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眞匏祗  作者: ノノギ
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第二十七話 イイナズケ

「そうだ、お前、何しに来たんだ?連絡もなしに突然」

「あ!忘れていた!ちょっと匿って!」

「・・・・は?」

半ば呆れたような声を上げて薪は儒楠を見た。儒楠はどこか苦笑いをしながら匿うことを願い出る。

「理由」

「ひどいなぁ・・・。悪い!扱いはどうでもいいから!」

手を合わせて必死に懇願する儒楠に薪はさっきまでと違って冷たい視線を置くる。

「理由を答えろって!理由なしに泊められる訳無いだろう。それにそういえば、お前どうやってここに入ってきた?」

「あ、忍び込んだ」

薪の表情が引きつる。それを確認した儒楠は宥めるようにする。薪は深いため息をついて頭を抱えた。

「ここの防備はザルだな・・・。オレが戻ってから進入を4度も許してしまうとは・・・」

「お前、何かあったのか?」

儒楠がどこか思わしげな表情で薪に言う。薪は怪訝な表情を見せる。それから、なんでもないとごまかすように言う。儒楠はそれを得て、これ以上は無意味だと判断したらしく穂琥をつれて医務室を出て行くことを決意したようだった。

「え、ちょっと!え?!」

その行為に戸惑いながら穂琥は儒楠に外へ連れて行かれる。その様子を何か感慨深い顔で見送る薪だった。

 部屋を出た穂琥は儒楠に抗議する。儒楠は部屋の扉を見ながら、否、部屋の中にいる薪を見ながら深刻な表情を見せる。

「儒楠君・・・?」

「穂琥様・・・穂琥、でいいかな?」

「もちろん!」

呼び方を確認してから儒楠は扉に背を向けてそのまま寄りかかった。

「あいつは何かを隠している。それだけはわかるんだけど、それ以上はわからない。薪はそういった類のものを隠すの、上手いからなぁ」

遠い目をしながら儒楠は肩をすくめる。穂琥もそんな儒楠の言葉に同意する。薪は何もかも背負い込んで自分だけで何とかしようとする。その悪い癖をなんともやめてもらいたいものだった。

「あいつは感情を押さえ込んでしまっているから本当にわからない」

「うん、確かにそうだね」

儒楠は床を見つめてため息を吐く。そんな儒楠を見て穂琥はこんな話のさなか、不謹慎とは思いつつもうっかり笑ってしまった。

「何?」

「いや、なんだか嬉しくて」

「へ?」

儒楠は素っ頓狂な顔をした。なんだか薪がそんな顔をしたみたいでおかしかった。

「私、今まで見てきた方たち、みんな薪のこと頼りにしていてさ。だから余計に薪は自分を押さえ込んで完璧にあらなければいけないって感じにさせてしまっているような気がしてね。だから、儒楠君みたいに薪を気遣ってくれている、そんな存在がいてくれたことが嬉しくて。儒楠君を見たとき、薪がすごく嬉しそうな顔をした理由がよくわかった」

穂琥がそう言うと儒楠も少し嬉しそうに微笑んだ。それから穂琥の頭に手を置いて優しく言う。

「でもね、穂琥ほど薪を安堵させることが出来る存在はいないよ。薪は穂琥のことが一番大切なんだよ」

儒楠のその微笑があまりにも優しくて穂琥は全身の力が抜けてしまいそうだった。

「あ、そうだ。儒楠君、これからどうするの?」

「あー・・・。薪は泊めてくれなさそうだからなぁ。帰るしかないかな」

さらに肩をすくめて儒楠は疲れたように言った。そんな儒楠を見て穂琥は小さく笑った。儒楠はその笑った穂琥に疑問の表情を向ける。

「薪はそんなに小さいにん・・・眞匏祗じゃないよ。大丈夫だよ。たぶんちゃんと泊めてくれるよ」

にっこりと笑っていった穂琥の言葉に少しだけ驚いた表情を見せたからそうだねと笑う儒楠。顔が似ているからどこか違和感を覚えてしまうけれど、まったく違うそのオーラに和みを感じた穂琥だった。

 長夸や役夸たちが忙しそうに医務室へ出入りしている。この世界のトップである愨夸をここまで傷つけてしまったことに対する己らの無力さに口惜しく悔しくもどかしいものなのだろう。その失態を犯してしまった償いのために今、必死になって愨夸をサポートしようとしているのだろう。そんな彼らをサポートしながらできる限り手伝いをしていた穂琥と儒楠は何とかそのごたごたも落ち着き始めたころに、再び薪の元へ行き、儒楠をここに泊めることの了解を得ようとした。

