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リグレット・コレクター  作者: 天そば
第二章 文化祭一日目
21/42

ハナマル食堂の作戦会議 2

続・25(川口柚香8)


 そのあと、注文した料理が運ばれてきて、話は一旦中断された。

 あかりはきつねうどん、嶋くんは親子丼、藤井はカツ丼、柚希はおでん。割り箸を割りながら、柚希はわたしに尋ねた。


「柚香、なにか食べる?」

「うん。じゃあ……白滝ちょうだい」


 お店のおばちゃんが気を利かせて持ってきてくれた小皿に白滝を乗せ、はい、と渡してくる。出汁が染みてて美味しかったけど、やっぱり食欲はそんなになかったので、わたしはそれだけで箸を置いた。


「それでよ、明日は他にどうする? 朝早くに登校して学生証を探しはするけど、それ以外にもできることってあるよな」


 カツ丼を頬張りつつ、藤井。わたしは頷き、


「そうね。犯人の特定もできればしたいけど、最優先にすべきは誰にも見られずに学生証を取り戻すこと。すでに武広高校に届けたかわたしたちの家宛に投函したってこともありえるけど、そうじゃなかった場合のことを想定して動かないとね」

「そうじゃなかった場合って、まだ犯人が、わたしの学生証を持ってるってこと?」

「そうね。ちょっとほとぼりが冷めるのを待って、明日になったら落とし物を拾ったってことにして生徒会室に届けるってこともあるんじゃない?」

「あ、そっか」


 いま気づいたというように、柚希は口元に手を当てる。


「そうなったら、校内放送でわたしの学年とクラスが読みあげられちゃう……」

「完全にアウトよね。だから、そうならないように対策を立てないと」

「……じゃあ、こういうのはどうだろう」


 口の中のものをきちんと飲み込んでから、嶋くんが提案してきた。


「生徒会室のすぐ近くにベンチがあるだろ? あっちに誰か座っておいて、生徒会室に届け物をする人がいないか監視しておくんだ。届け物をする人がいたら、なにを届けているのかこっそり確認しておく。それが川口の学生証だったら、すぐに生徒会室に行って、武広高校の学生証の落とし物はありませんでしたかと訊いて回収すればいい。これなら放送で読み上げられることはないはずだ」


 な、なるほど。


「生徒会室にいた人には学生証を見られちゃうけど、それなら被害を最小限にできるわね。すごい嶋くん」


 いやべつに、と本人は謙遜したけど、すごいものはすごい。なんでここまで頭が回るのに女心はわからないんだろうと思ってしまうぐらいだ。

 うどんの汁にふーふー息を吹きかけていたあかりが顔をあげて、


「じゃあさ、一人は生徒会室の見張りで、他の人たちは聞き込みに回るっていうのは? 学生証を盗んだのはセレモニーの最中だってわかってるんだから、その時刻に理科室棟へ入ってった人を見た人がいないか探してみるってことで」

「そうだな。それから、学生証を返したのはペアゲームの最中ってこともわかってるから、その時間に教室棟に行った人がいないかも一緒に訊いてみたほうがいい」


 わたしも柚希も藤井も頷く。それから少し話し合って、なぜ犯人を探すのかと訊かれたときは、賞金の五千円が欲しいんですと答えること、一人の人が長時間ベンチに座っているのも変なので、生徒会室を見張る係は定期的に交代することなどを決めた。

