家にて
予選が終わった夜の話です。
その日の夜、帰宅した三香子は、母と弟の三人で夕食をとっていた。向かいに座る弟はまだ一歳で、母は隣でご飯を食べさせている。三香子が黙々と白米をかきこんでいると、母が手を止めて話しかけてきた。
「ねぇ、どうだったの」
「どうだったのって、なにが」
「そりゃあんた、選抜リレーのやつに決まってんでしょ」三香子が前から練習していたのを母は知っていた。その日の登校前も、「頑張ってね」と三香子を激励してくれたのだった。
「ダメだった」仕方ないので素直に答えると、即座に「誰?」と聞かれる。(もうちょっと気遣ってくれよ)心の中で嘆きつつ
「渋沢真夕」吐き捨てるように言った。
「あぁ、バドミントンのね」三香子の思いなど露知らず、興味なさげに母が返す。すでにご飯を食べさせる態勢に入っている。
「やっぱり向こうの方が一枚上手だったのね」顔は弟に向いたまま、呑気に笑った。そんな言動を見て、腹立たしくなった三香子は「どっちの味方なの」語気を強めて尋ねた。
「あんたが頑張ってたのはよく知ってる。でもその子が一番だったんだからしょうがないでしょう。また来年もあるじゃない」今度は三香子の方を向き、真剣に諭される。その切実さに気圧され、思わず「うん」と頷いた。しかし、何か釈然としない気持ちを拭いきれずにいた。
ありがとうございました。