第6話 ヒースロー空港から宿へ
その後は特に何も無く飛行機に搭乗。ご飯が出たのが嬉しかった。チキンのトマト煮みたいなもの。飛行機は先ほどのものより二回り小さい。機内で入国カードが配られる。本来、大文字で書くべきところを小文字で書いてしまう。アテンダントにお願いしてもう1枚もらう。午後10時近くにロンドン、ヒースロー空港に到着。
イギリスの入国審査は厳しいという話を聞いていたが本当だった。滞在期間や入国目的を聞かれたり、帰りのチケットをチェックされるのは仕方ないにしても、旅行期間中の移動手段のチェックまでされるとは思わなかった。僕はユーレイルパスを持っているから問題なかったけれど、何ももたずに旅をする人は、どうやって言い逃れをするのだろうか。あと、現在の職業を聞かれたのも痛かった。嘘だけれども、学生だと答えたら、大学生なのかと聞かれる。博士課程だと答えたら、何を専攻してるのかとも。しつこい。物理だと答えて、やっと開放される。初っ端からこれでは、本当に先が思いやられる。
念のため、キャッシュカードが使えるかATMでチェックする。最初は戸惑ったけれども、最終的には普通に使えた。これでお金に関しては問題ない。こんなことなら、両替しなくても良かった。
空港から宿泊施設のある駅までは地下鉄で行ける。窓口でチケットを購入して乗り込む。電車の中には余り人がいない。外も真っ暗だ。ロンドンは意外に早く寝静まってしまうのかな、と思った。乗換えをして目的の駅を目指す。その一つ前の駅に止まる前にアナウンスがあった。何か、僕が行く駅の名前を行っているようだが、よく聞き取れない。仕方ないので無視する。
さて、次で降りなければ。そう思って準備していると、電車は速度を落としただけで止まることはなく、駅を通り過ぎてしまった。有り得ない展開。次の駅で降りて乗換えを試みる。しかし、行ったり来たりしている内に、チケットが改札を通らなくなってしまった。駅員が寄ってくる。どこに行きたいのかと問うので、Bayswaterに行きたいと言うと、そこはcloseだと言う。訳はできるけど、意味が良く理解できない。戸惑っていると、書いている紙を持ってきて、再度closeだと言う。いや、それは分かっているけど、理解不能なんだよ。
やっと理解したところによると、僕の行きたい駅は、ある時間を過ぎると閉まってしまうらしい。どっかの商店じゃあるまいし、そんな馬鹿な。第一、それでは困る。どうしても行かなければ。眠れないじゃないか。
歩いていく方法は無いのかと聞くと、Queenswayという所から行けるらしい。そこまでの行き方を聞いて、礼を言って先を急ぐ。かなり時間をロスした。しかし、日本の常識では考えられない。地下鉄の運営の仕方も色々だ。ある意味、合理的なのかは知れないが。
駅に着く。ところが、そこからの行き方が良く分からない。代々の位置は分かるのだが、暗いし、ホテルはいっぱいあるし、看板は目立たないので、見つけられない。店じまいをしていた人に聞いてみるが、あっさり、分からないと言われる。仕方なく、ちょっと高級そうなホテルに入って、フロントの人に聞くことにする。かなり恥ずかしい。
日本語を話しているように聞こえたので、日本語で道を尋ねたが、僕の聞き間違いだったらしい。チェックインの手続きを始めるので、あわてて英語に切り替えて道を尋ねる。どうも隣にあるらしい。ありがとう。この会話の中で発見したのが、自分の知識に自信が無いときは、答えたあとに、”I think.”と言えば良いようだ。一つ勉強になる。
何とか宿に到着。本当に名前が目立たない。中に入ってチェックインしたいと言うと驚かれる。午後11時半。当然かもしれない。初めの宿なので予約をしてあったのだが、なかなかそのデータが見つからない。受付は、若いお姉さん。隣に座り込んだもう一人の女の人は、誰かと電話している。色っぽく、気だるげに話している。タンクトップだし。一瞬、薬でも決めているのかと思う。
やっとデータが見つかったと思ったら、今度は支払いのクレジットカードが通らない。中から、若い男の人を呼んできて、彼にやってもらう。仲が良さそうだ。おかげで支払いはできたが、このゴタゴタで学生割引をしてもらうのを忘れた。残念。
3rd floorに行って、部屋に入る。4人部屋。中は真っ暗だ。当然だが、眠っているらしい。仕方なく電気をつけるが、申し訳ないので電気をつけたり消したりしていたら、”Could you keep the light peace?”と言われる、多分。電気を消せと言われていることは分かったので消す。廊下で荷物の整理。怪しい人だ。隣の部屋の女の人に、怪しむ目で見られる。当然かも。
このユースの問題点は、シャワーの数が少なすぎること。僕のいる階には存在しない。こんな数で、宿泊客の使用をどうやって捌くというのだろう。まあ、こんな時間に使用する人はいないので、シャワーを浴びて寝る。シーツを敷くべきだが、部屋が真っ暗で敷けないので、寝袋で寝ることにした。おやすみなさい。長い一日だった。