 とりあえずこれで、明日の行動はおおかた決定したわけだけど。


「……ただ、そこまで有力な目撃情報があるかどうかが問題よね」


 言葉には出さないけど、正直かなり望み薄だと思う。セレモニーやペアゲーム中に辺りをきょろきょろする人ってあまりいないだろうし。

 これには、さすがの嶋くんも煮えきらない返事しかできなかった。


「そこは、まあ……。目撃した人がいたことを期待するしかないんじゃないか?」


 やっぱりそれしかないか。それでもし、なに一つめぼしい情報が得られなかったら、それはそれ。素直に犯人を探すのを諦めて、流れに任せるしかないだろう。


「思ったんだけどよ」


 さっきから珍しく黙りこくっていた藤井が、唐突に言葉を解禁した。


「犯人は盗んだ学生証を返して回ったが、川口妹のだけは返せなかった。これってつまり、犯人は川口姉のことを知らなかったってことだよな?」

「そうね。わたしのことを知ってる人なら、柚希の学生証を見た時点でわたしの姉妹だって気づいて、丸さんのと一緒に二年四組の教室前に置いていくでしょうから」


 それをしなかったのは、わたしのことを知らないからだ。犯人はわたしと全く交流のない誰かということになる。

 藤井は満足そうににやっと笑った。


「じゃあよ、犯人がお前のことを知れば話は変わってくるんじゃねえか? あの武広の学生証はこいつの妹のだったのか、じゃあこいつに返せば大丈夫だ、って感じによ」

「それはそうだろうけど、どうやって犯人にわたしのことを認知させるの? 明日、会う人会う人に挨拶して名前とクラスを教えてあげでもしないかぎり無理なんじゃ」

「他にも方法はあるって。要はお前の知名度を上げればいいってことだろ。文化祭には、そうするのにぴったりのイベントがあるじゃねえか」


 知名度を上げるのにぴったりなイベント?

 ……まさか。


「藤井くん、ペアゲームのこと言ってる?」

「そう! ペアゲームに出りゃあ、一発で学校中のやつらに顔と名前、クラスまで知らしめることができる。で、そのときに、武広高校に通う妹がいますって言えば、犯人も、あの謎の学生証はこいつの妹のだったのかって納得して、今日と同じように、ゲーム中に二年四組の教室前に置いていくんじゃねえか?」


 得意げに歯を見せて笑い、親指を立てる。


「仮に明日中に妹の学生証が返ってこなかったら、それはもう犯人の手元に学生証がないって証明になるだろ? 持ってるんならゲーム中に返しに行くはずだからな。犯人の手元にないなら、捨てたかポストに投函したかだ。それならそれで誰かに見られる心配もないから安心できる。どうだ、この作戦は!」


 藤井を除くわたしたち四人は、戸惑いを隠せない表情でお互いに視線を合わせあう。無言の相談が交わされ、やがて、嶋くんが口を開いた。


「まず、急にペアゲームに参加するなんてできるのか?」

「そこはまあ、気合いだよ気合い。頼み込めばなんとかなるだろ」

「そんな簡単にはいかないだろ。目玉イベントなんだし」

「……いや、できるかもよ」


 嶋くんに反論してきたのは、意外なことにあかりだった。


「ヨシノリから聞いた話なんだけどね、二日目に参加するペアは四組の予定だったけど、そのうち一組の彼氏さんが盲腸で入院しちゃって、出場がキャンセルになったんだって。もともと四組で準備してたんなら、うまく交渉すれば飛び入りでもいけるんじゃない?」


 なるほど。空いた椅子に飛び込む形か。

 ていうかあかり、彼氏さんって言ったわね。そっか、確か明日は、男女ペアで参加する日だったわよね。……ふうむ。


「だけど、そんなにうまく交渉できるかが問題じゃないか? 飛び入りで参加したいってことなら、それなりの理由もいるだろうし」

「できると思うわ」


 急に力強く断言したわたしに、え? という顔を向けてくる嶋くん。


「交渉するなら生徒会長の森野先輩によね? わたし、森野先輩にはちょっとした貸しがあるから。参加したい理由を適当にでっちあげれば、多少無理なお願いでもきいてくれると思う」


 実際は、貸しがあるというより弱みを握っていると言ったほうが正しいから、交渉というより半ば脅しのような形になるだろうけど。


「まじかよお前。貸しってどんなことだよ?」

「ちょっといろいろね。話すと長くなりそうなことだから今回はパスさせて。……で、飛び入りで参加する理由だけど、わたしたちって全員野球部でしょ? そこをうまく使えばいいんじゃない?」


