正義感溢れる女と針千本
女は仲間を率いて館へと向かう。女は髪を結ってはいなかったがタスキをして袖は結っていた。すごい剣幕だった。我こそは大義名分のもとの絶対なる正義だと信じ切った瞳をしていた。その女について行く仲間も同様に女で、同じ表情、同じ志を持っていた。
事情を知らない者は矢のように通り過ぎて行く団体に関わろうとしたなかったが、一人だけ、呑気者の男がその団体の一端を呼び止め、事情を聞くことができた。
「これは一体何のお祭りだ。それとも一揆か」
「私達はこれから世のため、人のため、大義を為すのだ」
「それは一体何でしょう」
「上様に頼み、針千本を根絶やしにしてもらうのだ」
男は大笑いする。逆に女は激怒する。
「何がおかしい。針千本はとても危険だ。つい昨日、子供が怪我をした。ただの怪我ではない、針が手のひらを貫通したのだ。なんて野蛮な魚だ、絶対に許してはならない」
「すまない。すまない。だけども、どうやって根絶やしにするんだ、釣り竿で一匹ずつ丁寧に丁寧に根絶やしにするんじゃあるまいな」
「そんな馬鹿なわけがない! 上様の家来に海に潜ってもらうよう頼んでくるのだ! どうせ暇なのだし、世のため人のためになることをさせてやるのだ!」
男は再び大笑いする。笑いすぎて腹が引き攣る。
「何だお前は、この大義がわからないのか」
「いやいやいやいや、あまりに針千本が可哀想でつい笑ってしまう。お礼……いや、お詫びにフグをあげよう。たくさんあるから仲間で分けて食べるといい」
「おぉ、これはいいねぇ! フグは大好物だよ! 怒鳴って悪かったね」
男は笑うのを必死に我慢しながら女が走り去っていくのを見送った。
後日、たくさんの女性が亡くなった。
死因はフグの毒だった。