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眞匏祗  作者: ノノギ
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第二十八話 イッタイ

 部屋に戻るとすでに謝罪ポーズの儒楠がそこにいた。

「お前、いつまでこの状態はあの子にも申し訳ないと思わないのか。七海のやつ、食料も持っていなかったぞ」

「いや・・・まぁ・・・」

言葉を濁す儒楠は頭をかきながらいつかちゃんとしないといけないなぁとぼやく。そんなこと言っていないでさっさと断ってしまえばいいものではないのかと思ったのだが、世の中そんなに簡単ではないようだった。

 とにかく、儒楠はここに泊まることになり穂琥の隣の部屋で夜を過ごすことにしたようだった。


 朝、目を覚ますとすっかり体のだるさもなくなり、魂石の具合もよくなり薪は自分の体が完全に治ったことを感じ取っていた。そんな折、部屋にぐったりとした儒楠が入ってきたので最初どうしたのかと疑問に思ったがその様子を見て寝不足だと察して薪は少し笑った。

「寝にくいだろう?」

「いや、初めてだよ、あんなの。世の中にはあんな怪物がいるのか・・・?」

「ははは。あいつは天下一だ」

「いらねぇな、そんな天下」

「何が天下なの?」

薪と儒楠の会話に穂琥が乱入する。扉を開けて入ってきた穂琥の表情は寝不足とは無縁のすっきりとした表情だった。儒楠は苦笑いをして困った表情をしているので仕方なく薪が代弁することにした。

「何、大したことじゃないさ」

「何それ?」

少し不貞腐れ気味の穂琥の表情を見て軽く笑うと儒楠もははと声を立てる。

 簡単な話、穂琥の寝相の悪さが天下一だということだ。隣の部屋に寝ているのに隣から聞こえてくる壁を壊すような音に警戒心として目を覚ましてしまった儒楠が寝不足に陥るというわけだ。穂琥の寝相の悪さを党の昔から知っている薪はそれを悟って儒楠に笑みを送ったのだった。

 体調が万全になったので通常愨夸勤務に戻るために仕事部屋と呼べる所へ行く。そして仕事が速いほうだと思っている薪ですら、この仕事は今日一日で終わるか自信がないほどの量が机の上に乗っていた。それを見てため息を吐きながらさっさと済ませてしまおうと席に着く。

 昼ごはんを穂琥と儒楠とともに食べてからも残りの仕事を片付けようと必死になる薪を見て、どうやら不安になったらしい穂琥が部屋に入ってくる。

「大丈夫・・・?さすがに病み上がりでそこまでやって平気?」

「柔じゃないからな」

「そういう問題じゃないし・・・」

自分が影響している事が気を引いているのかやたらと心配そうにしている。あまり深く気にしすぎてもこの先に支障が出そうで少し不安になる薪だった。藍飛の行ったことは穂琥にとっては刺激が強すぎた。そして何より今まで地球にいて戦闘をしていなかったのもあり、油断をした自分が許せなかった。眞匏祗を甘く見ている穂琥に対象はいい刺激になるかもしれないと思ったまではよかったが、予想以上に自分が耐える事に気づくことができなかった。それがどれだけ自責の念に駆られたことか。それだというのに穂琥がここまで苦しむ姿が辛く思える。

「穂琥、気にするなよ・・・」

小さい声で言う。穂琥はその声をわずかに聞き取って部屋を出ようとしたのをやめて何を言ったのを確認してきた。

「いや、なんでもない」

「うん、わかった」

相も変わらないその笑顔で穂琥は部屋のソファに腰を下ろす。そして小さくため息を吐く。自分は弱い。妹にすまないと言う事すらできないなんて、どこが天下の愨夸だと笑いたくなる。

 そうして過去を振り返っていて、魂石のことを全く以って話していなかったことを思い出し、穂琥に魂石の説明をしようと一度仕事から手を離した。タイミングよく、儒楠も部屋に入ってきた。

