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第四十五話 謁見 / "人形"魔法

2年ものあいだお待たせしました……

忘れている方もいらっしゃると思うので、簡単な三行あらすじを。


・アルティはマルガロイド王国の危機を救った (ことになっている)

・アルティの父ソリュートには、皇帝の暗殺疑惑

・真相を解明するため、帝国に戻ろうとしている


 メデア帝国とマルガロイドの距離は、およそ船で40日。


 けれど私の人形ならもっと早い。

 現に忍者人形のフィグゼスはたった3日で海を越えている。

 いわく、「片足が沈む前にもう一方の足を前に出す」ことで水上を駆け抜けたんだとか。

 ……この世界、重力も物理法則も仕事をサボりすぎと思う。


 ともあれ。

 お父様の大逆について、まだレレオル王は知らないはずだ。


 


 ガレット宮殿に辿り着くと、そのまま謁見の間に通された。

 フェリアさんには廊下で待っていてもらう。ちなみにカジェロは天井裏に潜んでいる。


「アルティリア殿、よく来てくれた。前に会ったのは建国祭の時だったかな」

「はい、レレオル様においてはお変わりないようで安心いたしました」

「以前と同じく胃の痛い日々を送っておるよ。して、火急の用件と聞いたが、何事かな?」


 レレオル王の表情はいつもどおり柔和なものだった。

 やはり、お父様についてはまだ何も聞いていないのだろう。

 

「貴女はこの国を救った英雄よ。余に出来ることがあれば力を貸そう。

 すでに人払いは済ませておる、遠慮なく申すがよい」

「それではお言葉に甘えさせていただきます。

 突然の話で申し訳ありませんが、メデア帝国に“里帰り”させていただけませんでしょうか」

「一時的に帰国する、ということかな」

「仰る通りです。先程、父が病に倒れたとの報が入ってきまして……」

「なんと、ソリュート殿が……!」


 もともとレレオル王はお父様と仲が良かったらしい。

 それだけに衝撃だったのだろうか、レレオル王は眼を大きく見開いていた。


 さて。

 もちろん病に倒れたなんてのは嘘だ。

 私は口先ひとつでそれを信じさせ、尚且(なおか)つ、帝国に向かうための船を確保せねばならない。


 レレオル王の青い瞳をまっすぐに見つめる。

 相手が疑いを抱くより先に押し切る。

 それが私の方針だった。


「――っ!」


 けれど。

 口を開こうとした途端、思いがけない事態に出鼻を挫かれた。


 ツン、と。

 鼻の奥が締め付けられるような感覚。

 これは前兆だ。

 やがて右眼の奥がギチギチと疼き、だんだんと痛みに変わってくる。


 まただ。

 まだ、あの頭痛だ。


 右の脳髄で、血管がうねっている。

 心臓の鼓動に合わせて、バク、バク、バク。

 頭蓋骨を突き破って、右のこめかみから何かが出てこようとしている。

 そういう錯覚に襲われる。


「っ、ぁく……!」


 歯を、食いしばらずにいられない。目の裏がチカチカする。

 崩れそうになる膝に力を籠め、なんとか姿勢を立て直した。

 

 ゼイゼイと浅い呼吸を繰り返しながら、ただひたすら発作が過ぎるのを待つ。

 手に汗が滲んでいた。ひどく身体が重い。

 このまま眠ってしまえたらどんなに楽だろう。

 

 でも、それは、ダメだ。


 私にはやることがあるのだ。

 船を、できれば高速艇を出してもらいたい。


 やがて、少しずつ痛みが和らいでくる。

 脳の深部が焼けただれたかのような違和感は残っているが、会話ができないほどじゃない。

 

 レレオル王の反応はどうだろう。

 きっと驚いているはずだ。

 なにせ目の前で相手がいきなり苦しみ始めたんだから……って、あれ?


「……」

 

 不気味なことが、起っていた。

 レレオル王は全くの無反応だった。

 心ここにあらず、なんてレベルじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()虚ろなのだ。

 焦点の合わない瞳を、ボンヤリと私に向けている。


「あの、レレオル王?」


 おそるおそる、声をかけてみる。

 すると。


「――ああ、すまない。少しボンヤリしておった」


 レレオル王はすぐ我に返る。


「そなたの父が倒れたというので、一時的に帰国するのであったな。

 あいわかった。申し出の通り船も用意しよう。急ぐであろうし、高速艇の方が都合もよかろう。

 遅くとも二日後には出れるようにしよう、それでよいか?」


「あ、ありがとうございます……」


 答えつつも私は戸惑っている。

 船については今から頼むつもりだったのに、どうしてレレオル王に伝わっているんだろう?


「余はこれよりソリュート殿に見舞いの文を書くとしよう。アルティリア殿、申し訳ないが届けてもらえまいか」


「しょ、承知しました」


 釈然としない気持ちのまま、私はレレオル王との謁見を終える。


 ただ。


 その場を去る時、なんとなくだけれど。


 私の右の手から長い長い糸が伸びて、レレオル王に繋がっているような。

 まるで人間を操り人形にしているかのような。


 そういう、奇妙な感じが、あった。




 


 レレオル王はこの夜の約束を果たした。

 一日置いて、さらに次の日。


 私のためだけに一隻、高速艇を確保してくれたのだ。


 フィルカさんが開発に関わった、魔導蒸気船。

 

『ここにわたしとワイスタールの力を加えれば、およそ10日でメデア帝国に戻ることができるでしょう』


 カジェロはそんな風に教えてくれた。


『……まあ、ワイスタールのほうはオマケのようなものですが』


『ハン、カジェロこそがオマケに決まってんだろ、俺様の力だけなら12日だな』


『わたしの力だけなら11日、残り1日を縮めるのがワイスタールの仕事ですね』


「貴方たち、妙なところで張り合わないでちょうだい」


 カジェロとワイスを窘めつつ、私は高速艇へと向かう。

 他に乗り込むのは二人、フェリアさんとフィルカさんだ。

 

 ちなみに伯爵は2日前の夜に出発している。移動手段は徒歩、というか駆け足。

 フィグゼスと同じく、「右足が沈む前に左足」法を使うらしい。

 もしかしてこの世界ではとても簡単なことなんだろうか?


 出発前の空き時間に試してみたら、服が汚れただけで終わってしまった。

 そりゃそうだ。


・おしらせ!


『張り合わずにおとなしく人形を作ることにしました』2巻、4月12日発売となります。2章・3章のイベントを拾いつつの全面リメイクとなっております。ぜひにお買い上げいただければと思います。


・追記!

 今回アルティが何を (無自覚のうちに)やったかは、たぶん、書籍版1巻をお買い上げの方は察しがつくんじゃないかなーと。


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