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リグレット・コレクター  作者: 天そば
第三章 文化祭二日目
37/42

解決編1 犯人はあなたです

22(大原あかり 13)


「嶋君たち、あとどれくらいかなあ?」


 私の呟きに、さあねえ、と柚香が首を傾げる。


「もう後夜祭は終わったはずだから、順調ならあと二、三分後には来られそうだけど」

「順調にいってるかどうかが問題なんだよな。良次と川口妹だし」


 藤井君の言葉に、ちょっと言えてるかも、と思ってしまった。

 犯人をグラウンドまで連れてくるのは嶋君と柚希に任せて、私たちはいま、バックネット裏で待機している。


 嶋君は、とりあえずなにかしらの口実をつけて連れてくるよ、と言ってたけど、ペアゲームでのヘタレっぷりを見てるとちょっと不安だ。

 まあ、ね。ゲームではあんなだったけど、部活中はみんなを引っ張るいいキャプテンだ。こういうときは大丈夫だろう。

 グラウンドに風が吹く。ちょっと寒くなってきたな。


「柚香、体調は平気そう?」

「うん。ま、なんとかなるかなって感じ」


 よかった。……それなら、帰りに歩きながらでも柚希と三人で話せるかな。


「あ、来たんじゃね?」


 藤井君の言葉にはっとして入り口に目を向けると、グラウンドに入ってくる人影が見えた。照明がついてないからよく見えないけど、三人ほどに見える。ごめん行くわ、と、柚香はすぐ傍にある用具入れの後ろに身を隠した。もしあの人が犯人じゃなかった場合、柚香の姿を見られるのはまずいからだ。

 やがて、嶋君と柚希が、私たちのほうへやってきた。後ろにいるのは紛れもなく、嶋君が犯人だと推理したあの人だ。


「すみません、わざわざこんなところまで。こっちにいるのは、野球部の藤井と大原です」


 嶋君が私たちを紹介する。どうも、と藤井君と頭を下げた。

 紹介された人は、困惑したような表情を浮かべている。それもそうだよね。急になんなんだって感じだろう。

 それを察してか、嶋君はさっさと本題に移った。


「ごめんなさい。写真を撮るっていうのとは別に、少し訊きたいことがあってここまで来てもらったんです」


 しばしの沈黙。そのあとで、訊きたいことってなに? と返す。


「昨日、何人かの二年生女子の学生証が盗まれる事件があったんですが、そのときにですね、『学生証コレクター』という人からの犯行声明みたいなものがあったんです。私を捕まえたら五千円、って。……すみません、違ってたら遠慮なく言ってください。……この学生証コレクターって、あなたじゃないですか?」


 絡め手は使わず、真正面だ。緊張が辺りを支配する。

 やがて、どうしてそう思うんだと相手が尋ねると、嶋君は再び口を開いた。


「話せば長くなるんですが……実はですね、ここにいる川口の妹の学生証も盗まれたんですよ」


 そうなんです、と柚希。


「あの、わたし、昨日は間違えて妹の鞄を持ってきちゃって。その中に学生証も入ってて、それが盗まれちゃったんです」

「昨日のペアゲーム終了後に、各クラスの教室の前に盗まれた学生証が返されてたんですけど、川口の妹さんのだけ返されてなかったんです。彼女の妹は武広高校の生徒ですから、他のと同じように扱うわけにはいかなかったんでしょう。ですが今日、ペアゲームが終わったあとに部室に行くと、そこに妹さんの学生証が置かれていました」


 じゃりじゃりと、その人は靴底で地面を擦った。


「今日になって返せたのは、川口がゲーム中に武広高校に妹がいると言ったからでしょう。彼女は妹と名前も似てますし、顔もそっくりです。それを聞いて、武広高校の学生証は、ここにいる川口の妹のものだったとわかった。

 だけど奇妙なのは、犯人が学生証を返した時間帯です。藤井がゲーム終了直前に部室に行ったんですが、そのとき学生証はなかった。そしてそのあと、帰りのホームルームが始まる前に部室に行くと、学生証が返されているのを発見した。つまり犯人は、ペアゲーム終了後からホームルームが始まるまでのわずかな時間に、学生証を部室前に置いていったということになります」


 事前に話を練っておいたのだろう、嶋君の言葉はすらすらと淀みない。


「昨日はペアゲーム中に学生証を返して回ったのに、どうして今日はそうしなかったんでしょう? ペアゲーム中は中庭に人が集中する。盗んだものを返すのには絶好の機会です。俺たちは今日に限ってそれをしなかった理由を、出場者や司会、裏方など、犯人もなんらかの形でペアゲームに参加していたからなんじゃないかと考えました」


 嶋君は相手の反応を窺うように、そこで言葉を切った。向こうはなにも反論してこない。


「……それで、それらの人たちに焦点を当てて考えてみると、学生証を盗むのが困難だった人や、犯人ではあり得ないと言い切れる人がいることがわかりました」


 嶋君は右手の人差し指、中指、薬指を立てた。


「最初に、裏方の人たちですが、この人たちは昨日も裏方としてペアゲームに参加していました。とすると、昨日のゲーム中に学生証を返しに行くことはできない。犯人候補から除外できます」


 薬指を折る。


「次に、ゲームの参加者ですが、大石先輩と宮本先輩は、最初から川口の所属部を知っていた。それなら昨日のうちに返せたはずなので、犯人の条件に合いません。

 それから、ある生徒の証言で、学生証が盗まれたのはオープニングセレモニー中だということがわかっています。セレモニーのあいだ、屋上から星をまいていた和田先輩も無理でしょう。犯人が川口の妹さんの学生証を返したと思われる時間帯に、ずっと中庭にいた谷先輩と辻内先輩も不可能。

 こうなると残るは本多先輩だけですが、彼女はセレモニー中、着ぐるみを着てクラスの宣伝をしていました。このことはさっき、本人に確認したのでまちがいありません」


 あの人に接触する前に本多先輩に確認をとるのは、ハナマル食堂での話し合いで決めていた。こういうからには、ちゃんと本人や周りのクラスメートに聞いて、着ぐるみに入っていたということを確実にしたんだろう。

 嶋君は中指を折った。残るは人差し指一本。


「参加者の中にも学生証を盗んだ人はいない。となると、残る候補は二人、司会だけということになります。そのうちの一人、小松先輩は川口とはかなり親しいので犯人にはなり得ません。とすれば、残るのは一人。栗原先輩、あなたしかいなくなるんです」

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