第9話 ロンドン塔から大英博物館へ
ロンドン塔の前で、フィンランド在住の先輩から電話がかかってきていたことに気づく。どうも、無音設定になっていたらしい。こちらからかけ直して、ヨーロッパ上陸報告をする。
ロンドン塔は、非常に冷えた雰囲気のある建物群だった。入り口付近では、名物らしい、時代がかった衣装を着たおじさんによる解説も行われていた。しばらくの間、脇で聞く。半分くらいしか理解できない。判然とはしないけれど、どうも目の前の広場は、汚水の廃棄場のようなものだったらしい。各所で笑いが起こる。
ここには様々な血なまぐさい歴史が眠っているはずだ。夏目漱石も、入れば二度と娑婆の日を見ることは無かった、とか何とか書いていた気がする。アン・ブーリンの幽霊が出ることでも有名だった気がする。それが今では、世界中から観光客が訪れる名所になってしまっているのだから、不思議だ。色々と建物を回っていて、ふとテムズ川を見ると、タワーブリッジが格好良くたっていた。
セントポール大聖堂に行こうと思ったが、午後4時で閉まってしまうので、またの機会に行くことにして、大英博物館に行くことにする。入場無料だから、何度でも行ける。駅から少し距離があったが、観光客の群れを追っていったら、無事に到着。
何はともあれ、憧れのロゼッタストーンを見る。この石によって、過去の人々の知識が現代にまで届いたと思うと、非常に感慨深いものがある。彼らは意識せずに残したにしても、その石に刻むという努力と、そこまでして歴史を伝えたいという願望のおかげで、その生活を知ることができるのだ。この蓄積を無駄にしないように生きなければならないだろう。
確かに、これらは戦争略奪品かもしれない。だが、無料で、誰もが自由に見ることができるように展示していることに対しては、敬意を払う価値があるだろう。一体、この維持費はどこから出ているのだろうか。ヨーロッパと言えば、トイレが有料であることで有名だが、ここのトイレは無料で、しかも、とても綺麗だった。