色々と驚きの事情たち前半戦
前回と視点が変わります。
主人公がこれで揃いました。
「こちらです、どうぞお入りください」
「あ、はい」
同い年か少し年上くらいに見える青年に案内されて、何やら大きな建物に着いた。うん、華美過ぎない辺りはオレ的に好きだな、ここの装飾。そんな事を言ってる場合じゃない。
さっき落ちてきたときには、オレが住んでいた所とは全く違った地形だと思ったんだよな。もしかしたら焦って見間違っただけかもしれないけど、本当にここはどこかオレの知らないところなのかもしれない。さてここはどこだ。
オレを空中で拾ってここに連れてきた竜というのは今目の前にいるこの青年らしいし、その時点でも今のオレにおける常識が通じていないことになる。
彼が人のくくりに入るのか竜という一種の魔物のくくりに入るのかがまず分からなかった。それに竜ってのは災厄であってそこらにいるモノではなかったはずなんだが…。何だかいきなり異世界に飛んできたような気分だな。あながち的外れな感想でも無さそうで笑えない。
目元が若干スースーする。どうやら気付かないうちに怖すぎて半泣きだったようだ。恥ずかしくなったので袖で拭い、青年が待つ扉の向こうへと足を踏み入れた。
何やら5人の老人と、こちらに背を向けて座った暗青色の髪の人物が楕円のテーブルを挟んで歓談している。先程の青年は奥にいた少女の隣に並んだ。
老人たちはそれぞれが違う色の服なので何だかカラフルなのに対し、背を向けている人物は長髪を降ろしているため服もほとんど見えない。ここからだと性別すら分からなかった。
5人の中心に座った黒服に紫の肩掛けの老人がこちらに気付いたらしく、立ち上がりひとつだけあった空席を示す。彼の斜向かい、背を向けている人物の隣だった。
「おお、よくぞいらっしゃいました。どうぞ座って下さい」
「あ、えと、はい。失礼します」
誰にともなく断りを入れて座り隣を窺うと、座っていた人物もこちらを見ていたようで、真正面から視線がもろにぶつかり気まずくなる。
長くて綺麗な髪をしていたからてっきり女性かと思っていたが、同じ年くらいの青年だった。優しそうな印象の人だ。
お互いぎこちなく笑って視線を前に戻す。なんか超恥ずかしい。
今さら気づいたけど椅子に乗せられているクッションがやたらとふかふかだ。これいいなぁ、抱えてもふりたい。どっかで売ってないかな。
「さて、お二人が揃ったことですし、まずは自己紹介と致しましょう。
私はエルド・ダルケル、この里の長を務めております」
丁寧に礼をして座る老人。やはり先程から中央にいた彼が長のようだ。オレと青年も座礼を返した。
その後、長が順に居並ぶ老人たちを紹介し(しかしめちゃめちゃ退屈だったもので全然名前を覚えられなかった)、青年の番になる。
促されて青年は立ち上がり、緊張しているのか一度大きく溜め息を吐いて話し始めた。
「えっと、俺はルーク・ウィルジアって言います。19歳、冒険者してます。今は武器とか持ってないですけど」
よろしく、と軽く頭を下げて座る。
歳が近そうとは思っていたけど、同い年だったか。お前も落ちてきたんだとしたら災難だったな。
内心言いつつ、次はオレの番なので立ち上がった。
「オレ、いやえっと私はカイ・エルトレイです。ウィルジア君と同じ19歳、術師兼剣士です。
…外見でよく男性と間違われますが、一応女です。よろしくお願いします」
「おや、これは失礼しました。私もてっきり男性かと」
「慣れていますので、構いませんよ」
うん、予想はしていたけど男性だと思われていたみたいだね。
まぁ仕方ないよな。眼帯なんてした女オレは自分以外に見たことないし。身長も高い方だし。…あんまり胸ないし。
気にしても仕方ないとは思うけどやっぱり少しは気になるんだよな、どうすれば間違われなくなるんだろうか?
