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三日目 帰る

延々ノリツッコミをかまし続けるという初夢から目を覚まし、僕は祖父の家での三日目の朝を迎えた。

と言ってももう11時に近く、おはよう、という挨拶が適当なのか迷う時間帯だった。

「いつまで寝てるの」と母に叱咤されつつ、朝飯兼昼飯を食べる。

自分の家で食べるような軽い昼食ではなく、ちゃんと祖母が作ってくれた手作りの昼食だった。

そんな暖かい昼食を堪能して、しばらく外を散歩する。ちょっと歩くくらいなら迷うことはないだろう。

外に出ると外気が肌を刺し、風がびゅう、と唸った。それでも、構わず歩く。

歩きながら、年に数回しか見ない景色を見て回る。

前に来たときと、隣の家の外観が少し変わっていた。それから母の通っていた幼稚園に新しい遊具が増えていた。

やはり、間を開けて来ると何かがいつも違っている。今この時も、時間は経っているのだと実感させられる。

そんな事を考えて、ふと、早苗ちゃんの事を思い出した。

あの子は、いつから病院あそこにいるんだろう。いつから、外の景色を見ていないのだろう。

自分の家の周りがどうなっているのかすら、あの子には確かめるすべは無い。

せいぜい、両親から聞いて知る程度のものだろう。

自分の目で違いを知ることが出来ない。

ずっとあの病室から見える景色だけを見て、歩きたい所も歩けず、平凡で楽しくは無いであろう生活を強いられている。

ああ・・・。と僕は空を見た。特に意味は無い。気分だ。黄昏れてみたかっただけ。

空は真っ青に晴れ渡り、雲がふよふよと浮いている。

帰ろう。

と、思った。帰ろう。

帰って、とっとと病院にいって早苗ちゃんの話し相手をしてあげよう。

それがいい。と思った。

僕は踵を返すと、少し足早に家に戻っていった。


病院に着いた。今日から病院の営業が再開するらしく、患者さんがかなり多く居た。

駐車場も殆ど埋まっていて、車を停めるのが困難な程だった。

病院内をもはや慣れた足取りで歩いていく。やはり、昨日や一昨日とは違い、すれ違う人の人数は多かった。

一旦祖父の方へ行って、顔を出す。

祖父はやはり元気で、何で入院しているのか解らないくらいだった。

僕等が来ているから強がっている、という可能性も無いわけじゃないが。

ともかく、僕は祖父とそこそこの話をして、母に断って病室を出た。妹も勿論ついてきた。

そして二人して、早苗ちゃんの病室に向かったのだった。


「あ、今日も来てくれたんだ」と、早苗ちゃんは僕等の顔を見て言った。

病室の中にはご両親の姿はない。未だ来ていないのか、それとももう来て帰ってしまったかのどちらかだろう。

昨日と同じように、妹が早苗ちゃんのベッドに腰を掛けて、僕は備え付けの椅子に座る。

椅子に座ると、椅子はギシ・・・、と音を立てた。

「晴れてるね」と、最初に口を開いたのは僕だ。

この部屋からも見える空は、やはり晴れていた。

「晴れてますね」

妹と一緒に、早苗ちゃんは空を見上げた。

残念ながら、この後僕は昨日と同じように殆ど会話に入る事は無かった。

ただ、早苗ちゃんに“空が青い”という事を伝えられた事は良かったと思う。

まぁ、別に、早苗ちゃんだって今日の空が青い事くらい気付いていただろうけど。


数十分話をして、母からメールを貰って部屋を出た。

帰り際、やはり悲しそうな顔を一瞬見せて、早苗ちゃんはそれでも手を振って笑顔で僕等を見送ってくれた。

「ああ・・・、そういえば・・・」

と、僕は車に戻る間際呟いた。

「何?」

と、妹が首をかしげる。

「俺等、今日帰るって早苗ちゃんに言っておいたっけ?」

「あ・・・、どうだろう・・・。お母さんが言ってくれてたんじゃないかな?」

「そうか・・・」

そうだといいな。と思う。

そうだといいな。と。

見上げた空は、やはりどこまでも澄み切っていた。

ずっとこのまま晴れていれば。

そんな事を考えて、僕等は車に戻っていった。

最終話じゃないです。まだあと一話ありますので、お付き合いください。

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