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第三話

応援ありがとうございます。ちょっと明日は忙しくなりそうなので2日分まとめてここに投稿することにします。

 エルスタット・ロゼレム。


『ルーンナイトコンチェルト』の攻略キャラの1人だ。


 切れ長の目と端正な顔立ちは鋭さを感じさせ、どこか近寄りがたい空気を生み出している。


 性格は気ままな一匹狼そのもの、魔法学院に所属してはいるけれどあんまり授業には出てこない。


 ではいったい何をしているのかといえば、毎日のように闘技場へと通っていたりする。


 学業をおろそかにして賭け試合に熱中している公爵閣下のどら息子……ではない。むしろそっちの方がマシだろう。


 なんとエルスタットは自らの素性を隠して試合に出場しているのだ。


 狼を模した兜で顔の上半分を隠しているのだけれど、なんというかネタを通り越してかえって格好いい姿になってしまっている。私はけっこう好きだ。好き過ぎて兜を作ってしまった。二番目の兄がオタクなのでプレゼントしてみたらものすごく喜ばれた。ネットでも大ウケしていてAAもたくさん生み出されている。


 それはさておき。


 賭け試合は時として獰猛なモンスターを相手にすることもあり、下手をすれば命だって落としかねない。


 どうしてそんな危険なことをしているのかといえば――


「金も権力もくだらない。公爵の息子? 譲ってほしいなら誰にだって譲ってやるさ。剣さえあればそれでいいんだ」


 エルスタットは幼いころに抱いたあこがれを捨てきれないでいたのだ。


 剣に生き、剣に斃れる生き様。


 公爵の世継ぎという、ある意味でひどく窮屈な立場にある自分とは真逆の在り方。


 本来なら流れる日々の中でいつしか忘れてしまうはずのその夢を、けれどエルスタットは今も持ち続けていた。


 そして理想と現実の間に折り合いをつけることができず、その苛立ちが彼を闘技場へと駆り立てていたのだ。


 さて、彼のルートでは当然のことながらこのへんの苦悩が焦点になってくる。

 怪物じみたメンタルを持つ我らが主人公ちゃんはどうするのかといえば、ひたすら根気強く彼の夢語りというか愚痴に付き合ってあげるのだ。


「本当のオレは学院にいない」とか「夢という名の呪いに憑かれているんだ」とか。


 綺麗なCGと声優さんの素敵な低音ボイスのおかげでプレイ中は萌え転がりっぱなしだったけれど、冷静に振り返ってみるとコレってめちゃくちゃ痛々しい発言ばっかりだ。たぶん10年後くらいにエルスタットは枕に顔をうずめてうわーとか叫んでいるに違いない。


 というか主人公、よくも平然と聞いていられたものだ。カウンセラーとか向いてるんじゃないんだろうか。


 さすが主人公、すごいぞ主人公。私だったら相手がどれだけイケメンだろうと逃げ出す。はったおすかもしれない。


 * *


 ……ということを私はサボテンくん人形にぶちまけてみた。


 げんきだしてーとサボテンくんはなでなでしてくれる。本物だったらトゲがちくちくするけれど、これはあみぐるみだからだいじょうぶ。

 むしろふわもこで癒される……。


 ふう。


 少し落ち着いてきた。


 うーん。


 意思があるとはいえ人形に向かってマシンガントークをかますのはどうなんだろう。いつのまにやら変な癖がついてしまった。

 まあ今の私は"人形姫"なわけだからむしろ自然なこと……のわけがないか。端から見れば不気味に違いない。

 けれど前世がらみのことなんて他人に吐き出せないし仕方ない、仕方ないんだ、うん。


 それよりこれからのことを考えよう。


 サボテンくんのおかげでちょっと前向きになれた。


 冷静に考えてみれば私ことアルティリアにとってエルスタットは父の友人の子供でしかないのだ。


 攻略対象キャラでもなければ婚約者でもない。

 すでに剣に心を奪われてめんどくさくなっていたなら、最低限のやりとりだけに留めて後は総スルーしてしまえばいいのだ。


 それよりも降って沸いたチャンスに目をやるべきだろう。


 人形使いとしての私はそれなりの域に達している。

 この実力を発揮してロゼレム公爵を上手にもてなすことができたなら、それはきっとお父様との交渉で有利に働くはずだ。


 よし、頑張ろう。


 私は気を取り直してベッドから起き上がる。

 あまりのショックに部屋で頭を抱えていたのだ。


 まずは……全員、集合!


