屈辱の日その2
(来たか…)ゆっくり顔をあげると、案の定真夕が目の前に立っていた。先ほどとは違い睨んではいないが、まなざしは相変わらず強い。その背後には、真夕と仲良しの里沙・葵・美央・文香が控えている。そのまた後ろでは、野次馬が何事かと様子を見ている。その中には舞美もいた。
「何でずっと笑ってたの」抑揚のない問いかけが冷たく響く。みるみるうちに血の気が引いていくのを感じた。
「い、一組がみんな、変な顔してたから…」
「だからなんなんだよ」声を振り絞って弁解したが、真夕にかき消される。三香子はビクリと肩を震わせ押し黙った。
「だからって、ニヤニヤする理由になんのかよ」一気に鬼のような形相になる真夕。三香子は次の罵声に備え、身をかたくした。それを待っていたかのように、真夕が大きく息を吸って叫ぶ。
「私、本気で勝とうとしない奴って大嫌い!!あんた、そんなんだからダメなんじゃないの、何しても!!」鋭い言葉が突き刺さる。あまりの衝撃に何も言えずにいるうち、真夕は背を向け出口へ走っていった。それを仲良し達が「あーあ」とか「やっちゃった」とか言いながらついていく。野次馬達も足早に去っていった。その顔は気の毒そうだったり、見下げるようだったりして様々だった。ふと舞美と目が合ったが、すぐに背けられてしまった。しかし真夕の言葉に打ちひしがれている三香子には、そんなことに傷つく余裕すらなかった。(大嫌い、そんなんだからダメ、何しても…)一人になった体育館で、さっきの言葉が頭をまわり続けていた。