第二話
お気に入り登録、評価ありがとうございます。初投稿なのにこんなに反応していただけて正直驚いています。頑張ってきますのでよろしくお願いします!
鏡に映った少女はビスクドールじみていた。
血が通っているのか心配になるくらい白い肌は幻想的な雰囲気を醸し出している。もしも頬にわずかな紅が差していなかったら冥府の住人と勘違いされてしまうかもしれない。
大きな瞳はブルーサファイアを嵌めこんだようで作り物めいた印象を一段と強くしている。
髪はつややかな金、ドレスは瞳と同じ青。
全体としてみれば……ツンと澄ました感じでなんだか近寄りがたい。
それが今の私、"人形姫"アルティリア・ウイスプだった。
* *
「お嬢様のおかげで屋敷の掃除もずいぶんと楽になりました。ありがとうございます」
とは家令のワーレンさんの言葉だ。
ロマンスグレーの男性ってのはわりと好みなので褒められるのはとても嬉しい。
だからついつい人形作りにも精が出る。
魔力を込めながら糸を編んでいく。前世で鳴らした手芸の腕前は健在、むしろ生まれ変わってますます磨きがかかっている。
私は魔法人形たちに屋敷の掃除や庭の手入れを命令する。最初はメイドや庭師の邪魔になってしまっていたけれど、今ではうまく協力できているみたいだ。
前世の記憶を取り戻してからというもの、私はひたすら"人形姫"としての力を伸ばすことに邁進していた。
本編のアルティリアは名門としての体裁にこだわるあまり、一般的な魔法の習得にばかり力を注いでしまっていた。
けれど設定資料集によれば彼女の才能は魔法人形に特化していて他は平均以下らしい。
自分の向き不向きを知っているのは大きなアドバンテージだ。
他の魔法をばっさりと切り捨て、可能な限りの時間を魔法人形につぎこむことにした。
今の私は糸がなくたって魔法人形を生み出せる。例えば山の中なら木の枝を草で結わえればいい。
ゆくゆくは錬金術も学んで幅を広げ、ウイスプ家が滅びても身を立てられるようにしておきたいと思っている。
正直なところ、私が王都の魔法学院に通うメリットは全くない。行ったところで錬金術は身につかない。
画一的な指導方針のもとで不得手な魔法を学ばされるだけだ。
ゲームのキャラクターに会えるというのは……あんまり魅力的じゃない。
彼らはイケメンだけれど一癖も二癖もある。萌え転げられるのはモニタ越しだからこそであって、実際に関わるのはちょっと遠慮したい。
あと、正直なことを言うと主人公がこわい。
あの善意の化身みたいな子を前にしたら、きっと後ろめたさとか恥ずかしさとかで死にたくなるに決まっている。本編みたいにイジメに走ってしまう可能性だってある。
そういえば公式サイトにあがってたSSによると、もともとのアルティリアは見た目通り物静かで健気なお嬢様だったとか。それが主人公に関わってからというもの、情け容赦ない性格に豹変してしまったらしい。
もしかすると私もそうなるかもしれない。
……とまあそういうわけで私としてはお父様を説得せねばならないのだ。
どうやら魔法学院に通わせたいようだけれど、それをどうにかこうにか変えさせたい。私としては他の人形使いか錬金術師のところへ修行に行かせてほしい。
今こうして人形たちに屋敷の手伝いをさせているのは根回しの一環だったりする。
お父様は頑固だけれど家令のワーレンさんの言うことには必ず耳を傾ける。最近の手ごたえを考えるに、きっと援護射撃をしてくれるはずだ。
もうすぐ8歳の誕生日、宮廷で忙しく働いているお父様もさすがに屋敷に戻ってくる。この時に話をしてみるつもりだった。
けれど帰ってきたお父様の言葉があまりにも衝撃的で、私はそれどころではなくなってしまう。
「アルティ、急な話ですまない。明日、ロゼレム公とその御子息が訪ねてくることになったんだ。きみの誕生日を祝いたいとのことでね」
ロゼレム公の、子供?
それって、たしか……。
「エルスタット君はアルティと同い年だったね。魔法学院ではクラスメイトになるだろうし、今のうちから仲良くなっておくといい」
エルスタット・ロゼレム。
聞いたことのある名前だ。
というかどんな人物かもよく判ってる。なにせ攻略対象キャラの1人だったんだから。
そういえばアルティリアとエルスタットは古くから続いた公爵家同士で知り合いなんて設定もあったっけ。
うわ、どうしよう。
まさかこんなところで関わるとは思ってなかった。
あ、でもまだ8歳なんだよね。
どうか本編みたいなめんどくさい男になる前でありますように!
……どうめんどくさいのかって?
捨てたはずの夢を捨てきれない系男子なのだ。