返らめや
来や。
来や。来や。
返らめや。
また来。
雪の花散りぬ。君をぞ。しぞ思ひ。
「かへらばや。とく。とくかへらばや」
雪の下路踏み分けて。沓の下に消ぬる。
かへるさに面影留めつる。
黒髪のそよぎ。面影宿し。また来。
白きはだへ。面影離れぬ。また来。
こゑ響く。風寒み聞こゆるほどに。足すくみ。過ぎがてにして。嘆かるる。涙こほるや。
たまざさの。身をきりぬべく。唐衣。立ちそふるかと。見てしくれなゐ。浅く染むるや。
行きかねて。雪の下水。したもゆる時もはるかに。けぶり消ゆ。昔の人も。
まちわびて。雪の玉水。木の芽はる時もはるかに。遠くになりぬ。昔の春も。
返らめや。今しぞ行かむ。ゆふぐれの。故郷にふる。
吾が君は。我をかなしと。思ひきや。色もしるくに。かねごとを。かたみにかはし。年はふりたれ。忘れめや。
あせたる衣まとひし吾が君。嵐吹く窓をたたきて。かたはらいたく。思ひかはしても。腕ふるふや。
我も汝も子めきたるに。ことうけも。え果たせで。目見をまじへて。さのみにつきぬ。
来や。返らめや。また来。今しぞ行かむ。待ちがてにして。通ひ路あらめ。また見えむかも。