②
「やっと起きたかこの馬鹿め、毎度毎度の事ながら何で学習できないんだお前は」
「おう、良い朝だな!じゃおやす」
「ふざけんじゃねぇぞ!同室ってだけで連帯責任として飯抜きにされる
俺の身にもなれ!」
「そっちこそふざけんなやハゲが!!毎朝朝日と共に拝む事になるのが、
何が悲しくて男の顔なの!?ちょっと考えてみ?これって物凄く悲しい事だと
思うの。女体化した上で出直してこいデコハゲが!!」
「何度もいってんだろうがっ!!これはハゲじゃなく髪を後ろに
持っていってるだけだから!!オールバックだから!別にハゲてないし
隠そうしてる髪形でもねぇよ!っろすぞ白髪頭っ!!」
水色の髪は全て後方にかき上げられ、一束だけ前に出ているこの五月蠅い
デコハゲ。
ロワイン=バウエは、同じ部屋の所謂ルームメイトというやつだ。
悲しいかな悲しいかな・・・。
「朝からほんとで疲れる・・・・完全にお母さんじゃねぇか・・・もう嫌だこんな生活」
「お母さんお母さん、お腹すいたから食堂から朝飯持ってきて俺その間に
着替えておくからさ!」
「よかろう!!!!ならば戦争だごるぁあああ!!!!!!!」
この後寮監にこってり絞られ、朝飯抜きな上に貴重なカロリーまで消費するという
愚行。いつも通りの朝だった。
「不毛な争いだったな・・・」
「うるさいよ!?お前が普通に起きてればこんな事になってないわ!
はぁぁぁ・・・今日朝から実技だってのにこのままだと餓死するぞ餓死!」
朝から嫌な情報を聞いた。
もうめんどくさいだるい。
また”アレ”が見られるかもしれないんだ、うん、眠ろう!
そうだふけて寝ようと、心に決めながら歩いていると、
「また朝からやってたみたいだね。これだから馬鹿は手に負えないよ」
なんて嫌み全開の口調で近づいてくる赤いのがいた。
アグリアス=モンデルト。前髪パッツンの同級生である。ややイケてる顔なのが
腹立つ上に、少しいい所の商人の出もあってか、口調が何処か上からなのも
鼻につく。
だが、しかし!!
「ほら、何故かパンが2個程あるからわけて食べてくれ。微妙に手荷物になって
面倒だからさ」
明らかに寮の食堂からくすねてきたとしか思えないやつだった。
口調はツンツンしながらも、甘甘なのである(心なしか若干顔も赤い)
「「いつもありがとう!!アグモン!!」」
俺とロワインが親愛を込めた上でハモるのもしょうがない事だろう。
「・・・・アグリアスだ!朝から人を不愉快にさせる天才だよ君達は」
「喜べハゲ。褒められてるぞ」
「ねぇ息を吐くよう簡単にハゲさすのやめてくれない?オールバックつってる
だろクソがああ!!!お前なんて白髪じゃん!老化現象真っ只中じゃん!!」
「やはりお前とは一度決着を付けないといけないようだな・・・・・・・・、
このクソデコハゲェ!!!その生え際を後退させてやるわぁぁ!!」
うぉおおおおとかやっていると、いつの間にか到着していた校門を潜り抜ける。
校舎までの道のりには、ちょっとした人だかりができていた。
「今日は外れだな」
「そのようだね。そうそうない事なんだけど、一緒になるとどうも邪魔だ」
言いたい放題である。
まぁ2人がそうこぼしたくなるのも無理は無い。
門から校舎までの道のりはほぼ一直線である。
道幅はせまくないとはいえ、9割以上を埋めるそれは、はっきり言って通行の邪魔
としかいいようがなかった。
ごちゃごちゃしすぎて見えないが、この人だかりの原因には心辺りがある。
かの高名なナイトフォール家。
代々、王族直属の護衛を任されている、名門であり、そこの長女様。
一つ年上の2回生、名はユウ=ナイトフォールとかだったという覚えがある。
この国では珍しい黒髪に、黒い瞳。そして端麗な顔立ち一度目にすれば
引きこまれそうになる。
らしい。
実際な話、直接見た事が無く、そんな噂が流れているのだ。
そして、安易な考えで近づかない方がいいともされている。
何故か、
それがこの”人だかり”である。
周りにたかってるのは、貴族様方だ。
そそくさと横を通り過ぎていく貴族でない者を蔑んだ目を配り、鼻で笑う。
あぁ、今日もこの学校は最悪です。
「ツターク家の奴も見える。早々に通り過ぎた方が無難だと思うが?」
間違いないわ。とアグモンに同意しつつ、3人でさっさと通り過ぎる。
ふと視線を感じた気がした。
人だかりの隙間から、例の人物と目が合った。
なんて事は無い。
すぐさまその隙間は人で埋もれ、目が合う程の短い時間すら無かったからだ。
まぁこっちを見たような気もしなくもなかったが、単純に気のせいだろう。
「なんだ、なにか言いたい事でもあるのか?」
すぐ近くの貴族様に高圧的なお声を頂いたので、きっとこいつだったのだろう。
今日もまた一日が始まる。
あんまりやる気も目的も無い。溜息をもらしつつ校舎の中に入った俺は、
アグモンに「俺の事は置いていけ」というセリフと、溢れんばかりの笑顔を
ふりまき初っ端の実技をふける事としたのだ。
「出席を取るぞー!・・・・・・・次!シュエリ!シュエリ=トリンドス!!!」
一同がシンと静まる。
「・・・・ん?シュエリ=トリンドス!・・・・欠席・・・ではないよな。
ロワイン、アグリアス。両名立て!」
「「何故ですか!?」」
「口答えせずに本当の事を話せばいい。奴がここにいない理由を述べろ。
ロワイン貴様からだ」
「ハッ!『俺の腹がゴロロと呻るぅ!!!何かが出たいと轟叫ぶぅ!!』
と言っておりました!」
「・・・・ふざけてるのか貴様」
「ふざけてなどおりません!!真実であります!残りの証言は全てそこの
アグリアス君が知っております!」
「え”っ・・・ああそのなんといいますかその・・・ああそうだ!そう!清々しい表情で
『俺の事は置いていけ』と言っていました。え?それは完全に漏らしてる?
