リーシャの歌
ウィルグ視点続きます。
昼時。リーシャが音を確かめる様に弦を弾いている周りには、既にちらほらと様子を伺う様な人影があった。そして、事前に知らせたヤートが人影に紛れる様にして此方へ視線をやっているのも見えた。リーシャに目を向けると目が合った。準備が整ったようだった。
リーシャは小さく息を吸うと聞いたことも無いリズムで弦を弾き始めた。複雑なそのリズムはリーシャの体に完璧に馴染んでいるらしく、少しして乗せられた明るさの弾ける声は、緩急をつけて形を変えるリズムの上で自由に跳ね回る。くるくると良く似た響きの言葉を繰り返し、声が踊っている様だった。声がなくなったかと思うと、竪琴はさらに豊かな音が予想のつかないリズムに乗って絡み合う。
竪琴の音が消えると広場は一瞬の静寂の後、歓声に包まれた。リーシャの楽しげな声と軽やかな竪琴の音は、確かに観客の心を惹きつけた様だった。リーシャは微笑ましさを感じさせる仕草で一礼して言った。
「聞いてくれて、ありがとうございました。お昼ご飯の時間だから、良かったらここのお店で食べて行って下さい」
リーシャが店に入って行くのを見届けた後、観客達を眺めていると結構な人数が店に入って行った。広場を借りる代わりに引き受けた宣伝は確かに効果があったらしい。
「驚いた。嬢ちゃん、なかなかのもんだな」
ヤートがそう話しかけてきた。
「俺も、初めて歌を聞いた時は衝撃を感じた」
俺は街外れの広場で聞いた歌を思い出しながら応えた。その際に一瞬リーシャのいる店に目をやったのをどう受け取ったのか、ヤートは笑って言った。
「まあ、どんなに歌が上手かろうが、嬢ちゃんが小ちゃいことに変わりはねえ。嬢ちゃんの見えるとこに居てやった方が良いんじゃねえか」
俺は去って行くヤートの背中を見ながら、心配と言うことは無いんだがな、と一人呟いたが、観客も居なくなった広場に立ち続けていても仕方が無いと判断して店に入った。
前回とは反対にリズムと音に焦点を当ててみました。
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