⑥
最初は6対1だった。
それが6対2になり、最終的に6対3となった。
校長挨拶、生徒会長、主席挨拶。そしてえらい貴族様挨拶×83
そんな本当に気を失いそうな程のだるい入学式がようやく終わり、
自分のクラス表を確認した後、だらだらと割り当てられた教室へと足を運んでいた。
「だるい・・・だるい・・・」
ただでさえ、長かった学校長挨拶にくだらん演説が83回程あったのだ。
これくらい口から漏れるのも無理は無い事だと思う。
教室に到着すると、チラっと視線を向けられた。
既に数名程座っている者がおり、いくつか話こむ姿も見える。
黒板には席順が張られており、それを確認した後、自分の席へと辿りつくと
ドサっとなだれるように机へとつっぷした。
溜息と共に目を瞑る。
後ろの席でラッキーぃ・・このままやすらかに・・・・・・、
・・・・・・・!!!
!!・・!!・・!!!!
喧騒が聞こえる。
どうやら廊下でいざこざが起きているんだろう。
ここは、アドミッター科の教室が連なっている。
武芸者同士の派閥間争いかなんかだろう。
どうでもよく、安寧の眠りへ移行しようとした時だった。
バアンっ!!と大きな音がなり、目を向けると扉と人が倒れていた。
扉がなくなった出入り口からは数名6の生徒が入ってくる。
「おいおい、俺を見て頭を垂れないとかふざけてるの・・・・か!っと」
腰にサーベルを携え、やたらエラそうな顔の金髪が、倒れこんだ生徒の腹部へ
足蹴りをくらわせる。
取り巻きなのだろうか、周りの奴らはそれを見て止める様子は全く無く、
ただ、ニヤニヤとしているだけであった。
「よもや、この俺。ツターク家次男アドル=ツタークを、知らぬとは言うまい?」
「いいえ!知っています!知っています・・・!!」
「ならわかっていて、やったというのだな?・・・・貴様みたいな愚民が!」
奴はサーベルを抜いた。
躊躇う事もなく、それを振りかぶり
「ひっ・・・ゆるし・・」
「俺の横を通り過ぎるなど、おこがましいわ!!」
振り下ろ・・・させず。
「っらよぉっ!!」
すんでのとこで、イスをぶん投げた。
意外とやるらしく、器用にそれをいなした後、怒気がこちらへと向けられた。
「どこのどいつだ。このふざけた挨拶は。貴様か白いの」
いきなり抜刀するキチガイには言われたくは無い。
「五月蠅く吠える貴族様だぜ。領内ならともかく、ここは中立の学校だ。
身分だのなんだの言ってないで、持ち場に戻りなさい戻りなさい。
それとも何?暇なの?雛な貴族様なの?」
「どこのどいつか知らないが、誰にものを言っている。斬り捨てられたいのか?」
奴はそういいながら剣を突き付けてきた。
相手の人数は6人。
が、そう強くも見えない上に、ここは教室でそこまで広くはなく、机も邪魔になって
全員に囲まれるということもないだろう。
とりあえず倒れてるあいつから意識をそらすような挑発を続ければ・・・・・。
「なんだなんだ?楽しい事してるじゃないか。俺も混ぜてくれよ白いの」
廊下から現れたまた一人、誰かが入ってきた。
水色の髪をオールバックにし、背中に弓を背負った男だ。
「誰だよ・・・お前・・。」
「いいーからいいから。実は後ろから蹴り飛ばそうと思ったらお前がイス投げて
出番奪われたんだよ。まぁ・・・とりあえずだ。こいつらやりすぎ」
何はともあれ、助太刀をしてくれるらしい。
これでこっちは2人になった上に挟み撃つという形になった。
「実にうるさい。キャンキャンと目ざわりだ・・・・・・が、少々目に余る気持ち
わから無くはないからな、手を貸してやる。そこの”2人”ありがたく思いたまえ」
と、確か一番前に一人で座っていただろう赤い奴が、こちらへと歩いてきていた。
その背には身の丈もあろうかと思われる剣を背負っている。
「ッチ、どいつもこいつも・・・・・お前ら。この愚民共をどうすべきだと思う?」
偉そうな金髪。アドル=ツタークの声かけに対し、
取り巻きは、サーベルを抜く事で返事をした。
―――― 通告書 ―――――
以下の者を1週間の停学処分とする。
シュエリ=トリンドス
ロワイン=バウエ
アグリアス=モンデルト
以上
1回生職員一同
――――――――――――――
入学初日から乱闘騒ぎを起こしたという事で、停学処分となった。
何故俺らだけだったのか、というのは例の6人をぼこぼこにしまくった結果、
過剰防衛という事でこういう結果となった。
退学の話も出たが、それはアドル=ツタークがやりすぎたという事で無くなった
らしい、良かったな。と、俺達を指導した先生が苦笑いしながら話ていた。
この一件から同じ寮生という事もあって良くつるむようになり、周囲から
『入学初日に乱闘事件で、停学になった3人の馬鹿』
通称3馬鹿というのが、俺らのあずかり知らぬ所で一回生に広まっているのだが
これはまぁ、余談だろう。
で、今現在である。
寮の俺とロワインの部屋で俺は2人の人間に睨まれていた。
「おい馬鹿、なんであそこまでやる必要があった?むこうはエレメンター。
お前はアドミッター。向こうは大貴族お前は白髪。やっぱ馬鹿だよな?」
「そこに身体的理由関係無くない!?」
「私もロワインの意見に賛成だ。何もあそこまでプライドをへし折るような
やり方をしなくてもよかっただろう。やはり馬鹿なのだな?」
「いやでも・・・喧嘩を売ってきたのは明らかに向こうで・・・・」
「だから、お前は馬鹿なんだ」
「だから、君は馬鹿なのだ」
「すんません・・・・」
いつもであれば、ここで噛みつく所なのだが、普段よりかなり真面目な顔を
2人がしている。つい素直に謝罪の言葉が出ていた。
「いくらここが中立である学校だからって、相手はあのナイトフォール家だ。
お前まだ一回生という短い学校生活のピリオドを刻むかもしれん」
「いや、学校生活だけならまだいいだろう。学校から出た直後、塵も残らんよう
な末路を迎える可能性だってある。その場合一族ごと・・な」
暗い空気が漂っている。
俺も考えなしに動いた訳じゃなかったのだが、最後の最後で感情的になった
のは否めないと反省しているのだ。
そもそも俺に家族というものは――――、
「さて、そろそろお灸もいいんじゃないか?ロワイン」
「そうだな。俺らがマジ顔になった事でこいつも少しは反省したと顔でわかったわ」
「は?」
なんて出るのも無理はない。
いきなり軽い口調でいつものこいつらになったのだから。
「まぁここまでは冗談って訳だ!ビビった?なぁビビった?俺らの迫真の演技力
の前にはお前は無力という事を思い知れ!!」
「それ以上煽るな。君達はいつもそれで言い争いになるだろう?