「だから、一体何があってここに来たのかって聞いているんだよ。それを答えろや」

薪は冷たい目でそういう。儒楠は少しだけ困った表情をしながら小さな声で女性の名前をつぶやいた。

「七海・・・」

その名前を聞いた瞬間、薪は納得の行った表情をした。

「なるほど。お前、まだ逃げ回っていたのか。もう諦めて腰を据えたら?」

「い、や、だ!絶対にいやだ!」

儒楠はとてつもなく強く薪の言葉を否定した。穂琥は首をかしげる。

「その女性は一体誰なの?」

「儒楠の許婚だよ。この先も安泰だな?」

「やぁめぇてぇ!!いやだ!あの女は嫌過ぎる!もっと可愛いらしい子がいい!」

さらに儒楠は強く首を振って否定した。

「許婚って・・・もう結婚する相手が決まっているの!?」

「勝手に決められただけだ!オレは同意した覚えはない!!」

ベッドをがんがん叩いて叫ぶ。軽いため息をつきながら笑っている薪を見て穂琥はさらに首をかしげる。

「どうしたの?そんなにニヤニヤして・・・。それに儒楠君も、どうしてそんなに嫌がっているの?」

「ははは。七海の親が勝手に決めた相手となんてしたくないだろうなぁ。結構前からそれを知っていたからね、今必死でそいつが逃げてきてここに来た意味がよくわかっただけさ」

楽しそうに笑う薪に笑い事じゃないと怒鳴る儒楠。どうやらあまり好みでは無いようで儒楠はとにかく否定していた。そんな折に、役夸が部屋をノックして入ってくる。

「お休みのところ、申し訳ありません。表門に女性が参られたのですが言葉が通じず長夸の御方々も困っておりまして・・・。煩いでなければ薪様のお言葉を是非と・・・」

ほとほと困り果てた様子の役夸がその困りごとを薪に伝えなければならないという重荷もあってさらに困り果てた表情で言っていた。

「あぁ、わかった。すぐに行くよ」

薪はそんな役夸に微笑みながら布団を出た。それからちらりと儒楠を見たが、儒楠は椅子にがっしり座り込んで背筋を伸ばして動こうとせず、首だけ必死に横に細かく振っている。

「はいはい、わかったよ。じゃぁ、ちょっと行って来るから」

穂琥をつれて薪は長夸と役夸が困り果てている表門へ向かう。

 雄叫び聞こえて穂琥は急がない薪を無視して急いで表門へつながる扉を押し開けた。するとそこには殺気にも似たものを放ちながら叫びあげている女性がいた。周りには長夸が必死で押さえ込むようにしていて、さらにその外に役夸が困り果てた顔で固まっている。

「おいおい、オレの城の前で暴れるのは止してもらえるか?」

「うっさ・・・、し、薪様!?これは、失礼いたしました!しかし、丁度よかったです!この者達では話になりませぬ!儒楠は!?儒楠はどこにいますか?!あちこち探して見つからずに・・・ここしかないと思って参った次第でございます!」

女性は一気にそういうと、薪の返答を待つために黙り込んだ。薪に対してそれなりの敬意を払っているようだが、どうにもそれを凌駕して儒楠が見つからないことで必死のようだった。薪はとにかくその女性に落ち着くようにと宥める。先ほどの発言からおそらくこの女性が儒楠の許婚、七海であることがわかった。

「儒楠はここにはいないぞ」

「そんな?!ではどこに・・・!い、いえ。構いません。なんとしても自力で探し出しますので。ご迷惑をお掛け致しまして申し訳ありませんでした」

七海は深々と頭を下げると急にしおらしくなって帰路に着こうとしていた。薪はそんな七海の装いを確認してから声をかけて七海を止めた。それから近くにいた役夸に指示を出して食料と水を持ってこさせる。

「そんな丸腰状態じゃいつか飢えるぞ。持っていけるものは持って行け」

「あ、ありがとうございます!」

瞳に涙を溜めて謝礼の言葉を述べると少しだけ嬉しそうな表情をした。

「儒楠に優しくしてもらえたような気がして・・・。あ、申し訳ありません」

「いや、構わないよ。この先の旅路の勇気付けになるのならそれはオレにとっても嬉しい」

七海はまた少し嬉しそうに微笑んで深く頭を下げて去っていった。

 そんな彼女を見送ってからいくつか思うこともあるが、穂琥はまず薪の嘘を確認した。薪は嘘をつかないのに、儒楠がいないと言った。

「あぁ、ここにはいない。オレの部屋にいるのだから」

「あぁそんなに小規模な『ここ』なのね」

確かにそれは嘘にはならないかもしれない。それを確認しなかったのは七海であるのだから仕方のないことなのかもしれない。それから薪を見て儒楠が優しくしてくれたようだと言った七海の言葉が少し引っかかる。むしろ優しいのは儒楠のほうで薪ではないような気がする穂琥だった。そして来客に対する薪の態度が穂琥や儒楠に対する態度と異なることも少し引っかかることではあるがそれはきっと愨夸としての最低限の態度なのかもしれないので触れないでおくつもりだ。怒られるし。


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