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眞匏祗  作者: ノノギ
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第九話 キオク

 先ほどから長い雄叫びが聞こえている。さすがにそれに飽きてきた薪はくだらないといった表情で舌打ちをする。そして薪は何の問題もなく地面へ着地する。が、隣の阿呆は見事にドスンと鈍い音を立てて着地した。

「何よこの崖!」

「崖にキレるな!」

穂琥としては歩いていたら突然地面が消えて落下したと思ったらしいが、薪としては普通に過去に崩れたために地面がなくなっていただけのことで突然消えたわけではないということ。ギャーギャーと文句を言っている間にふと、周りに眞匏祗が集まってきていることに気づいて少しだけぞっとした。先ほどのように攻撃対象になってしまうとしたらさすがの薪もこの数を相手に相手を無傷で対応することは難しいだろう。しかしそんな心配をよそに、周りの反応は至って平和だった。

「薪様!?すごいよ!」

「わぁ!生で見ちゃった!」

「薪様お帰りになられたのね!」

「後ろのいる方は穂琥様か?」

「美しい方だなぁ~」

聞こえてくる言葉はどれも平和な感じ。穂琥としては嬉しいことではあるがやはりよくわからない。この崖の向こうとこっちでは世界がまるで違うように思えた。愨夸に対することも無論そうだが、何より薪の顔を皆が知っているということも疑問対象の一つだ。それを薪に尋ねたが面倒なのか教えてくれなかった。

「教えてよ!教えてくれないと読者もわからないでしょ!」

「は・・・?何言って・・・」

困惑する薪だが結局後で教えるということになり、群衆が二つに分かれて作った身を通って城へと向かった。

 城の中はたくさんの眞匏祗で埋め尽くされていた。やっと帰ってきた愨夸に皆は歓喜に包まれていた。確かに、社長のいない会社が長いこと持つとも思えにくい。そういった状況下でこの城に努める眞匏祗たちは頑張ってくれていたのだ。そんな眞匏祗たちに薪は謝礼の言葉を述べながら進んでいく。

「部屋に案内するよ」

混雑しているようなその中を薪は何も苦労することなく、またまた疑問な顔をするわけもなく進む。穂琥としてはこの数の軽く圧倒されていた。こんなに集られたことはなかった。薪は子供のころよく城を抜け出していた記憶がちらりちらりと存在するがこの数の眞匏祗がいる中をすり抜けて抜け出していたと考えるとすさまじいものを感じた。

 とある部屋に案内されて入る。広い素敵な部屋。ここが愨夸の娘の部屋。では、息子の部屋は?当然見てみたいものだ。

「お前は馬鹿か。今や『愨夸の息子』なんて存在していないんだよ。オレが愨夸だ」

「あ・・・・」

「オレの部屋は愨夸の居座る部屋ってわけだ」

薪はさっさと踵を返して部屋を出る。それにならって穂琥も後を追う。

 さすが愨夸の部屋。広いだけではなく膨大な資料の山に囲まれている。ただ山に囲まれていると言ってもそれを管理しているのが薪である以上、それらの整理整頓ぶりは半端ない。やはり愨夸としての仕事をこなすべく場所らしく、そこの部屋は生活感が全くなく、質素な机がある程度だった。語弊があるかもしれないので訂正を入れるが、質素と言っても一般の者から見た十分豪華なものであることに変わりはない。そしてその奥の扉が薪の生活空間となるらしい。そこを覗かせてもらうと薪らしい空気を漂わせている部屋がある。綺麗にまとまりのある部屋。シンプルで必要最低限のものしか置いていない感じだった。

「ここがまぁ、オレの今の部屋だ。ガキの頃の部屋は何になっていたかな?忘れた。物置か。もっともあまり使っていなかったけどな」

「え?子供の時でしょう?部屋を使っていないって?」

「別の場所にいた」

薪は再び踵を返して歩く。穂琥もそれに倣う。そして次についたのは薄気味悪く湿った地下室。薪が愨夸になってからはほとんど封鎖されてしまっているため全く使われていない。

「かび臭い・・・。嫌な雰囲気だね・・・」

「そうか?オレは慣れているけど」

普通にそう言って退けた薪を恐ろしいと感じたのはきっと穂琥だけではないはずだ。そして薪はその奥にある不気味な部屋を指差してここ、と短く言った。

「え?何が?」

「オレがガキの頃いた部屋」

この地下室に穂琥の声が木霊したことは言うまでもないだろう。

 こんな不気味な部屋に薪は生きていることができるかどうかを調べるために入れられていた。父の力を受け継ぎそれを己の物とする。それを行った後にここへ叩き込まれたのだ。

「2歳の時だったな。あの時は死ぬかと思ったよ」

「え?何それ」

「・・・・あれ?話していなかったっけ?」

「うん・・・」

薪にしては珍しくボケたような空気を出していた。

「私、それ覚えていないんだけど・・・」

「まぁ、オレが消した記憶の一部だからな」

穂琥の消えた記憶。実際はこちらの眞匏祗の世界から人間の世界に送る際に、薪が不安定だったことも影響してそれの反動として穂琥の記憶が飛んでしまっているのだが、そうではなくて薪の意思によって消されている部分が穂琥の記憶の中には存在していた。

「オレ自身、覚悟着いたらいうつもりだったんだよ。このことはもう話しているつもりだった」

珍しい薪のそのセリフに戸惑いを覚えながら穂琥は薪の話を聞く。薪はまず自分たちの出生について語りだした。


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