本題に入るぞ、まずナイトフォール家からのアクションは無いとみていいだろう」
「え?なんで?」
「まず何処のぽっと出ともわからん奴に負けた。という事自体ナイトフォール家は
公にしたくないはずだ」
「んで、少なくとも俺とアグモンが知っているユウ先輩はもの凄く、」
「「優しい」」
そうか、あの女はお前らがハモる程優しいのか。
「これは貴族相手だけの話では無い。平民出の者にも関係なく、全て平等
に優しく、公正で良識のある人物だ。これは実際私達が直接謝罪を受けた事
とも起因している」
「平等で・・?公正で・・?良識のある人物・・?いやいやいやいや、
お前らも見たでしょあれ!どうやったらそう見えるの!?」
そもそも謝罪をするような奴だろうか、どっちかというと冷ややかに罵倒してくる
イメージしか脳内再生されないのだが・・・。
「その様子からだと、やはり君のとこにはきていないようだな・・・・ふむ」
「やっぱり俺らの考えで間違いないんじゃないか?アグモン。こいつやっぱり」
「かもしれん。が、理由がわからん以上なんとも・・・・いやシュエリの事だから
なにかしらやったんだろう。私達の知らない所で色々とな」
「こそこそしてないではっきり言えよ」
「いやな、初日にアドルの奴と揉めただろ俺ら。で、停学空けの初日、
俺の所にわざわざ訪ねてきたんだよ、あのユウ=ナイトフォール先輩が。
そして何故か謝られた。申し訳ありませんでしたって」
「私も同じような感じだ。どうやら事件の当事者の内私達だけが処罰された事を
非常に悔やんでいる様子だった。これは当人に確認した事だが、あの時被害
にあった彼の所にも謝罪しに来たという事だった」
あれ・・?おかしいな・・・・俺も当事者なんでけど・・・きてないんすけど。
「というわけで俺とアグモンの結論から言うと、」
「お前は嫌われている」
「君は嫌われている」
「なんとなく知ってたけど、なんでだよ!?」
「そこがわかんねーんだよな。お前なんかしたんじゃないの?
美貌に負けて執拗なナンパを行ったとか」
「そういえば先輩は授業がどうとか言っていたな・・・確か君が授業を抜け出して
よくいる場所って確か、エレメンター専用の演習場辺りではなかったか?
まさかとは思うが・・・運動着姿の先輩に・・・・」
「お前らの中の俺の評価は良くわかったが、落ち着くんだ。
俺は無実!!圧倒的無実である!」
このままだと俺が毎回女子の運動姿を見に行く変態さんになってしまう。
この話が広がってしまえば、今朝みたいな伝説なんていくらでも
たってしまいそうである。風評被害は尋常ではない。
「とにかくだ。ユウ先輩のあの言動は本当に謎だが、家からの報復は無いとみて
いい。最大の問題は、もう一つの方なんだが・・・・・・、」
アグモンが指摘したその問題は・・・・・、
そこには異様な空気が漂っていた。
学年・科・男女関係なく入り乱れた一つの集団だ。
「シュエリという白髪頭が先日!!我らが崇拝するユウ=ナイトフォール様を
”押し倒す”という破廉恥かつ不届きな事件が起きた!!!!」
そこに集まる集団からありとあらゆる罵声が、飛び交った。
「奴は卑怯にもユウ様の優しさにつけ込み!!巧みな話術で近寄り油断させ
・・・・・くっ・・!!」
「隊長!!」
「隊長どうかしっかり!!!」
「どこのゲス野郎ですかそいつは!?」
気を取り直した先導者は、場に負けず劣らずの大声で静まらせ、
高らかに告げた。
「唱えよ!!我らーーー!!!」
「「「「「「 ユウ=ナイトフォール親衛隊!!!! 」」」」
「あのお方の為ならば!!!」
「「「「「 命をかけて壁となり、憂いを晴らす剣となれ!!! 」」」」
「故に皆に問う!!!彼の者の判決は!!!!」
「「「「「 ギルティ!!!! 」」」」
この一件が、後に起こる大きな問題への足がかりになるというのは。
当然、誰も知らない。