第十八話 ネオン
そうして行き着いた場所は刻紋。そして棚から禰怨を取り出して穂琥に見せる。
「これが禰怨、愨夸紋を刻み込む刀だ」
「す、すごい気持ち割る眞稀・・・」
過去の苦痛と惨劇を吸い取った禰怨の眞稀は相当気持ちの悪いものだろう。そうしてそれを見ながら薪はそっと言う。
「オレが愨夸になんてならなければよかったんだ」
「え?」
薪が愨夸紋を刻んだのは2歳のとき。それからしばらくの後、愨夸の意志でその座位を継承することになる。そしてそんな恐るべき記録はあっという間に世界に広がる。そこが原因だろう。薪のことが世間に出回ることが無ければ、あんな悲痛な思いをすることは無かったのかもしれない。
「どういうこと?」
「自分で言うのもなんだけど、オレが優秀だって言うことが世間に知れ渡ればそれを利用しようとする輩も出てくるわけだ」
巧伎を愨夸として認めない。そんな残虐性のある愨夸など、この世の頂点に立っていることがおこがましい。そう思っているものも数少なくない。そこまで言わずとも今の愨夸に退いて欲しいと思うものは大勢、むしろ全てといっても過言ではない。そういった連中の中からあの日の惨劇を引き起こしたものが出現したと言うことだ。
「愨夸を潰す為なら手段を選ばないヤツだ」
「ヤツ?一人なの?複数形ではなくて?」
薪は少しだけ怪訝な顔をしたが、なんでもないといった風に表情を戻してそうだと肯定した。それから禰怨を台の角にぶつけて響く音を鳴らす。
この禰怨によって刻み込まれたものはもはやのろいに等しい。禰怨自身が持つ強大な眞稀。そして禰怨以外の刀で愨夸紋を斬られた場合、凄まじい反発を起こして愨夸紋を刻まれている部位に信じられないほどのダメージが与えられる。そして愨夸紋にはある一部のみ、死角が存在する。そこを突くと愨夸紋の所有者は死に至る。
「この話はここまでな。とりあえず頭においておけ。さて、と」
薪はため息混じりに言う。穂琥は悟る。薪は言ってくれるんだと。
部屋に戻ってから、薪は眼を伏せて再びため息をつく。今まで閉ざし続けてきた大きく重い扉を、薪は開けるのだった。