第十二話 ケンギ
それから部屋に戻るかと思ったら全く別の場所へ連れてこられた。20畳ほどの何もない部屋。
「ここはオレがガキの頃に修行していた場所だよ」
父がここで薪を鍛えた。とはいっても巧伎はあまり薪に教えることはなかった。まだまだ生まれたばかりの子供で1年やそっとのぐらいで細かいところまで教える気はなかったようだ。簡単に言えば甘く見ていた、と言ったところだ。故に今薪が覚えている技などの数々は独学がほとんどだった。
「よし、穂琥。そこに立て。ほら、いいから立って」
突然のことに意味が理解できなくて抵抗しようとしている穂琥に薪は無理やり指示した場所に立たせる。仕方なくそれに従ってみると、突然薪が剣を出したことに気づく。それにものすごく嫌な予感がして穂琥は足を一歩下げる。
「どぅわぁぁぁぁあああ!?」
予想通り薪はその剣で穂琥に斬り掛かってくる。それに驚いてかなりひどい声が漏れた。それから何度か薪は剣を振るう。穂琥はそれを何とかしてよける。よけなければ当たるが、よければ問題ない。薪の方も手加減はしていることが理解できる。が、いったい薪がどういった理由でこんなことをしているのかわからなかった。
眞匏祗は確かに人で言う魔法のような力を有している。しかし、だからと言ってその魔法のようなものをぶつけ合って戦う訳では無い。いや、厳密にはそれだけでは戦わないということ。主に使うものは武器。大抵は剣が多い。その剣も持ち主によってさまざまな形をしている。その剣に己の眞稀を練りこんで強靭なものにして戦う。
息を荒げて穂琥は薪の刃から逃げていた。
「まぁ、こんなもんか」
激しく息を切らす穂琥の反面、全く息を切らしていない薪。まぁ、これは鍛えている薪相手だから当然かとため息をつく。
「お前はな、眞匏祗として生きていく資格が本当にない!人間すぎる」
薪に言われてはっとした。ネムという女の子がいた村で薪が特訓すると言ったことを思い出した。
「てっきり冗談かと・・・」
「オレも最初は冗談のつもりだったけどあまりのお前の危険性に危機感を覚えた。嫌か?」
薪はにやりと笑って穂琥に言う。例えここで穂琥が嫌だと全力で拒否しても強制的に行使するつもりだった。
「ううん!薪に特訓してもらえるなんて最高だよ!」
予想に反した穂琥の発言に薪は驚いた。てっきり嫌がるかと思っていたから。まぁ、やる気があるのは悪いことではない。薪は小さく微笑んで剣を鞘に納める。穂琥の基礎体力がどのくらいかは理解したからだ。
「問題は中だな」
「中?それは無理でしょ!性格なんて言うものはそう簡単に修正できないよ! あいだっ!」
薪からの空手チョップを喰らって頭に激痛が走る。その頭を押さえて薪に文句を叫ぶが、薪は冷たい目を穂琥にそそぐ。
「あのな。中っていうのは眞稀のことだ。ま~き。わかるかぁ?」
「あ・・・そうっか!」
この穂琥の天然っぷりはいったい誰に似たのだろうか。
とにかく今からは眞稀を向上させるための特訓をすることになった。感知能力も低い穂琥にとって眞稀を向上させればおのずと感知能力も上がってくる。そういうことで特訓が始まった。
何回もうだめですと言ったかは数えていない。そのくらい言ってやっと薪はやめてくれた。
「まぁ、こんな程度か。しょぼいなぁ。そんなに息が切れるほどやってないのに」
息をぜーぜーとしている穂琥に薪は冷たく言い放つ。穂琥は息が切れながらも薪への対抗は忘れない。
「ご、ごじ、かんが、そんなに、ってレベル!?」
「オレはな」
あっさりという薪に穂琥は叫び声を上げる。
「あんたを基準にしたら世界が破滅に向かうわ!」
「よし、息切れ治ったみたいだから次のステップ行くぞ」
「鬼!」
休憩時間なんてほとんどなく薪との特訓の時間は過ぎて行った。