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眞匏祗  作者: ノノギ
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第五十三話 トキハナツ

 儒楠の語った小さな過去。梨鹿という少年は自らの力を過信してその肉体はこの世から消え去った。しかし、魂石だけはこの世にまだ残っていた。それが恐ろしい痲臨の力。本来ならそこまで肉体が砕けてしまえば魂石だってこの世に残るわけが無い。でも魂石はしっかりと今もこの世に残り、薪の手元で保管されていた。そしてそんな痲臨の呪いとも呼べる力から開放するために薪は綺邑の力を借りようとしていたのだろう。

「だからそんなもの消えてしまえばいいって思ったんだよ。憧れていたのにあんなくだらない力に魅入られてしまって・・・」

切なげに語る儒楠の表情に穂琥は眉を寄せた。決して恨んでなどいない。ただ何も出来なかった自分が悔しかったのだと穂琥は知った。そして今もそんな彼を救うことが出来ない自分が腹立たしくて仕方ないのだろう。

「そんなしょぼくれてどうする。そんな事よりこれからだろう」

戻ってきた薪が笑いながら言った。その手には緑色の魂石が握られていた。

「綺邑、頼むよ」

「・・・」

相変わらず返答はない。しかし薪は満足げに綺邑へ魂石を手渡した。その魂石を見て儒楠は拳を握った。

「落ち着けよ、儒楠」

薪の柔らかい声が部屋に響いた。

「立て」

そんな薪の声とは裏腹に重たい声が響く。本当に女かと思うくらい重低音。儒楠は軽く焦りながら慌てて立ち上がり、綺邑の指定した場所に立った。綺邑が何が何だかわからない言葉を発する。まるで何かの呪文のようだった。そしてその様子を食い入るように見ている薪が気になって穂琥は薪へ呼びかける。しかし、一回目の呼びかけに薪は応じなかった。

「薪・・・?薪ってば~?!」

「・・・え!?あ、な、何?」

呆然としている薪がやっと反応を示し呼応した。反応を示したはいいが、結局穂琥のほうを見ることはなく、綺邑のほうを凝視している。

「綺邑だから心配は無いだろうけど、この術の成功率は酷く低い、のに成功するんだよなぁ~アイツは。それに覚えたいんだよね、あの術」

「え?!薪は使えないの!?」

薪が使えない術があるなんて正直驚いた。薪はそこまで過信するなと引きつった表情を浮かべた。

 綺邑の前に立つ儒楠の手に握られている緑色の魂石が徐々に黄色みが掛かってきた。痲臨の影響を受けて緑色へと変色してしまった魂石は元の色は黄色。その色に戻れば完全に開放されたことになる。

「用は済んだ」

綺邑がそういうとふっと肩から力が抜けてへなへなと座り込んでしまった。綺邑は機嫌が悪そうに帰ると言い残してふっと消えた。

「取り乱して・・・ゴメンね・・・」

「戻ったか?」

にやりと笑って薪は儒楠に手を貸す。その手を借りて立ち上がる。

「さてと」

薪の声音の変化に驚いて穂琥は固まった。

「気分でも変えますか。なぁ、儒楠?」

「え・・・?あ!」

何かを思い出したように儒楠がはっとした顔をしてそれから少しだけ嬉しそうに表情を変えた。

「そうだね、やろう」

より一層にこやかな表情をして儒楠は薪の言葉を受け入れた。薪も楽しそうな顔をして部屋から出て行こうとする。

「じゃ、穂琥ヨロシク。連絡してくる」

「あぁ、頼むよ」

薪と儒楠は何か勝手に話を進めてさらには薪にいたっては部屋を出て行ってしまった。

「ちょ・・・・え・・・?何ぃぃぃ!?」

穂琥は叫んで薪の後を追おうとしたが儒楠にそれを止められる。

「まぁ、まぁ。気にするなって。さっきは悪かったね、本当に」

儒楠が切なそうに笑った。穂琥は慌て手を振った。まだ少し今まで通りには戻っていないような感じがしたがそれでも十分だと穂琥は感じた。

 少ししてから薪が戻ってきて来いと促す。部屋から出ると薪が一階まで来るようにと伝えてその場から消えてしまった。

「き、消えた?!」

「え?穂琥、移動術を知らないのか!?」

「あ。すいません・・・」

己の無知を恥じる穂琥だった。

「さ、行こう」

「儒楠君は移動術使えないの?」

「いや、使えるよ」

にこやかにそう答える儒楠にだったら先に行っていいよと言ったがそうも行かないと儒楠は笑って答えた。

「ゆっくり行こう」

「う、うん」

穂琥は答えて儒楠の後を追った。


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