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眞匏祗  作者: ノノギ
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~第二章~ 第二十六話 ウリフタツ

 翌日、穂琥はまだ身体の芯で震えている感覚が消えないまま部屋から出てきて、薪のいる医務室へ向っていた。薪の回復力は大したものだからきっともう、元気になっていると信じて穂琥は足を進める。

 ふと、廊下を歩く後姿を眼にして、穂琥は驚いた。まさか、歩けるまで回復しているとは思えなかったからだ。

「薪!」

叫び声をあげて駆け出す。振り向いたその表情はどこか驚いているようだった。

「もう平気なの?!具合は・・・!?怪我は!?もう歩けるの!?」

「・・・・・え?」

穂琥は少し呆然とした。にっこりと笑って大丈夫だよ、というか嘲笑うようにしてこの程度なら一日で治る、と言うかと思っていたのに、穂琥と同じように呆然としている。

「えっと・・・・薪?」

「あ~、オレ、薪じゃないです」

手を振りながら彼は薪であることを否定する。しかし、どこからどう見ても薪だ。穂琥は仕返しに薪がからかっているのかと思って少し不貞腐れた。見るからに薪であるその眞匏祗は少し困ったような表情をしてどうしたものか悩んでいるようだった。それからはっとした表情をして穂琥の腕をつかんだ。

「そうだ、医務室へ行こう!」

突然引っ張られて戸惑いながらも抵抗はあまりしないで着いて行くことにした。

 医務室は慌しい様子で役夸や長夸が出たり入ったりしていた。そんな光景を目にしながら穂琥は医務室へ入る。

「今、それをすることは出来ないから後回しだな。その代わりこっちの処理を頼むよ。そうそう、それ」

ベッドの上に引っ切り無しに長夸に命令を与えている薪の姿があった。

「・・・・・ん?薪?」

「お?あぁ、穂琥。おはよう」

「お、はよう・・・。元気になったみたいで何よりですが・・・・」

挙動不審そうな穂琥を見て薪は顔をしかめた。もっと大声を出すかと思っていたが、予想に反して大人しい。首をかしげている薪を見ながら穂琥はまず、怪我の方が大事無いと言うことを理解しほっとしつつ、では先ほどの少年は一体誰だとその少年のほうに怪訝な表情を向けると、その少年はだから言ったじゃないですかと笑っていた。

「客か?」

穂琥の対応に気付いた薪が穂琥に尋ねた。前科のある穂琥はここで少し胸が苦しくなった。もし、彼が薪を模した偽者でまた悪しきことをこの城に持ち込んでしまったのかと不安になる。しかし、そんな不安を差し置いて、その少年はずかずかと医務室へ入っていって真に笑みを送る。

「久しぶり、薪」

軽く手を上げてそう挨拶する。薪は酷く驚いた表情をしてから急に嬉しそうな顔になってベッドから抜け出して少年の元に走る。

「あ、薪様!まだベッドからは・・・もう・・・」

薪にそれ以上言ってもきっと戻ることは無いと悟った長夸は呆れたように肩を落とした。

儒楠じゅなん!久しぶりだな!なんだ?いつ来たんだ?

「今さっきだよ。にしてもお前、ボロボロだな。何があった?」

「いや・・・ちょっとな」

薪が尋常ではないくらい嬉しそうに会話を進めていることに穂琥は目玉が飛び出るくらい驚いていた。感情の起伏があまりない薪がここまであからさまな表情を出すなんて、この儒楠という少年は一体何者だ。

「あ、こいつはジュナン=ロウ=テイア。オレの幼い頃からの朋だ」

「よろしくお願いします」

にこやかに微笑んだ儒楠。

「よ、よろしくお願いします・・・・」

顔が薪にそっくりなのでなんともいえないほどの違和感を覚える。そんな違和感にさいなまれている穂琥など露知らず、薪と儒楠はいつ以来の再会だとはしゃいでいた。儒楠は優しく微笑んでいるが、それがまるで薪に見えて、薪がこんなに優しそうに微笑むことなんて見たことない穂琥にとってどこか斬新でどこか恐ろしかった。裏がある笑みしか見えなくて。