「これで全員の自己紹介が終わりましたな。では、本題に入りましょう。
お二人は気になっていらっしゃるのではありませんか?ここが、一体どこなのか」
「そうですね、元々いたところとは離れているどころの騒ぎでは無さそうですし」
オレも無言で頷く。全く同意だった。
「では、早速説明致しましょう」
そう言って長は部屋の端、さっきオレを案内してきた青年に目配せを送った。
青年は後ろの棚を開け、何やら大きな丸めた紙を出す。すごく持ちづらそうだ。
それを受け取った長が大きなテーブルに紙を広げると、古い紙特有の匂いがした。どうやら世界地図らしい。
結構古いらしく、丸めてあったのに綺麗に広がった。紙がもう柔らかくなっているみたいだな。
「現在地はここです」
指されたのは地図の端、もう本当に端っこのほうの山だった。
ここが“世界の果て”ってやつだと言われれば納得してしまいそうだ。というか果てだろうこれはどう見ても。
「…すごく、端っこなんですね」
「そうですな、世界の果てと呼称されております」
やっぱりか!
ルークは端っこと呼称したものの果てだとまでは思っていなかったらしく、少々驚いた顔をしている。
「まぁ、地図にない部分も多分にありますが。
これは我らの作った地図なのですが、ここに記していない範囲は特に何も無かったのでまだ書き込んでいないのです。必要が無かったので。
…ともかく、この地図を見て、何か気付くことがありませんか?」
「気付くこと、ですか」
よく分からない、といった感じのルークと反対に、オレにははっきりと分かったことがあった。
とりあえず挙手。はいどうぞ、と促されてオレは気になっていたことを言葉にした。
「オレの世界にあった地図と、全く違います。
…もしかして、なんですが。ここは、オレが今までいた世界とは違う世界だったりするんでしょうか?」
ほう、と長たちの目が微かに見開かれたり細められたりした。そんなに驚かれるようなこと言ったんだろうか?
ルークに至っては「は?」といった感じでぽかんとしている。こいつはもしかしたらちょっと馬鹿なのかもしれない。
「お気付きのようですな。
その通り、ここはカイ殿やルーク殿の暮らしておられた世界ではありません。
もう一つ申し上げますと、お二人は違う世界からいらしたようですね」
確かに、着ている服などの雰囲気がオレとルークでは違っていた。
…まだルーク固まってるんですけど。いい加減叩き起こすべきかな?
「いてっ」
後頭部を叩くと軽く抗議の視線が来たが無視。
「…こほん。
さて、一つあなた方に伺いたいことがあります。
お二人は、“ハコ”を開けましたね?お二人が開けたのは、何色の“ハコ”でしたか?」
「「金色です」」
「…」
オレとルークの回答は全く同時な上に一言一句同じだった。
…ちょっと待て?何で長の皆さん絶句してんの?いかにも「驚愕!」って顔してんの?
「…本当に、金色だったのですね?」
二人とも頷く。
「…“ハコ”というのは、いつの頃からか存在する未だ知られていないところの多い物です。
分かっているのは、いつの間にか適応する人間の手元にあり、開けることが出来れば開けた者は力を手に入れる、ということ。
そして、“ハコ”の色により宿す力の大きさが決まっていて、金色が最強であるということです」
意味が分からなかった。いや、頭が意味を理解するのが遅れた。
魔術やなんかに関して才能の無かったオレは、術師を志したもののどうにもならず剣士を兼ねるようになり、それでも最近では転職を勧められることさえある程だったのに。
そのオレが、力を手に入れたと?
そんなことが、あるものなんだなぁ…物語の中くらいかと思ってた。
ルークの方を窺うと、やはり彼も驚いたらしくまた間抜けに思うくらいぽかんとしていた。
それを見たことで逆にオレとしては少し落ち着いた。さぁ次はどう来るか。もうそこまで驚かなさそうな気さえする。
「さて、そうして“ハコ”を開けることで宿す力のことですが。
力というよりは、正確には種族自体が変わるようなのです。元が人間であっても、亜人であっても、姿をそのままに本質的な部分が変わるようなのですよ。
“ハコ”を開けることができた者は、竜化の力を宿すようなのです。我々ここに住む民のように。
我らも皆、“ハコ”を開けた者なのです」
…はい?
更新ペース遅くてすみません。
もう少し早くしたいのですが…
こんな感じの不定期更新になってしまいそうです