何をでしょうか?私は本当の事しか・・・・」
シュエリ=トリンドス
伝説になった瞬間だった。
風が心地良い。
学校の敷地内にある4つの演習場の中で、一番奥にある演習場。
その周りを取り囲むように茂っている木の1本に俺はいた。
丁度人一人分が背を持たれつつ眠れるスペース。
外からは木の葉で隠れて見えず、こちらからは隙間で辺りを見渡せる
絶好の眠りポイントとして活用している場所だ。
演習場では何処のクラスかわからないが、派手にドンパチとやっている。
まぁ少なくとも、我がクラスな訳もなく、そもそもこの演習場は専用の―――、
昆虫類はこうやって落ちてゆくのだろう。
安心しきって身を委ねていた木が突然の如く大きく揺れた。
正確には振動だが、俺一人が落ちるのには十分な揺れであった。
咄嗟に受身は取るものの、全くもって意味不明な出来ごとであり、
原因の特定の為周りを見渡す・・・・までもなく、原因をもたらしたであろう
人物が腕を組みながら仁王立ちをしていた。
レイチェル=バートン
俺の在籍する科とは違うが、同回生であり、まぁ知り合いである。
俺個人として、トレードマークとしているの緑ポニーを風で揺らしながら物凄い
形相だ。
「案の定またここでサボってたわね!もう少しこの学校に通う意味を考えなさい!
あなたウチの科でも有名になってるわよ、当然悪い意味でね!」
「有名だなんて、それはまたご冗談を『ロワイン=バウエ』や
『アグリアス=モンデルト』ならともかく、俺はそうでもないだろう」
「その2人は”当然”でしょ。けどあなたはまた違った意味で有名なのよ、
『三馬鹿』の筆頭さん!!」
「おいおい、愛しのロワイン様が、俺と同室だからって妬いてるのか?
ついでだが、知ってると思うけどもその三馬鹿とやら。それ、愛しのダーリン
も入ってるんだぜ?」
「こん・・・・・のっつ!!ふっとばす!!!!」
あいつの事になるといつもながら沸点が低い奴だ。
怒気と共に、レイチェルの周りに風が集まり、彼女を中心にして渦巻いていた。
レイチェル=バートン 国立特別仕官育成学校 エレメンタル科 1回生
風のエレメントを扱うエレメンターである。
どうやら完全に戦る気のようだ。
であれば、こちらも戦闘態勢に入るほかはない。
若干腰を低くし、観察する。
レイチェルは、操る風を拳よりも二回り程大きな球の形にしていた。
数は3つ・・・いや4つになっている。
その一つ一つが、風という目に見えないはずの現象を可視化する程集束させ、
作られている。
当たれば明らかに痛いで済んでくれなさそうだ。
まぁ・・・、
「当たればだけどな!!」
一気に肉薄する。
元から、レイチェルとの距離はほぼ無い。2歩程度で拳が届く距離だ。
対エレメンター戦において、彼女等を組みふせるの容易ではない。
しかし、エレメンターは能力を自分の物として呼び出し定着させ、
扱えるまでにちょっとした時間がある。
その間をつき、アドミッター特有の身体能力の高さを活かして、
白兵戦に持ちこんでいく。
『ファーストクラス』なんてその程度の条件さえクリアすれば圧倒的にこちらが
有利なのだ!
距離を詰めてくると読んでいたのだろう、レイチェルは後方に跳躍しながら、
一つ目の風球を投げつけてきた。
が、
「甘い!超甘いぜ!!」
そんな態勢崩した状態で放つファーストクラス程度のヘナチョコ球に
当たるはずもなく。
矢継ぎ早と放たれた、
二つ!
かわし
三つ!
かわす
残りの1つなんて、放つ暇も与えさせず。
跳躍し、拳を振りかぶる。
流石にびびらせる程度で終わらすつもりだが。
やや顔が引きつっているレイチェルに向かいつつ
「きたきたきッたあああああ!!俺の完全しょブフォッ!!」
気づけば、俺の身体は真横に吹き飛んでいた。
いきなりの衝撃で受身を取る事もできず、地面にそのままダイブする。
一体・・・何が起こった・・・。
「け・・・喧嘩は・・・ダメ!です・・・うぅ」
燃え盛る火球を複数個待機させながら、
涙目になっている少女がそこにいた。
24日 奇数話 投稿 → 訂正 近々