 柚希が首を傾げ、どういうこと? と訊いてくる。


「今年って、例年に比べて一年生の入部が少なかったじゃない? それに危機感を抱いたわたしたちは、来年こそはもっと多くの部員を集めたいと思って、来年の新入生――いまの中学三年生の勧誘に力を入れることにした。そんな折り、ペアゲームで一組キャンセルが出たと聞いた。公星祭には、ペアゲーム目当てに来る中学生たちが大勢いるから、そこで宣伝ができれば来年の部員募集の大きな手助けになる。だから、キャンセルになったペアの代わりにゲームに参加させてくれませんかね、なんて風に頼めばいいのよ。実際に部の宣伝にもなるし、一石二鳥じゃない?」


 我ながら一部の隙もない、完璧な理屈である。反応を伺うと、思った通り、部の宣伝になると知った途端、嶋くんは目の色を変えていた。


「ここ数年の部員減少は深刻な問題だったからな。……うん、その案いいと思う」


 あかりと藤井も、いいんじゃないかな、と賛成してくれた。柚希もこくこく頷いている。

 ……さて、ここからが本番よね。


「ありがとう。じゃあ、誰がペアゲームに参加するかだけど。……まず、わたしか柚希は参加しなくちゃならないわよね。顔見せして、二年四組の川口柚香ですって名乗らなきゃいけないから。大勢の人の前で喋ったり動いたりしないといけないんだけど、柚希、できそう?」


 ぶんぶんと首を振って否定する柚希。やっぱりね。人見知りであがり症の我が妹が、あんな全校生徒から注目されるようなイベントに出たいというわけがない。


「しょうがないわね。じゃあわたしが出るわ。……で、できれば嶋くんか藤井くんに一緒に参加してほしいんだけど」

「おれおれ! おれ、ずっとペアゲームに出てえと思ってたんだよ」


 来たな藤井。やはり空気を読まずに立ち塞がるか。


「そう。わたしは藤井くんでも構わないけど、一個だけ問題があるの。実はね、わたしと嶋くんがグラウンドのフェンスを下りてくるのを、森岡くんとかに見られてたみたいなのよ」

「え! 見られてたのか、あれ」


 驚きの声をあげる嶋くんに向かって頷いてみせる。

 事実、帰りのホームルームが終わったあと、森岡くんや岸くんに、嶋と一緒にグラウンドのフェンスを降りてきたのを見たけど、あれはなんだったのと尋ねられた。とっさに言い訳が浮かばず、ちょっといろいろあってね、とごまかしてしまったけど。


「ああ! そういやおれと一緒のときに見たなあ! 良次が先にグラウンドに立ってて、川口姉が下りてくるところ」

「藤井くんも見てたの? じゃあもしかしたら、他にも見てた人がいるかもね。そういうのって少し心配じゃない? 先生たちにまで話が広がったら、学校の外に出てたことがバレて、なにかペナルティを貰うかもしれないし。それで思いついたんだけど、何年か前のペアゲームでは、中庭に簡単なジャングルジムみたいなものを作って、一番いいタイムで登れたペアが勝ち、みたいなゲームがあったんだって。嶋くんと二人でペアゲームに出場できれば、あのときはそれの練習をしてたんですって言えるから都合がいいなって思ったんだけど」


 すべて嘘だ。そんなゲームがあったなんて話は聞いたことないし、第一その言い訳じゃとてもごまかせないだろうがよ、つうか簡単なジャングルジムみたいなものってなんだよ、と、突っ込みどころ満載だけど、こういうものはさらっと言われてしまうと意外とみんな信じてしまうものだ。


「へー、そんなゲームがあったのか。初めて聞いたぜ」

「私も。ペアゲームってやっぱりいろいろと力入れてるんだね」


 藤井とあかりが納得すると、他の二人もなにか言ってくることはなかった。


「だからね、わたしと嶋くんがペアゲームに出るほうが言い訳も作れるし、いろいろと都合がいいと思うの。いちおう、キャプテンとマネージャー長だから宣伝目的としても収まりがいいし。どう、藤井くん?」