 ロゼレム公爵が来るのは明日だ。


 今日は徹底的に掃除をしよう。もちろんお父様へのアピールもかねている。


 指を鳴らせば家じゅうの人形たちがぞろぞろと集まってきた。


 ナイト、メイド、悪魔、白クマ……統一感なんて言葉からはほど遠い私の仲間。姿形が能力に影響するかを調べるためにいろいろ試した結果だ。


 人形にはそれぞれ精霊が宿っていて、その属性によって大まかに得意不得意が決定される。


 風精霊が宿ったものには屋敷の掃除、土精霊には庭の手入れをお願いすることにした。


 水精霊の人形には汚れた子たちを洗ってもらったり、誤って怪我をしてしまった子を治療してもらおう。


 火精霊は……どうしよう。みんなやんちゃだから色々やらかしてしまいそうだ。普段ならともかくお父様が帰ってきている今はまずい。


 えっと。


 いつも通り山とかで領地の子供たちと遊ぶ方向で。


 あ、そんなしょんぼりしないで。

 いつかきっと活躍の舞台を用意してあげるから。

 うん、ほんとほんと。


 * *



 人形たちを指揮監督する立場にある私としては部屋でのんびりくつろいでいるわけにはいかない。


 可能な限り現場に身を置き、状況の変化に応じて適切な命令を下すのが重要なのだ。


 庭、玄関、廊下、食堂――家じゅうを歩き回る。


 やがて階段のところでお父様に出会った。


「やあ、アルティ。きみは私の知らない間にずいぶんと立派な魔法使いになったんだね」


 あいかわらず聞き心地のいい穏やかな声だった。


 ソリュート・ウイスプ。私の父でありこの国の外交を取り仕切っている大臣の1人だ。


 私と同じ金髪碧眼だけれど、人形めいた冷たさとは全くの無縁だった。その表情にはいつも暖かみが溢れていて、ついつい甘えずにいられなくなる。


「そういえば家庭教師たちが言っていたよ。アルティは覚えが良すぎて来年には教えることがなくなってしまう、とね」


 もしも私の計画がうまくいって学院に通わないことになった場合、ある問題が発生することになる。

 礼儀作法や一般常識についてはこの家以外に学ぶ場所がなくなってしまうのだ。

 だから私は前世の受験以上の熱心さで勉強に取り組んでいた。


「すごいじゃないか、きみは自慢の娘だよ」


 お父様は大きな手で私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。


 嬉しいやら照れ臭いやら。ついついうつむいてしまう。


 逸らした視線の先では天使の人形が窓をごしごしと拭いていた。


「しかし、本当に見事な人形たちだね。昔を思い出すよ」


「お父様の知り合いに人形使いがいらっしゃるのですか」


「ああ、ギルドメンバーの中にいたんだ。けれど今のきみのほうが優っているかもしれないね」


 ……え?


 ちょっと待った。


 今なんだか妙な単語が聞こえたような。


 ギルド、メンバー?


「そういえばアルティには話していなかったかな。若気の至りというやつかな、僕は昔、冒険者をしていたんだよ」


 たしかにここは中世ファンタジー世界だし、攻略対象キャラにも冒険者はいるけど……今のお父様のイメージからはあまりにもかけ離れている。


 剣やら魔法やらでスライムとかトロールを退治していたんだろうか。


 正直、想像もつかない。


「折角だから少し思い出話をしよう。おいで、アルティ。立ち話もなんだ、紅茶でも飲もうじゃないか」


裏設定1

 闘技場にエルスタットが出場していることは、実のところ公爵に筒抜け。周りは彼が大怪我を負わないように気を遣っている。このことはエルスタットルートの終盤で明らかになる。


裏設定2

 サボテンくんには別れた妻と息子がいる。

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