敷のように不気味である。
そもそも、空間と古城が合い過ぎている。ホラー好きには堪らないだろうが、私は早く帰りたい……。
──黄昏の集い、死神達の根城であります。
「確かに城だけどさ、これ本当に誰か居るの?」
塊が黒々とした門を指差して問う。それは私と氷室が最も問いたい事だろう。……どう考えたって居るのはホラー好きか、心霊写真収集家だろう。
そんな風に高を括っていると、所長が口を開いた。
「居るよ。少なくとも会いたくない狸爺と、苦労人な側仕えが」
「全く、ノエルさんは……」
表情が絶望的に暗い。嫌いな上司に会うときだって、こんな顔はしないだろう。対して閏日さんは何時も通りだった。筋金入りのドマゾにとって、恐怖を感じるものなど無に等しいのだろうな……。
そして一番心配なのは……。
「どうしましょう~……」
今にも泣きそうな氷室である。生まれたての子鹿のように脚を震わせ、脅えている。確かにホラーとか苦手そうだもんなぁ……。
そんな氷室は私の袖を掴み、後ろに隠れているのだが……。塊にする事をお勧めする。彼奴怖いもの知らずだから。
そうやって塊を見ていると、不意に重厚な門が開き始めた。大門は何とも耳障りな音を立てて開くと、道を示す。
「お待たせ致しました。人間様。インペラトルがお待ちで御座います」
中から現れたのは女……だろうか? 全身を、それこそ顔までゆったりと覆う黒いローブ姿。それしか形容出来ないほど、他に特徴が無い。女と判断したのだって声からである。
「あっ、人間様相手に顔をお見せしないのは失礼に当たりますね」
そう言うと色白な指でローブを捲った。白玉のような肌に、血のように赤い唇。大きな目は紫を挿していた。
外見は人間と変わらない。せいぜい瞳の色が異なるぐらいだ。私がじっと観察していると、彼女は深々と頭を下げた。
「御案内致します」
女の一礼と共に私達は歩み始めた。




