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第四十二話 その二 不思議不可思議

前回から間隔があいてしまいごめんなさい。

忘れてしまった方のための補足。

・忍者人形の頭領フィグゼスみずからが異変の報告にやってくる

・お父様が陛下を暗殺? しかも脱獄して行方不明?

・伯爵、妙な噂で帝都の人々を扇動する

 フィグゼスの語る事件のあらましはとても摩訶不思議なものだった。

 私自身ちょっと混乱しているところがあるけれど、ひとまず最後まで聞いてほしい。


 密告文が届いたその日の夜、フィグゼスは近衛騎士団の動きを見張っていた。

 姿を消したお父様の手がかりを求めてのことだったけれど、成果の方はからっきしだった。騎士団の面々はお父様の無実を信じきっていて、捜査らしい捜査にも乗り出そうともしなかった。いつも通り宮城を見回り、休憩時間には賭けポーカーで盛り上がるばかりだったのだ。


 やがて日が沈んで満月が登ったころ、フィグゼスのもとにひとつの報告が届けられた。

 彼はすぐさま複数の忍者人形に情報の確認を命じた。それがあまりにも信じがたい内容だったからだ。

 ――近衛騎士団が帝都西にある高級宿屋『波止場のかたらい』邸に踏み込み、皇帝暗殺を目論む一味を取り押さえた。

 これが真実なら、いま自分の眼前で夕食を口にしている団員たちはいったい何なのか。

 『波止場のかたらい』亭と詰所、同時に二つの場所に同じ人間が存在することなどありえるのだろうか。

 フィグゼスはむむ、と唸らずにいられなかった。

 けれど。

 不可思議な事態はこれで終わらなかった。

 詰所の団員たちに異変が起こったのだ。彼らは一斉に白目を剝き、ぶるぶると激しく震えはじめた。気でも狂ったかのようだったという。そうかと思うと急に動きを止め、わずかな間をおいて――爆発した。

 といっても、血と肉が飛び散るグロテスクな光景にはならなかった。

 ぼん、と。

 煙と化して消えてしまったのだ。


 他方、『かたらい』亭のほうはどうかというと、こちらもこちらで混乱が広がっていた。

 この宿屋は密談によく使われる場所であり、常日頃から忍者人形によって監視されている。いつ誰が訪れてどんな話をしていったか。そのすべてを把握している……はずなのだ。

 それなのに今回に限っては見落としていた。お父様がやってきたことも、暗殺計画の会合が行われていることも。

 すべては騎士団が乗り込んできた時に初めて気づいたことであり、すでに何もかもが手遅れになってしまっていたのだ。


 お父様は大逆人として逮捕され、即座に翌々日の死刑執行が決定された。取り調べも裁判もなしに、だ。どうしてこうなったかというと、皇帝陛下じきじきの命令があったらしい。ウイスプ家による革命だなんだと期待をかけておきながらひどい掌返しだ。ちょっと理解できない。密告文のときみたいに宮廷貴族の陰謀を疑ったりはしなかったのだろうか。私が皇帝だったらむしろ処刑の延期と詳細な調査を指示するはずだ。


 やがて2日が過ぎ、死刑執行の朝がやってくる。

 この時、フィグゼスたち忍者人形はある計画を進行させていた。

 処刑直前での救出、けれどこれは実行されないままだった。

 というのも。

 忍者人形たちが助けにくるまでもなく、お父様はひとりで脱獄に成功していたからだ。

 牢の中には誰もおらず、寝ずの番を務めているはずの兵士は石畳の上に転がされていた……。

 

 * *


(悪ぃ、賢い俺様といえどちょっと頭がついていかねえ。わかんねえことだらけだ)

(同じく、だ。どうやら俺の天才性は錬金術に限ったものらしい)

 ワイスとフィルカさんの2人はううんううんと考え込んでいた。


(フィグゼス、ひとつ質問なのですが)

 頭脳明晰なカジェロといえど今回はなかなかの難問のようで、口調にはいつものようなキレがなくなっていた。

(ソリュート様が捕縛された時の状況をもう少し詳しく教えてください)

(承知した。現場は『かたらい』亭の2階奥の部屋、その日は無人のはずだった。これは何体もの忍者人形が確認している。

 だが騎士団がそこに踏み込んだ瞬間、突如として十数人もの男たちが現れたのだ、もちろん、その中には御父上の姿もあった)

(魔法で転移してきたということですか)

(その可能性はきわめて否定的だ。魔法が使われた形跡はない。

 付け加えておくと、男たちは最初からそこに居たかのような様子だったらしい)

(でしたらこう考えるべきかもしれません。

 会合は間違いなく行われていた。けれども忍者人形たちは"誰もいない"という幻覚を見せられていた、と)

(待て、我々精霊の目を欺ける魔法など――)


(ねえわけじゃ、ねえ)

 割り込むようにして答えたのはワイスだ。

(古の魔法の中にゃあ、精霊さえも惑わしちまうもんがある。そうだろ、伯爵サン。

 千年前はそいつで賢い俺様を見事にだまくらかしてくれたよなあ)

 ワイスとしては苦い思い出なのだろう、忌々しげな様子だった。

 けれど伯爵はなんら気にした様子もなく、むしろ誇らしげに頷いていた。

(いかにも。今まで姫の前で披露したものはいずれも序の口、総ての魔力をもってすれば街1つを夢幻に包むことも不可能ではない。

 ところでフィグゼス殿、小生もひとつ尋ねさせて頂こう。

 先程、小生たちの目の前で偽のサボテンくん殿は煙となって失せてしまった。

 その様子についてだが、もしや詰所の近衛騎士団が消えた時に類似しているのではないかな?)


 伯爵のその問いかけに、フィグゼスはすぐに答えなかった。

 記憶を探っているのだろうか、しばらく考え込み……やがて小さく頷いた。

(確かにその通りだ。よく気づいたな。俺は指摘されるまで判らなかった)


(小生も伊達に千年は生きていない。物を見る目は養っているつもりだ。

 ……ふむ。いくつか曖昧模糊とした点は残るが、小生には真相が見えてきたようだ。

 これ以上整理する事実もないだろう。諸君、推理を披露させて頂いても宜しいかな)


 伯爵は自信満々の表情で一同を見渡した。

 なんだろうこの「どうせろくでもないことを言いだすんだろうな」感。

 きっと妄想だらけのトンデモ推理が飛び出すに決まっている。

 伯爵の推理が、せめてたたき台程度になればいいのだけれど……。

次回のタイトルは「第四十二話 その三 推理伯爵」です。

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