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眞匏祗  作者: ノノギ
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第十七話 チガイ

 さて、薪はどこにいるでしょう。朝起きてからずっと探しているのに全く見つからない。途中で役夸を見つけて声をかける。

「ねぇ、薪知らない?」

「え?!あ、い、いえ・・・。申し訳ありません」

「そっか。いやいや、謝ることないよ。ありがとう」

穂琥はさっと走り出す。そうして探し回っている間に例のごとく迷子になる穂琥。広すぎる城内では慣れていない穂琥にとっては迷宮。困り果てていると、笑い声が聞こえたのでそっとその聞こえた部屋の扉を開けると長夸たちが談笑していた。

「あれ?穂琥様?どうなさったのですか?」

長夸が気付き、他の長夸も振り向く。

「あ、薪を探していて・・・」

「薪様?また墓参りかな?」

長夸が言うと、他の長夸も笑い声を立てて同意していた。穂琥は自分の中に渦巻く違和感で呆然としていた。

「そうそう、たいてい見つからないときはあそこにいますよ!」

「そ、そう・・・。ありがとう」

穂琥は墓に行くべく、とにかく下に降りた。呆然としすぎて迷子になったことを言いそびれたのでとにかく下に行けば一階に行くことはできる。

 やっとのことで城外へ出ることができ、薪がいるかもしれないと思える墓へ足を運ぶと、やはり、薪はそこにいた。

「毎回、毎回、ここにいる見たいだけど、何を考えているのよ」

突然声をかけたのにもかかわらず薪は驚いた風もなくただそこに立っていた。まるで言いたくないと言うかのように。しかし、それに反して薪は口を開いた。

「オレは3歳の時にやってはならない過ちを犯した。その重さに耐えられなくなるとここに来ているんだよ。落ち着くわけでも和むわけでも軽くなるわけでもない。むしろその気持ちを強くさせるだけだけど」

薪にしては信じられないくらい弱々しい言葉に穂琥は愕然とした。直に話すよと言って薪は会話を打ち切ってしまった。それ以上、この話を続けることは穂琥には出来ない。だから、今朝から感じている疑問をぶつけて話題を変えることにした。

「役夸と長夸でさ、薪に対する態度が違いすぎるんだけど。どうして?」

穂琥のその質問に、やっと薪はこちらを向いた。そして少し面白そうに顔を笑わせる。

「そらそうだろうな。今の長夸はオレがガキの頃の役夸だったヤツらだ。今の役夸はオレが比較的地球にいたとき、崖の向こうから集められた者たちだからな。今の愨夸と昔の愨夸と感覚はそんなに変わっていないのさ」

薪のその説明で納得がいった。どこか怯えているような態度をとる役夸と、平然としている長夸との差はそれか。小さい頃から薪のことを見続けてきた、『元』役夸たちだからこそ、今の薪の扱い方を知っているのだろう。

 納得している穂琥を前に薪はなぜ探していたのかを尋ねてきた。

「・・・・えと。もう!探すのに手間取って何で探していたか忘れちゃったよ!」

そういうと薪は笑った。それから少し前の話題を持ってきた。

「これも教えておこうか。気になっていたみたいだからな。ここにきたときに、ネムって子がいただろう?」

「うん」

ネムが発した言葉。『首をはねないでください!』と言うもの。案外それはこの世間にとってかなり重要なことだった。薪は石段を降りる。

「移動しよう」

そういって墓を後にする。

 部屋に戻るとドンと椅子に腰を落して薪は一つのため息をついて穂琥をまっすぐに見る。時折この薪のまっすぐ見てくる眼に負けそうになるときがしばしばあるが、今回は負けないように目を張る。その努力を見てか、薪は小さく笑ってからは話し始めた。

 薪がこの世に生を受けるよりも前からそういった行為は行われていた。愨夸に仇なすもの全ての首を落す。それが愨夸の統治の仕方でもあった。無論、それをするかどうかは愨夸しだい。だから今はそれを行っていないわけだ。そしてその首を撥ねることを黯御あんごと言っていた。

「名前までつけるたぁ、物好きだよ」

わずかに怒りと悲しみの混ざるその声に穂琥は額に力を入れる。そして、薪はさらにおのれの父親の行いを語る。

「アイ・・・あの方が行ったのはただの黯御ではないんだ」

黯御された者はその身を遺族に戻されることはなかった。

「あの方は遺体を供養するでも、処理するでもない。罪無き眞匏祗を無茶な理由で罰しその首を撥ね、その身を・・・」

薪の顔に怒りが見えた。純粋な怒り。こんな風に起こった薪の顔も珍しかった。でも、次の薪の言葉にそんなことなど吹っ飛ぶほどのことが盛り込まれていた。

「実験台として扱った」

あまりの衝撃的なことに言葉を失う。穂琥はただ、呆然として怒りに顔をゆがめる薪を見ることしか出来なかった。頭が思考しない。混乱する。死刑と宣告した相手を討ち、なおかつその身を実験台として扱うなど、ひどいにも程があるだろう。

「全てオレのせいなんだ。オレが生まれてこなければよかったのに」

薪が『生』を否定した。そのことに衝撃を受けた。どんなことがあろうと、薪はそれだけはしなかった。それが他者であろうが、己であろうが。

 思持として生まれた薪を、特別視ないわけが無い。その実態を調査するためだけに何千何万と、数え切れない眞匏祗を殺した。

「え、え、でもさ!首を撥ねるって薪が生まれる前からあったんでしょう?関係ないんじゃ・・・」

「いや、黯御自体は存在していた。ただ、実験台として行うようになったのが、オレの生誕後だ。それまでは落した後、遺族へ返していたんだ」

薪は悲しそうに目元をゆがませる。やろうと思えばとめることが出来たかもしれない。でも、自分が傷つくことが怖くて何も出来なかった。それが・・・。

「おかしいよ!」

薪の言葉を遮って穂琥が吠える。薪は驚いた表情をして穂琥を視る。

「みんな自分が優先だよ!それが普通だよ!そこまで気にする必要なんて無い!どこにも無い!心を持った生き物だもの!」

「・・・そうだね」

薪はそっと穂琥の頭に手を乗せる。いつもより眞稀の感じが尖っている気がした。その感覚がとても怖かった。揺れている薪。震える薪。それのどれも穂琥には急さする措置が無い。いつも助けてもらうだけで薪を助けることなんて穂琥には到底出来ない。それがもどかしくも悲しいことだった。過去に囚われている薪はきっとそこから動けていないのだろう。いつもしゃんとしている薪でも、実際ふたを開けてみればやっぱりみんなと何も変わらない。

「ねぇ、いつになったら教えてもらえるの・・・?」

弱い穂琥の声を聞いて薪は不安そうな表情で聞き返す。

「え・・・?何を言っているんだ・・・?」

「過去のこと。すごく辛い事だって分かっている。でも、私何も知らない。知ることが出来ない・・・。だから余計怖いし、辛いよ。薪に何があったのか知りたい!苦しいのは薪だけじゃないんだよ?!」

重たい沈黙が流れる。しかし、薪は小さくため息をついて腰を上げた。そしてついてくるように促した。少しためらったがぴりぴりとする薪の眞稀が拒否を許してくれそうには無かった。


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