「おう、仕事どうだ?終わりそうか」

「いや、まぁ。なんとかするさ。丁度良いや。儒楠、お前も付き合え」

「ん?」

疑問そうな儒楠をそのままにして穂琥の前のソファに腰を下ろす。儒楠もなんとなく流れを悟って薪の隣に座る。

「ん?どうしたの?」

穂琥が首をかしげる。

「魂石の説明をしないといけないと思ってな」

そういうと穂琥は見るからに意気消沈した。その様子を不思議そうに見る儒楠。そんな儒楠に軽く話をする。

「穂琥に魂石を貸したんだよ」

「へぇ?」

儒楠は少し怪訝な表情をしたがすぐに表情を戻してわざとらしい笑みを浮かべた。

「お前ってそんな簡単なやつだったか?」

「ほう、言ってくれるな」

薪もにやりと笑みを浮かべる。それをしおらしく見ていた穂琥が視界に入って儒楠とのふざけ合いを中断して話の本題へと入る。

「ごめん・・・」

穂琥は珍しく落ち込んで謝る。

「いいって。貸したオレが悪かったよ。それに藍飛に渡すってわかっていたんだ。それに藍飛が何に使おうとしているかとかも」

穂琥ははっとした顔をする。これで少しは懲りたはずなのだ。おそらくそれは穂琥自身がよくわかっていることだろうからあえては言う必要がないはずだ。

「なるほど?お前、魂石を悪用されたってわけか?」

「うっせーよ」

さらにわざとらしい笑みを浮かべて儒楠が言うと薪も笑いながら言う。そして儒楠は少しだけまじめな顔をして顔も知らぬ藍飛の存在を思い浮かべて憂いた表情をする。

「ま、薪の魂石ならその藍飛って奴、そのまま使っていたら死んだだろうな」

「まぁな」

「え?!」

儒楠の言葉に穂琥は声を荒げた。それも含めて話をちゃんとするからと宥めて立ち上がった穂琥を座らせる。

「魂石がどんなものであるのか、ちゃんと話しておかないとな。どういうものか、説明できるか?」

薪の質問に穂琥は少しの間悩んだ風にしてから小さな声で答える。

「心臓、というか・・・命?みたいな・・・?」

自信なさげに言っているからまだ良しとするかとため息を吐いている薪の隣で目を丸くしている儒楠がいた。

「こ、こんな子に魂石を貸したのか・・・!?」

ごもっともな意見。自分の心臓、命をビー玉のようにしか思っていないような奴に渡したようなものなのだから。

「オレがちゃんと説明をしなかったのが悪いな・・・・。ま、いいよ。まずな。眞匏祗の中に『即死』というものはほとんど存在しない。魂石が一瞬のうちで粉砕されることはないからな。知っているだろう?魂石は粉々になって完全に消滅しない限りは眞匏祗も死ぬことはないって」

「うん・・・」

「まぁ、あの方が行っていた実験ではそういった『即死』させることが出来てしまったんだがな」

さらっと言った言葉に穂琥は衝撃を受けた顔をしたので言わないほうがよかったかと少しだけ後悔する。

「まぁ、他にもあるけどな・・・」

儒楠が付け足すように言うが、その声はひどく重い。眞匏祗の肉体を魂石ごと消滅させる術がこの世には存在している。確かにそれを使えば即死かもしれない。

「そうだな。そういえば藍飛が穂琥に撃ったのもそういった類のものだったな」

「え?!そうなの?!じゃ・・・薪が庇ってくれなかったら私・・・」

「消滅、していたかもしれないな」

薪の言葉で穂琥がいっそう落ち込んでしまったようでどうにも罰の悪い気分になった薪だったが、これも一種の教育になるのかと自分に言い聞かせるように頷く。

「何を使ったんだ?」

坐派ざっぱだったよ」

「は!?それを止めたのか!?ったは~・・・・。やっぱお前はすごいなぁ」

感嘆する儒楠を放っておいて薪は穂琥に向き直る。

「本題だ。つまりな。そうやって肉体ごとの消滅をさせるような大きな力を使わなくては魂石を一瞬にて壊すことは出来ない。そしてそんな魂石の破壊を出来る力を有しているのが先ほど言ったとおり、愨夸なんだよ。怖いだろう?愨夸って」

穂琥は俯いている。薪は小さなため息を吐いて話題を変える。

「なぁ、穂琥。どうしてそんな魂石を体外に出すことが出来ると思う?そんな破壊されてしまうような術をかけられるくらいなら体内に入れておいたほうが安全だろう?」

穂琥ははっとして顔を上げた。

「魂石の能力を行使するためだよ」

儒楠が言う。穂琥は相変わらず不思議そうな顔をしている。


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