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第五十七話 アルティリアvsアルティリアⅠ

更新お待たせしました……

「あんまりおいしくないわね、コレ」


 アルティリア(未来の私)のふるまいは、「高慢な令嬢」のテンプレそのものだった。

 お菓子も、紅茶も、一口つけただけでそれっきり。


「礼儀がなってないわね。こんなのもてなしとは言わないわ。毒を出してるのと同じよ。砦も小汚いし、ここにいたら肺が腐りそう。

 電気掃除機とか、空気清浄機とか、そういうのは置いてないの? 私が貴女くらいのころは、人形たちに電化製品を作らせてたんだけど」

「そういうことは、させてないわ」


 というか、現代文化の押し付けはどうかと思う。

 この世界にはこの世界の人なりの暮らし方があるわけだし。

 

「ああ、なるほど」

 

 どこか見下したような調子で頷くアルティリア。


「この時期の私って、こんな低いところで足踏みしてたのね。忘れてたわ。どうせアレでしょう? 『料理のアイデアとか、服のデザインとか、そういうチビチビした介入はともかくとして、この世界のありかたを壊すようなマネはすべきじゃない』とか考えてるんじゃないの?」

「……よく、分かってるのね」


 その通りだ。

 一言一句違わず、私の思考を読み取られていた。

 魔法ではないと思う。

 ()()()()だからこそ、分かるのだろう。


「そんな遠慮、さっさとやめてしまいなさい。貴女もじきに分かるけど、王も、貴族も、軍人も、庶民も――誰ひとりとして、まともにモノを考えられる人間なんていないわ。みんな狭い視野で、目先のことしか考えてない」


 どこかジトついた声色で、ひとりごとのように、呟く。


「人形姫は大きな力を持っている、自分たちの生活を脅かすかもしれない? だから殺そう? 排除しよう? ……馬鹿じゃないの? 私に勝てるわけがないのに、どうしてわざわざ敵に回るのかしら? 貴女だって覚えがあるでしょう?」

「ええ、まあ」


 ウイスプ家もとい“人形姫”に友好的な貴族は少ない。

 みんな多かれ少なかれ人形魔法の力を恐れていて――常々、叩き潰すチャンスを狙っている。


 私がマルガロイドへの留学を決めた原因のひとつはそれだし (もちろん原作回避が最大の理由だけど)、ソリュートお父様が大逆の冤罪を着せられたのも同じことだろう。


「貴女が本気になれば、たかだか帝国ごときはいくらでも滅ぼせる。それどころか、世界を手に入れることだって可能でしょうね。……というかまあ、私は実際にそうしたのだけど」

「面倒とは、思わなかったの。立場とか、責任とか」

「知ったことじゃないわ」


 本当に、心からどうでもよさそうにアルティリアは言ってのける。


「はじめは、ただ、心穏やかに人形を作っていられたらよかったの。けれど帝国の老害どもがうるさくて、暗殺者までよこしてくる。うんざりしながら海外に留学してみたら、いつのまにやらお父様は大逆罪で投獄、処刑。やってられないわ」


 ここまでは、私の辿ってきた道とほとんど同じ。

 彼女は、さらにそこから未来の出来事を話し始める。


「裏でアスクラスアが糸を引いてけど、騙されるほうも騙されるほうよ。ちょっと考えれば陰謀だってわかるのに、貴族は誰も味方してくれない。家の騎士は裏切るし、領民だって逃げ出したわ。馬鹿よ、馬鹿ばっかり。こっちは帝国ごときいつでも滅ぼせるのに、どうして向こうに尻尾を振るのやら。理解できないわ」

「……そういう態度が、原因じゃないの?」


 少なくとも私が帝国の貴族なり貴族なりだったら、玉砕覚悟でアルティリアの敵にまわるだろう。

 損得勘定じゃなく、プライドの問題で。

 けれどアルティリアの考えは違うらしく、


「私の態度ひとつで判断を変えるような連中なら、なおさら、愚かとしか言いようがないわ。……そうそう、いいことを教えてあげる。エルスも、伯爵も、フィルカも、フェリアも、みーんな、そのうち敵に回るわ。たしか帝都を制圧した後だったかしら、アスクラスアがルトネを連れてくるの。あとはもう原作通り。みんな、あの汚らしい人造生命(ルトネ)に騙されて、貴女のもとを離れていくわ。魔法学院に通う通わないじゃなく、"アルティリア・ウイスプ”は、そういう存在として世界に定義されてるのよ」


 いや。

 定義されていないと思う。

 エルスたちが去っていったのは、むしろ当然の気がする。

 すべては彼女自身のふるまいが原因で――そこから目を逸らして、「原作」とか「世界」という言葉に押し付けているような。


「ま、でも安心してちょうだい。帝国貴族はもう黙らせたし、アスクラスアだって倒してあげる。私の条件を飲んでくれるなら、のんびり人形と戯れる毎日をプレゼントしてあげるわ」

「条件?」

「別に難しいことじゃないから安心して。エルスと、その父親のロゼレム卿、彷徨える伯爵、フィルカ、フェリア――貴女と親しい人たちを、みんな、譲ってほしいの。どうせ貴女には人形魔法があるし、代わりを見つけるのは簡単でしょう? 《綾織の女王》の力で因果をいじくったら、誰でもすぐに好感度は最大にできるもの。

 だったら、ほら、とってもお得な取引と思わない?」


 アルティリアは微笑む。

 自分は間違っていない、正しいことを言っている。

 心から確信しているような様子だった。

 

「…………」


 私は何も言わず、ただ、アルティリアを眺める。

 これが未来の自分というのなら、ひどく歪んでしまったものだ。


「返事は? まさかとは思うけど、断ったりはしないわよね」


 こちらが即答で頷くと思っていたのだろうか、アルティリアはひどく不満げな様子だった。

 なんだかひどく子供っぽい反応に思える。


「同じ私なんだから、同じ程度の知能指数はあるでしょう? 思考回路も似ているはずだし」

「…………」


 色々と言いたいことはあるけれど、ひたすらに、沈黙。

 するとアルティリアは苛立たしげに嘆息し、こちらの返答を催促するかのように、左の中指でコツコツコツコツコツコツ……と机をたたき始めた。

 お世辞にも品のいい仕草とは言えない。


「私、別の時間軸に来るのはこれが初めてじゃないの。これで13回目。いままでの12回は、なぜか、みんな断られたの」


 脅すように、睨みつけてくる。


「勘違いしないでほしいのだけど、私は、貴女に、わざわざ手を差し伸べているの。縋りついて感謝すべきところなのよ。同じ人間だから、寛容に接しているだけ。本当なら有無を言わさずすべてを奪ってもいいんだから。……最後通牒よ、私に従いなさい」



 返答は、最初から決まっていた。

 私はここまで堕ちていないし、堕ちたくもない。


 勝ち目は絶望的かもしれないけれど、ここで、彼女に頭を下げれば一生みじめな思いをすることになると確信していたから――


「顔を洗って出直して頂戴、未来の私。見苦しくて、とても見ていられないわ」


 彼女が飲まないまま冷めてしまった紅茶。

 そのカップを掴むと、中身を思いきり、浴びせかけた。




12月12日、アリアンローズより『張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました』3巻発売予定です。宜しくお願いします。そろそろ書籍に追い付かれそうなので、大急ぎで更新していく予定。

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