「でもおれも出てえんだよなー。黙って見てるだけってのつまんねえもん」

「……。じゃあ、こういうのは? わたしと嶋くんがペアゲームに出るから、あかりと藤井くんは観客席の最前列で応援するの。あっちっていつも三年生ばっかりだから、二年生が入れば目立つし盛り上がるんじゃない? 応援の存在感で三年生よりどう優位に立つかって考えるのも楽しいだろうし」

「なるほど、応援団長か。…………いいなあ、それ! ゲームに出るのもいいけど、そっちも楽しそうだな!」


 一瞬で目の色を変えた。ああよかった、単純で。わたしが内心で胸をなで下ろしたところで、藤井は急に下びた笑いを浮かべ、


「だけどよ、お前本当は、良次と一緒にペアゲームに出たいだけじゃね?」


 そうですけど? 便宜上は野球部の宣伝のために出ましたってことにしても、ペアゲームってんだから二人が密着する場面はかなりあるわよね、そこまですればいくら嶋くんでもわたしの魅力に悩殺されること間違いなしよねそうに決まってる、とまで計算した上での行動ですけど、それがなにか?

 わたしは口元に小さな笑みを浮かべ、諭すような口調で言った。


「なに言ってるのよ、藤井くん。確かにわたしは嶋くんのことが好きだし、告白もしたけど、それとこれとは関係ないわ。いまは学生証を取り戻すのが最優先。それを考慮しても、わたしと嶋くんで出るのが一番しっくりくるからそうしようって言っただけ。仮に、藤井くんとわたしや、嶋くんと柚希が出るのがベストだって思ったら、迷わずそう言ってるわよ」

「ふーん。本当かそれ? なんか怪しいんだよなあ」

「本当よ。ところで藤井くん、カツ丼と一緒にきてたみそ汁、早く飲まないと冷めない?」

「……あ! 本当だ」


 慌ててみそ汁のお椀を手に取る藤井。あー、うざかったうざかった。しかしこれで最後の砦は越えた。

 わたしは笑顔で嶋くんに向き直る。


「そういうわけだから、明日はよろしくね、嶋くん。野球部の宣伝ってことで出るわけだし、カップルですって名乗る必要もないわけだから、まあ、気楽にやりましょ」

「うん。そう言ってくれると助かるよ。俺も宣伝はしたいし」


 ふふん。いまはそんな気でいても、ゲームが終わる頃にはわたしにメロメロになってるわよ。覚悟しときなさい。


「……ね、柚香」


 遠慮がちに柚希がわたしを呼んだ。


「わたしはどうすればいいかな? 明日のペアゲーム中」

「柚希? そうね……」


 あかりと藤井は最前列で応援してくれることになったけど、柚希まで一緒ということはできない。となると、正直やることないわよね。


「どっか適当なところで観といていいんじゃない? あんまり舞台に近いところだとわたしに似てるって気づく人がいるかもしれないから、それは避けてね」

「うん、わかった」


 さあ、これで配役は決まった。……ふふ、正直、せっかくの文化祭にこんなくだらないことしてんじゃねえよ、と「学生証コレクター」を忌々しく思っていたけど、いまは逆に感謝の念さえ湧いてきた。ありがとう顔ほくろフェチ。これでわたしと嶋くんは急接近間違いなしね。

 内心の浮かれを顔に出さないようにしていると、ねえ、とあかりが声をかけてきた。


「犯人がまだ学生証を持ってたら、ペアゲームの最中に教室に返しに来るかもしれないんだよね? そうなったらさ、先に教室に戻ってきた人たちに、柚希の学生証見られない?」

