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第四十二話 その一 扇動伯爵

誰しも思いがけない才能を持っているものです

 サボテンくんは私が一番最初に作った精霊人形で、そのせいだろうか他の子たちからは別格の存在として扱われていた。もしかすると元は概念神だったことも関係しているのかもしれない。

 そんな相手に護衛はいらないと命じられれば逆らうわけにもいかないわけで、フィグゼスを一方的に責めるのは酷というものだろう。


 こういう時に大事なのは視点を変えることだ。

 お父様のために人手を割かずに済んだということは、その分ほかのところに回せたわけで。

(宮廷貴族や皇族たちに怪しいところはなかったかしら)

 私がそう問いかけると、フィグゼスは待ってましたとばかりの勇み調子で答え始めた。

(老貴族のほうは普段と変わらん。ひたすら酒色におぼれるばかり、御父上を陥れようとする動きすら見られなかった。

 次に皇族だが、こちらは興味深い情報を得た)


(彼らがお父様を罠にかけたというの?)

 そんな馬鹿な。

 多くの貴族が皇族をただのお飾りとみなしている中で、お父様は数少ない"忠臣"のひとりだったのに。


(否だ。おそらく姫様にとっては想像すらしなかったことと思われる)

 そう言われると、すごく気になる。

(皇族たちの間ではこのように囁かれているのだ。

 ウイスプ家が精霊の力でもって宮廷貴族を一掃し、皇帝と皇族に再び栄光をもたらしてくれる、と。

 この噂はかなり信憑性の強いものとして広まっている。皇族の中には「決起の日はまだか」と鼻息を荒くしている者もいるようだ)


(どういうことよ、それ……)

 私の頭の中は大量のクエスチョンマークで埋め尽くされていた。

 いったいぜんたい、なにがどうなってこうなったんだろう。 

 理解できない。

 私は腕を組んで考え込まずにいられなかった。


 一方で。

(なるほど、小生の2年に渡る地道な努力が実を結んだわけだな)

 伯爵はさも当然と言った様子で頷いていた。

 ……自分ひとりで納得されても、困る。

 私の内心を察してくれたのだろうか、フィグゼスが説明を加えてくれた。


(伯爵は常々こう公言していたのだ。

「アルティリア・ウイスプは初代皇帝ヴァルトの姉、ラスティユ・ステイブルの生まれ変わりだ」と。

 普通ならば狂人のたわごとと一蹴されるところだろう。

 だが伯爵には千年の重みがある。皇族や帝都の民にとっては伝説的な人物、その影響力は計り知れん)


(フィグゼス殿、それだけでは不十分だ)

 不満そうに口を差しはさむ伯爵。

(小生はさらにこう煽り立てていたのだよ。「歴史は繰り返す。精霊に愛されし姫によって帝国の腐敗は正されるだろう」とな)


 うわ。

 つまり伯爵のせいで皇族たちは変な勘違いをしてしまったことになる。

 人が見てないところでなんてことをしてくれてたんだろう、この職なし誘拐魔。


(小生としては姫が帝位に就くべきであるとの風潮を作り出す心積もりであったのだ。しかし言葉というものはひとたび放たれれば思いがけぬ結果を生むもの。そのひとつがソリュート殿の大逆だったのかもしれんな……)


 えっと、その、なんというか。

 伯爵の頭の中はずいぶんと幸せなことになっているらしい。


 うーん。


 ……もう、いいや。

 伯爵は伯爵のまま生きていけばいいんじゃないんだろうか。


(姫、いかがなさいました。小生の顔になにかついていますかな)


(何でもないわ。話を進めましょう。

 フィグ、ここまでで背景の事情はよく理解できたわ。ありがとう。

 それじゃあ、次は核心の部分、お父様が逮捕された時のことを教えてくれる?)




 * *




 はじまりは近衛騎士団に届いた一通の密告文だった。


 ――畏れ多くも皇帝陛下を暗殺しようとする企てがなされている。

 ――自分は良心の呵責に耐えられず、こうして告発の手紙を届けたのである。

 ――首謀者はソリュート・ウイスプ。娘の力を己のものと勘違いした、度し難い愚か者である。


 そのような内容だったという。

 普通ならば真偽を確かめるべくお父様を取り調べ……となるのだけれど、騎士団の面々は最初からこう決めつけていた。

 宮廷貴族たちの陰謀だろう、と。

「ソリュートのやつがこんなバカなことをするわけがない」

 騎士団の団長・副団長クラスには魔法学院の同期がずらりと並んでいて、お父様は彼らから深い信頼を得ていたのだ。


 では疑いをかけられた宮廷貴族たちはというと、あのウイスプ家を陥れる絶好の機会と大興奮……とはならなかった。

 むしろこれから起こるであろう事態に恐れおののき、互いに不安を口にし合うばかりだった。

「ソリュートを嵌めるにしてもやり方があるだろう。ヤツが皇帝を暗殺するなど誰が信じるというのだ」

「問題はこれからですぞ。近衛騎士団を初めとして誰もが我々の策略だと疑っておるのです」

「まずいな。いまソリュートが兵を挙げれば誰もがあちらにつく。ヤツは明確にして直接的な大義を得てしまった」

「この件、むしろあやつの自作自演では? 我々を武力でもって排するための名分を欲してのことではないですかな」

「そんなことを言ってもどうにもなるまい!

 問題はこれからだ。今にソリュートは人形どもを率いて攻めてくるぞ。

 我々がウイスプ家にしてきた仕打ちを思いだせ。皆殺しにされてもおかしくないのだ!」

 


 さて。

 忍者人形たちだけれど、彼らはこれまで以上に忙しく帝都を飛び回ることになっていた。

 というのもお父様が姿を忽然と消し、サボテンくんからの定時報告も途絶えていたせいだ。

 探せるところはすべて、橋の下やら建物の隙間までも探しつくした。



 それでもなお見つからず、フィグゼスが頭を抱えた矢先――



 事件は、起こったのだ。


伯爵は賢者の天敵だったりします(会話が成り立たない)

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