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眞匏祗  作者: ノノギ
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第六話 アカシ

 薪は足早に男の後を追う。後ろをちゃんと穂琥がついてきていることを確認しながら。眞稀の扱いに慣れていない穂琥を突き放して走るのは危険すぎる。それになりより自分らの立場上、こんなところに居てはならない。愨夸は国を統治し雄々しくあらねばならない。こんなところで油を売っているようでは話にならない。それにそんな愨夸の妹が迷子になって走ることもままならないといったようなことは絶対にこの土地では起こしてはならない。この城下町から離れた辺鄙の場所では。

 男を追ってたどり着いた場所は屋敷の様なものが立つ場所だった。先ほどの男の眞稀をこの屋敷の中から感知することができるのでここに間違いはない。薪ははて、どうやって入ろうか悩んだ。そうしている間に屋敷の中から眞稀を感じた。しかもこれは眞匏祗の眞稀ではない。物質より発せられる無機質のもの。つまり発したのは痲臨。薪ははっとした。そして急いで屋敷へ飛び込む。痲臨を使用してはならない。危険すぎる。今は穂琥のことを気にしている暇などない。

 飛び込むとやはり痲臨を使用しようとしているところだった。しかし、薪の目からしてまだ使用には至っていないことが確認できた。よってそこまで焦る必要はないと判断し、少し落ち着く。やっとのことで穂琥が追いつき薪の横に着く。

「何者だ!」

叫ぶような声が響く。薪たちの侵入やっと気づいて怒号を上げていた。屋敷内には男が4名いた。そのうちの一人の男は怪訝そうな表情で薪の服装を見ていた。

「我々のやっていることに首を突っ込もうというのならただではおかんぞ!」

男が叫ぶ。薪は鋭い目つきで男を睨む。

「怪しい男を見かけたのでね。調査しに来ただけだ」

薪はそういって端の方で座っている男を見た。その男は不思議そうな顔をして薪を見た。会ったことがないという顔だ。それも当然のことだが。

「痲臨を拾っただろう?これはただじゃおけないと思ってね」

薪はそれを軽く述べる。しかし男たちは表情を怒りと焦りで埋めている。そして端に座っていた男は立ち上がって薪に叫びあげた。

「眞稀は一切感じられなかった!あそこに眞匏祗はいなかったはずだ!」

「もともとあの場に足を運んだのは眞稀を感知したから、だろう?」

薪の言葉に口ごもる。確かにこの男は眞稀を感知してあの場にやってきた。しかし眞稀があったであろう周辺まで来たらすでにその眞稀を感知することはできなかった。その代り痲臨を見つけてここまで持ってきたのだから。

 眞稀を消すことができるとわかった男たちは少し狼狽えているような様子を見せた。それを少し見てから薪は本題に突入する。

「痲臨を、持っているんだろう?何個ある?」

薪の質問に素直に男たちが答える訳もなく、見事に却下する。

「答えるものか。力ずくで聞くか?やっても無駄だぜ。絶対に言わな・・」

「言う気がないなら聞かないさ」

男の言葉を遮って薪がさらりと言う。男たちはさらに表情を崩す。

「なんだと・・・?」

「なんだよ。力ずくでも聞いて欲しいのか?」

「そんなわけ・・・!!」

薪の言葉に歯噛みしながら答える。それをまるでこの場では空気になってしまったのではないかと思われるくらい存在感を消されている穂琥は見ていて薪の優勢具合を小さく笑う。薪に口で勝とうと思うだけ無駄だということを穂琥はよくわかっている。

「さて。じゃぁ、ま。持っている痲臨を渡してもらう」

「はぁ!?そっちの方ができる訳ないだろう!」

まぁ、そうだろな。そんな風に思う穂琥。だが、こればっかりは薪も無理にでも奪い取らなければ問題があるのだろう。

「ん~・・・。無理にやりたいんだけどオレにはできねぇしなぁ」

薪はどこか遠くを見つめながら言った。それを聞いた男たちが怪訝な顔をした。

「何?戦えない?お前、療蔚か?」

「いや、戦鎖だ」

「ならなぜ・・・!?」

「戦うのが好みじゃねぇんでね」

少しだけ切ない表情をした薪を見て穂琥は少しだけ胸が苦しくなった。薪の言った『好みじゃねぇ』というのは単に好き嫌いの問題ではない。薪の過去にある強烈な打撃が薪をそうさせているのだろう。とはいっても、穂琥の中には完全な記憶が取り戻されているわけではないためになぜ薪がここまで苦しい思いをするのかまではわからない。