「あ、そうね。そこ、ぜんぜん考えてなかった」


 わたしと嶋くんはゲームに出場するし、あかりと藤井は一番混む最前列で観戦する予定だ。そんなわたしたちが、一番早くに教室に帰れる可能性は低い。

 同じことを考えたのだろう。柚希が控えめに手を挙げた。


「じゃあわたし、ゲームが終わったらすぐ教室を見に行ってみる」

「大丈夫? ホントに、一番先に教室につける?」

「た、たぶん」


 あかりの質問にたじろぐ柚希。それに対して嶋くんが実に冷静に、


「それなら、教室の近くのどこかに隠れておけばいいんじゃないか? そうすれば、犯人が学生証を置いていったらすぐ気づいて回収できる」


 あ。目から鱗が落ちた気分だった。


「そうね。それなら確実に誰にも見られずに済むし、うまくすれば犯人の顔も見られる……。すごいわ嶋くん。柚希、それでいきましょ」

「う、うん。わかった。でも、どこに隠れとけばいいかな?」


 みそ汁を飲み終えた藤井が、掃除用具入れでいいんじゃねえの、と言ってきた。


「おれたちのクラス、文化祭中は外に出してるだろ? あの中なら余裕で隠れられる」


 そういえば、少しでも教室を広くしたいからって、掃除用具やらが入ったアルミ製のロッカーを廊下に出していたっけ。場所は教室を出てすぐのところ。あの中からなら、犯人の顔も見えるはず。

 なんだか、なにかの力が働いてるんじゃないかと思うほど、すべてのピースがうまくはまっていく。明日は、いい日になりそうな気がしてきた!


「いいんじゃない、そこで。大丈夫でしょ、柚希?」

「……う、うん。たぶん、大丈夫」


 ん? なんか変ね。柚希の顔色がさっきと変わってる。


「あ! 柚香か柚希、どっちか狭いところ苦手じゃなかった? このあいだ瑞樹にいたずらで部室のロッカーに閉じこめられたとき、半泣きになってたじゃん!」


 わたしは自分の顔から表情というものがなくなっていくのがわかった。

 そうだ。柚希は狭いところが苦手だった。小学生のころ、わたしがなにかムカつくことがあって、面白半分八つ当たり半分で、柚希を家の押入にとじこめたことがあった。それが思った以上に怖かったらしく、それから柚希は狭いところが駄目になった。学校のトイレの個室なんかも、我慢できる範囲ではあるけどちょっと怖いと言っていた気がする。

 そんな柚希に、長い間一人でロッカーに入っていることができるのか?


「狭いのが駄目なのは柚希だけど……。柚希、大丈夫そう? ゲーム中にロッカーに入ってるの」

「う、うん。頑張る……。わたしが変なミスしたせいでこうなったんだし」


 もう、この時点で声は震えて表情はひきつっている。


「本当に大丈夫? 部室のロッカーに閉じこめられただけであんなだったじゃん。三十秒も入ってなかったのに、すんごいパニックで」

「あれは、突然でびっくりしただけだし……。うん、最初からわかってるなら大丈夫だよ。たぶん」

「おいおい本当かよ。おれの従兄弟にも閉所恐怖症がいるんだけど、自分で入っても耐えられなくてすぐ出てくるぜ。心臓がばくばくするーとか言ってよ」


 唇を結び、視線を泳がせ、大丈夫だよ、というようなことをごにょごにょ呟く柚希。ぜったい大丈夫じゃないだろこいつ。

 犯人がペアゲーム中に学生証を返すなら、見張りは必要。しかし、唯一の身を隠せる場所、掃除用具入れに柚希が入るのは無理。そして、その原因を作ったのはわたし……。

 因果応報。身から出た錆。そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。ああ、そういえばさっき、柚希と嶋くんで出るのがベストなら、迷わずにそう言うとも言ったわね。ははは。

 目の前にある皿という皿をすべて壁に投げつけたくなる衝動を抑え、告げる。


「しょうがないわね。じゃあ柚希、役割交代しましょ。あんたがゲームに出て、わたしがロッカーで犯人を待ち伏せる。これでオッケーね」


 あー、もう。マジでやってらんねえ。


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