転機
続きを書きましたので読んでいただきたいです。
激しい呼吸音と拍動が、耳に響く。肩で息をする三香子を横目に、真夕を囲む集団がワッと声をあげた。(負けた…)その歓声が、三香子に敗北を印象付けた。午後の穏やかな日差しすら腹立たしい。六月中旬の運動会が、一ヶ月半後に迫ったその日。校庭では、三年二組が選抜リレーの選手決めをしていた。男子十五名、女子十六名で構成される二組から、それぞれ一人ずつ選ばれる。五時間目の始め三十分は、四人一組で計四回レースを行った。そのなかで一位になった四人が再び走り、一番速い子が選手になれるのだ。前の学校でも美開小でも、余裕でリレー選手になっていた三香子。しかしその年は、二年生の時に他クラスでリレー選手だった真夕と、同学級になってしまった。運動神経抜群で、どんなスポーツもこなす真夕。去年などバドミントンの地区大会で優勝し、近所ではちょっとした有名人だ。対して三香子は短距離走だけが得意で、他の運動は苦手なくらいだった。焦りを感じた三香子は、選考日の二週間前から練習を重ねてきた。自主練はもちろん、昔陸上部だった父の指導も受けた。だから自信があったし、実際トラックの半周くらいまでは独走状態だった。(やっぱ余裕だったな)そう思った時、後ろから猛然と追ってくる足音がした。振り返ると、真夕が鬼のような形相で向かってきていた。必死で走るが、それ以上スピードが上がらない。まもなく(シュタシュタシュタ…)という軽やかな音が近づいてきて、三香子の隣に並んだ。(やばい)と思った時、真夕が颯爽と横を通り過ぎていった。
荒い呼吸が落ち着いた頃、三香子はもう一度真夕を盗み見た。
「実は三日前から練習しててさぁ」事も無げに友人に話す笑顔を見て(ふざけんな、くそが)聞こえぬように口の中で罵った。
ありがとうございました。