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眞匏祗  作者: ノノギ
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第五十五話 シュギョウ

 朝からけたたましい嘔吐音。

「おいおい。仮にも女子だろお前。そんな気持ち悪い音で吐くな」

「うるっ・・・おえぇぇ・・・。か、仮にもって・・ぅおえぇっ」

飲みすぎと飛べすぎが原因だろう。穂琥は激しい嘔吐する。気持ち悪いと叫ぶ。とにかく気持ち悪いらしい。

「ったく。仕方ないな。オレが治してやる」

「え、本当!?」

「あぁ、マジ♪」

薪のにこやかな表情を見て儒楠は遠くを見る。そして心の中で穂琥へ送る。

―穂琥・・・今の薪は本当に『マジ』だから・・・

「よし、軽く力を入れろ」

「あい・・・」

「よっと」

「フングシッ!!」

穂琥の腹に思い切り拳を入れる。はしたない音と共に嘔吐音が止んだ。穂琥ちゃん、終了のお知らせでした。そんな穂琥を放って置いて薪はさっさと部屋を出る。

「穂琥に修行部屋に来いって伝えておいて」

そういい残して薪は仕事の部屋へ行ってしまった。

 儒楠は失神している穂琥を起こすべく、つついていく。

「ブハ!?」

突如起き上がった穂琥に儒楠はびくっと手を引く。

「大丈夫?」

穂琥は小さく頷く。そして儒楠の薪からの伝言を聞いて暗く沈みこんだ。

「しゅ、ぎょう・・・」

「薪は厳しいからな。まぁ、オレの場合は修行ってよりはチャンバラだけどな」

それから儒楠は不貞腐れたような表情をしてから勝ったことなんて一度も無いけどと文句のように言う。

「まぁ、とにかく午後に行きな」

「一緒に来て・・・」

「え?オレが一緒に行っても意味が・・・」

「場所がわかりません・・・」

「あ・・・そうですか・・・」

納得した儒楠は軽く笑って頷いた。

 午後、穂琥と共に薪の指定した場所へ移動した。その部屋の扉をあけると軽装をした薪がいた。

「あれ?儒楠。どうした」

「迷子は作りたくなくてね」

儒楠の言葉に鋭い目で穂琥を睨んだ薪だった。笑って誤魔化そうとする穂琥だったが儒楠としてはぷちっと切れる音が聞こえた。

「てっめー!一回連れてきてやったって言うのに!まぁだ覚えられねぇってかぁ!?あ?!」

「すすすすす、すみませんんん!!!」

薪の脅しに穂琥は頭を抱えるようにして必死で謝罪する。そんな状態を何とか宥める儒楠。そしてそんな儒楠に落ち着いた薪が儒楠を見てあっさりとした笑みを浮かべた。

「ま、儒楠がいるなら丁度いいか。オレ、忙しいから頼むわ」

「・・・・へ?」

薪は穂琥をよろしくといってさっさと出て行く。残された穂琥と儒楠。ドアを閉じる音を余韻に残し、沈黙が起きた後、穂琥と儒楠は声を合わせて叫ぶのだった。

「自己中―――!!?」

穂琥と儒楠の声すらも余韻となって消える。それからその後に穂琥はとりあえずよろしくお願いしますと儒楠に頭を下げる。

「ま、拒否するわけではないんだけどね。オレには無理だよ?」

「え?」

「穂琥は療蔚だろう?オレは薪と違ってまるっきり戦鎖だから教えてあげられないよ?」

穂琥と儒楠はそんな事実を改めて確信して、その部屋を勢いよく抜け出して物凄い勢いで階段を駆け上がる。

「薪んんんんんんんん!」

薪の仕事部屋、愨夸室へと走り突撃する。

「うっさいなぁ~。ノックくらいして入って来い」

ペンを走らせながら顔を上げずに薪はだるそうにそう言った。

「うるさいじゃないわよ!」

「オレは戦鎖だ!療蔚の穂琥に何を教えろって言うんだよ!」

抗議する穂琥と儒楠の言葉を聞いて仕方無さそうにペンを止めて顔を上げる。

「何を言ってんだ。オレだって戦・・」

「お前は違うだろう!!」

穂琥と儒楠の声が重なって薪を威嚇する。

「まぁまぁ、そう力むな。開眼なんてどれも似たようなもんだろう。頑張れ」

薪は手を上げて軽く言い切った。穂琥はその言葉にそんなもんなのかと軽く納得しかけていたが、隣の儒楠はそうも行かないようだった。

「ちょっ?!開眼を教えるのか!?」

「そ」

「あのムズイのを?!」

「そ」

「お前じゃなくて?!」

「そ」

「オレが!?」

「そ」

「こんな子に?!」

「そ」

「ちょっと、それどういう意味ですか」

「あ・・・・」

驚きと勢いで言ってしまった失言に儒楠は固まった。儒楠の驚きの質問に薪はなんとも無いかのように「そ」と答え続けて今は既に手元に視線を落としてペンを走らせ始めていた。忙しいということはよくわかるのだが・・・・。

 怪しげに微笑んでよろしくといってきた薪の態度も気になるが、どう考えても療蔚を戦鎖が教えられるわけがない。そんな文句を小さく口の中で言いながら儒楠と穂琥はさっきの部屋へ戻った。

 まずはあの時の、最初に開眼したときの感覚を思い出して開眼するようにしてみるように穂琥へ伝える。穂琥は必死に眞稀を練っているがどうにもできる様子がなかった。やはり何もいわずに最初からできるわけもないかと肩を落とす。どこぞの天才とは違うのだから。

 眞稀の流れをまずは感じ取ること。魂石より生み出される無限の眞稀を体内で増幅させながら意識した部位から放出する。しかし、困ったことに、穂琥はそれすらも理解していなかった。

―薪・・・。本当に申し訳ないが、オレにこの子を教えるのは無理だ!!

心の中で叫ぶ儒楠だった。薪の意図としては地球に行く前に桃眼のコントロールを多少なりとも出来る様になっておかなくてはいけないという思いからではあるのだろうが、どう考えても穂琥を教えることが出来るのは薪しかいない気がする儒楠だった。そもそも本来ならこんなに無意識に眞稀を練る事は出来ないものだ。だからこそ、儒楠には無理だと感じさせられるというわけだ。

「素質がいい。愨夸の子で双子だからね。だから何も考えないで眞稀を練り上げ放出できるのさ。本来だったそんな無駄な練り方は出来ないんだよ、底が知れているからね。でも莫大な力を有している薪や穂琥なら体中を駆け巡り無駄な動きをさせた後でも簡単に体外へ放出しそれを術として行使できるんだよ。とはいっても、薪はそんな無駄はしないけどね。だから穂琥は薪に勝てないんだよ」

儒楠はどうしたものか考えながら穂琥にそう伝える。穂琥は少しだけ驚いた顔をしたがすぐにむくれたような顔になる。

「双子でも素質がいいのと悪いのがあるもん・・・」

「そんな事はないよ。眞匏祗はちゃんと平等さ。それに加え、愨夸の子息がそんな不平等且つ、脆弱なわけがないでしょ。少し育ちが異なっただけ、使い方を知らないだけさ」

穂琥はじんわり目が潤むのを感じる。いつもなら弱音とかを言えば薪の鉄槌が下って結局泣きながらでも修行を行使させられるというのに、儒楠というお方は慰めるように言ってくれるものだ。


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