 そんなことより新単語。『療蔚』と『戦鎖』の二つ。これは眞匏祗を形成する二つの性質の話。人間でいうと、男と女、体育会系と勉学系とごく自然に二手に分かれるものと同じようなもの。眞匏祗ではこの二つの性質で容姿を左右される。厳密にはまだ解明されていない点が多々あるために語りきることはできないけれど、療蔚というものは一般に治療と言った人間でいう医者の部類になる。怪我をした者を治癒したり、保護したりする。逆に戦鎖は先陣を切って戦う存在。人間の部類で言うのは至極言い難いところもあるが、あえて言うのであれば軍人ということになる。戦うことに特化し、高い戦闘力をもっている。そして容姿だが、療蔚が桃色、戦鎖が青色と言った系統の毛色になる。とは言っても紫がかった者もいれば水色もいるし、赤もいる。薪は水色に近く、穂琥は桃色。そういったカラーを眞匏祗たちは受け持っている。

 白熱しかけているこちらの会話。痲臨を渡すようにと訴える薪に対し、無論渡そうとするわけない男たちとの口論が続く。そんな中、男の中の一人が急に焦ったような表情で痲臨を仲間から奪い取ると薪の前におずおずとやってきた。

「あ、あの・・・これをお返し致します」

震える声で痲臨を薪に差し出す。ほかの男たちが怒号を上げる中、その男はひたすら薪の前で震えた手を差し出す。

「お返し致します、とは?」

薪のリピートに男は震えた声で続ける。

「どこかで見たことのある方だと思ったのです!」

その男の挙動と発言から薪を愨夸と気づいたのだろう。へぇと短く薪は言うと男はキュウと名乗った。

「キュウ?ゲルカン家の者だったのか?」

「はい」

キュウが名乗ったことで周りの男たちが怒りに沸いていた。

「お前!何を言っているのだ!せっかく手に入れた痲臨をみすみす渡してなるものか!」

「ふざけるな!この方に向かってそんな態度をとるなど言語道断だ!」

「兄に向いなんて口を利く!」

穂琥はこの発言で皆が兄弟なのだと悟った。そして兄弟げんかに発展してしまっているこの状況を肩をすくめて眺める。それしかできないからだ。

「はいはい、兄弟げんかは後に他者のいないところで。それにしても良洙らずがいないな?どこにいるんだ?」

その者をなぜ知っていると周りから言葉が覆いかぶさる。しかし薪は軽く知り合いだからと答える。キュウ以外の男たちはみな憤慨寸前まで来ていた。見かねた穂琥が薪に自己紹介するように勧めた。薪は少し悩んでいたが、ここが知り合いである『良洙』という男の家系であることをふまえて、名乗ることを決意したようだった。

「オレの名前は『シン=フォア=エンド』だ。よろしく!」

薪の言葉は至極軽い。しかしそれを聞いたゲルカン家の兄弟たちは顔面蒼白になり黙り込んでしまった。突然現れた愨夸に身も凍る思いをしているのだろう。それと同時にそれを認めたくなく、何とかして逃げ道を探っているところだろう。

「う、嘘だ・・・!あの方は今地球に!」

「帰ってきたんだよ、今さっきね」

薪のその言葉こそ、まるで嘘だと言わんばかりの表情をしている。薪を愨夸だと気付いているキュウも今の兄や弟たちの態度に焦りを覚えているようだった。そういった姿を見て薪は何とも切ない表情を浮かべるのだった。

「証拠は!愨夸だという証を見せろ!」

叫んだ男の声を得て、薪はそれを了承する。しかし、証と言っても何を証にすればいいのかわからない。

「何を証拠と提唱すればいい?」

薪の投げた質問に恐怖心で声が震えている男が必死で声を絞り出して言う。

「こ、愨夸の・・・愨夸紋こっかもんが在るはずだ・・・う、噂によれば・・・ぎ、毅邏ぎらの・・・呪印も・・・あるはずだ!!」

「リン兄様!何を!!」

「構わないよ。それが証となるなら見せてやる」

キュウの言葉を遮り、リンと呼ばれた男に向き直る。リンは震えている。


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