「穂琥を探しに行く3年前だから・・・7年前か?」

「あれ、そんなだったっけ」

儒楠が不確かな記憶を辿るように笑う。そんな仲睦まじいそして久しぶりの再会を喜んでいるところを邪魔したくないのだろうが、敬愛なる愨夸の身体に障ってしまっては困ると、長夸が横槍を入れた。

「失礼ですが!お体に触ります!ベッドに戻ってください!」

「ったく・・・心配性だ・・」

「当たり前です!!一体、どのくらいの時間眠っていたと思っているんですか!」

「はい、すいません・・・・」

萎縮した薪は渋々ベッドに戻る。

「儒楠様。お久しぶりです。どうぞ、御緩りと」

「おーい、長夸!オレとの態度が違いすぎるぞー!」

「少しは反省してください!」

儒楠に対して深く頭を下げた長夸に薪が苦情を入れると即答で返した長夸に苦笑いをする薪。穂琥はその光景をただ呆然と見ていることか出来なかった。

 長夸たちも医務室を出て、すっかり静かになったので薪はため息をついて、改めて再会を喜んでいた。

「相変わらずだな、薪」

「ははは、まあな。平和の象徴だと思わないか?」

「あぁ、思う」

楽しそうに会話しているのはいいのだが、おいていかれている穂琥としては少し寂しい。やっとそれに気付いた薪が話を切り替えてくれた。

「悪かったな。あんまりに懐かしくて舞い上がってしまったよ」

「ん・・・。あの、どうして彼は薪に敬語を使わないの?!愨夸が相手だよ・・・?い、いや別に悪いって言っている訳じゃなくてね」

「まぁ、普通はそう思うだろうな」

「うんうん」

薪の言葉に儒楠が呼応する。

 薪と儒楠は昔に出会って仲良くなったらしい。初めて互いを見たとき本当い驚いたとか。そして初めて出会ったその時、薪は自分の身分を隠して儒楠と接していた。そしてある日、突然自分が愨夸であることを明かし、儒楠は半ば失神しそうになるくらい驚いたらしい。そりゃそうだ。

「だから最初から敬語なんて使っていなくて、今更、愨夸と知ったところで使うって言うのも微妙だろ」

「い、いやぁ~・・・そんなことは無いと思うけど・・・」

簡単にそう言って退けているが儒楠のほうも苦笑いしている。

「いやいや。お前さん。冗談はきついぜ。敬語を使おうとしたオレを全力をかけて脅してきたのはどこの誰だよ」

「あ?そんなことあったか?」

「こんにゃろ・・・」

あっけらかんと誤魔化す薪に儒楠は苦笑いをする。

 薪は極度に敬語を嫌う。愨夸として頂点に立っていても、民のことを理解していなければ、しようとしなければ立つ意味も無いというのが薪の見解。そしてそれには平等というものが必要となる。恐れをなした高圧的な政治では誰も本心を語ってなどくれない。ならば皆と同じ立場になって親身になってそれを考えれば次、どうするべきかが見えてくる。そう言った平等に一番邪魔なのが『過剰な敬意』だ。それがあったら何も始まらない。それを取り払ってやっと世界を見渡せる。

「オレだけか?お前に敬語を使わないのって」

「そうだな。いるぜ。この城を潰そうと襲い掛かってくる奴らとか」

儒楠は笑いながら薪の頭をはたく。

「アホか!それ違うだろ!あははは! あ、そうだ。薪。この子、可愛いんだよ」

「は?穂琥が?」

突然儒楠が切り出したので薪が驚いた声を上げた。穂琥も驚く。

「だって、オレに『薪!』って普通に呼んで来て否定しても信じてくれないんだもん!」

「はぁ!?阿呆か、お前!服装が全然違うだろうが!

「わぁん!ごめんなさぁい!」

頭を抱えて叫ぶ穂琥に薪は呆れたように頭を抱えた。それを楽しそうに見ている儒楠だった。


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