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屈辱の日

そもそもなぜ腑に落ちないのか。三香子はその原因を思い出す。


転校してから一年経ち、三香子は三年生になった。四月初旬のクラス替えが終わり、慣れないながらも二週間経ったある日。五時間目が、手違いで両クラスとも体育になっていた。どちらの担任も、面倒くさいのか授業変更はしなかった。代わりに、急きょ学級対抗でドッヂボールをしろと言いつけられた。喜んだり戸惑ったり皆それぞれだったが、とりあえず準備を進めた。それが終わると早速試合が始まる。

一試合目、二組は終始優勢で勝利する。新クラスには、男子が大久保・茂原、女子が真夕という、運動のできる三人が揃っていたからだ。しかしクセを読まれたのか、三人は二回戦で早々に外野へ送られた。一度だけ、茂原が敵にボールを当て戻ってきた。だが投げられた球を取りこぼし、一分もしないうちに外野へ逆戻りした。茂原には、そういう迂闊なところがあった。その後みんなで頑張るが、そこそこ動ける子から消えていく。そのうち運動ができない子もバシバシ当てられ、気づけば三香子だけになっていた。対して相手は六人も残っており余裕だ。“できない方”の三香子は当然受け止められず、四方から飛んでくる球を必死でよけた。

「三香子後ろ気をつけろー」

「転がってくるまで耐えてー」敵内野の周りから、味方の声が聞こえる。それを頼りに逃げる三香子だったが、四分もするとさすがに疲れてきた。(いつまで続くんだろう)朦朧とする意識で、ふとそんなことを思った時。正面内野、一組の男子が鼻をふくらませていた。もともと笑い上戸の三香子はそれまでの疲労も相まって、つい吹き出してしまった。

「三香子ふざけるなー」

「ちゃんとやれー」二組から怒声が飛ぶ。だが、一度ツボに入ると止められない。そのうち、一組のほぼ全員が、色々な変顔をしはじめた。やっていないのは、真面目なさおりんとマキティーくらいだ。どの表情も力作で、悔しいが笑ってしまう。

「何してんだお前は!!」

「いい加減にしろや!!」徐々に酷くなる罵声に戸惑い、笑いながらも担任を振り返った。先生は四メートル程先の壁にもたれ、一組の担任と観戦していた。担任はすぐ三香子に気がついた。しかし笑顔で頷いただけで、介入はしてくれない。どうやら目の前の光景を(微笑ましいもの)と思っているようだった。あわてて一組の先生を見たが、同じく微笑んでいた。今すぐ駆け寄り「違うだろうがっ」と言って張り倒したい。三香子は怒りを覚えたが、いかんせん笑っているので説得力がない。諦めて再び前を向こうとした時、右端の外野が動いた。(やばい)そう思った次の瞬間、トンッ、という優しいタッチのボールが背中に当たった。ホイッスルの音が空しく響くと、一組から歓声が沸き起こる。対して二組の皆は、死んだように脱力し何も言わない。その中で真夕だけが、鋭い目つきで三香子をねめつけていた。(何か言われたらどうしよう)思わず身構えたが、すぐにチャイムが鳴った。一応組ごとに整列し、終わりの挨拶をする。皆が蜘蛛の子を散らしたように出口へ向かう中、三香子だけが立ち止まっていた。一緒に歩くのは気まずいので、最後尾につこうと考えていたからだ。

「あーあ、誰かさんがしっかりやってたらなぁ」大久保が捨て台詞を吐きながら横を通過する。何も言えずうつむいていると、「おい」と険のある声で呼び掛けられた。

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