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第九話

12月2日27時投稿なので毎日投稿していることになるはず(汗

 貿易都市スピリルは上も下もみーみーと騒がしい。

 空はウミネコ、地はドラネコ。

 どっちも気ままにぱさぱさ跳んだりごろごろ転がったり。


 最近だと裏路地に小人が住み付いたなんて噂が流れているけれど、はいすみませんそれたぶん私のつくった人形です。


 家を出た後のことを考え、一部の人形にはあちらこちらの街に潜伏……もといこっそり暮らしてもらっている。貿易都市スピリルはそのひとつだ。


 ただ。


 この街の場合はなんだかおかしなことになっているのだ。



 * *


 お父様は少し用事があるということで別行動になった。


 私はロゼレム公爵とエルスを案内しつつ、露店に挟まれた大通りをふらりふらりと見て回っていた。

 この先にはお気に入りのフルーツ店がある。

 食べ歩きしやすいように果物を串に通して売っているのだけれど、どれもこれも採算がとれないんじゃないかと心配になるくらいに肉厚なのだ。

 おすすめなのはボウカー(マンゴーに似た果物)だ。

 ちょっと貴族らしからぬ振る舞いになってしまうけれど、パクリと一口で食べてしまうのがいい。

 あのだいだい色の果実からあふれる甘い汁は、一滴だってこぼすべきじゃない。


 ああ、楽しみ楽しみ。


 ……って、あれ?


 たしかいつもここにあったはずなんだけど。


「どうしたんだ、アルティ」


「ちょっと待っててね、エルス。馴染みの店が見つからないのよ」 

 

 おかしい。


 あそこの店主は仙人じみた髭もじゃで、どれだけの人ごみの中だろうと目立つ存在だった。


 仮に場所が変わっていたとしてもすぐにわかるはずなんだけど……。



 きょろきょろとあたりを見回していた時のことだった。



(お嬢様、以前にもまして美しくなられましたね。私の乏しい語彙でもって譬えるなら、とこしえの雪に磨かれた白瑪瑙、とでもなりましょうか)


 歯でも浮きそうなセリフが、頭の中に届いた。



 雑踏を行き交う人々の足の向こう、煉瓦造りの建物の陰にきざったらしい顔つきの人形を見つける。


 黒いスーツにボルサリーノ帽、まるでイタリアン・マフィア。


 というか。


 実際、マフィアそのものだったりする。


 貿易都市スピリルに住む人形たちは街に溶け込むどころか裏社会にがっちりと食い込んでしまっていた。


 人呼んでルティーア・ファミリー。


 "24人の姿なき幹部"(その正体は人形)を頂点し、スピリルの暗部に君臨する一大勢力である。


 どうしてこうなった。


 マフィアを題材にした乙女ゲー、その登場人物をモデルにして人形を作ったのがまずかったのだろうか。


(なにか用事かしら、カジェロ)


(お楽しみのところ申し訳ありません。早急にお耳に入れておきたい事がありまして)


 カジェロはスピリルの人形たちの中では一番の古株で頭脳派だ。正直、私なんかではおよびもつかないくらいに賢い。


(全部で3つあります。まず1つ目、お探しになっているフルーツ店ですが、先月のうちに潰れてしまいました)


(うそ……)


 信じられない。


 信じたくない。


 これではスピリルに来た楽しみの半分が消えてしまったようなものだ。


(主が病に倒れたのです。とはいえご安心ください、店はうちのファミリーが引き継ぎました)


(もしかして人形が売り子をやってるのかしら?)


 だとしたらずいぶんと可愛らしい光景だけれど。


(いえ、我々人形はけして表に出ることはありません。これまでと同様、ふつうの人間を代理に立てております)


 少し、残念だ。


(ご期待に沿えず申し訳ありません。償いはいずれ、必ず。

 次は喜ばしい話です。我らがルティーア・ファミリーはついにこの街の評議会に席を得ることができました)


 貿易都市スピリルはウイスプ領内にあるけれど、なかば独立したような形になっている。十数人の評議会員たちによって統治されているのだ。


(石工ギルドと宿屋組合はすでに傘下にあります。つまり、この街の4分の1は我々のものといって過言ではないでしょう)


 それはすごいというか、ええと、ちょっと待った。

 領主の娘である私が影響力を持つというのは、自治権の侵害ではないだろうか。


(何をおっしゃっているのです? 私はルティーア・ファミリーの勢力拡大を自慢しただけですよ。

 そもそもお嬢様はファミリーの主どころか一員ですらないのです。我々がどれだけ大きな権力を持とうと関係ないでしょう。

 ……まあ、義理深い幹部たちは創造主たるお嬢様に"配慮"するかもしれませんが)


 そう語るカジェロの声は、どんな詐欺師でも裸足で逃げ出しそうなくらい悪辣だった。


 屋敷にいたころはもっと素直でいい子……でもなかった。

 最初から腹黒で権力志向、物語の中の悪魔より悪魔じみていた。


(それはさておき、お嬢様、今夜のことはウイスプ公爵様からお聞きになられましたか?)


 どうしてここでお父様の名前が出てくるのだろう。


(『波止場の借宿』亭に評議会員をはじめとした有力者たちが集まることになっています)


 ちょ、ちょっと待て。


 それは私たちが泊まることになっている高級宿屋だ。


(公爵閣下のご令嬢の誕生日を祝うパーティだそうです。

 もちろん我々のファミリーの者も顔を出すことになっています。とはいえ人形以外のメンバーばかりですが。

 ああ、ご安心ください。彼らは"姿なき幹部"が人形であることも、その創造主がお嬢様であることも知らされておりません。

 私はお嬢様の近くで魂のない人形のふりをして眺めさせてもらいますよ、クク。愉快ですね、ええ、愉快ですとも)







 ちなみに。


 カジェロはひどくわかりづらい性格だからフォローしておくと。


 さっきの発言は「おまえが心配だからパーティの間じゅう傍に居てやる」という意味だったりする。


 彼は偽悪的で露悪的だけど、根っこのところは他の子とそう変わらない。

前回のねこぐるみ2匹も幹部です。

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