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眞匏祗  作者: ノノギ
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~序章~  第一話 ○×作戦

「なぁ、聞いたか?今日、転校生が来るんだってよっ」

「まじか!男?女?」

「おんな!」

クラスメイトの獅場と籐下が話をしているのが耳に入った。そのことを何気なく知っていた薪にとってはどうでもいい話ではあるが、実際少しだけ気にしていることがあると言えばあった。

「お?薪、どうしたぁ?」

「うっせ」

話に興味があると判断されたのか獅場が声をかけてきた。転校生が女だから反応したのかととやかく問い詰めてくる。薪はそれを呆れたように聞き流す。そんなことをしている間に担任が教室内に入ってきた。

「おら、いつまでやってんだ。お前らは中学生か?」

「ちがいまーす!」

全く以て中学生、いや子供としか思えない反応にこのクラスのレベルの低さに頭を抱える薪だった。騒ぎたい放題している生徒を何とかなだめて担任は教室内に一人の少女を入れた。そして黒板に名前を書いた。

「振葉穂琥さんだ」

薪はその名を聞いて鋭く反応した。しかしそれに気づく者は誰もいない。担任は獅場の隣を指してその少女、穂琥を誘導した。席に着く穂琥の姿を横目で見て薪は珍しく悩みにふけっていた。

 下校時刻になっても席を立たない穂琥にどうしたものかと頭を抱える薪。転校生というだけあって周りには生徒の山ができていた。

「穂琥って言うの?不思議な名前だね!」

「かわいいなぁ」

「いきなりナンパか?」

「ち、違うし!」

「うるさいよ、男子!穂琥ちゃんがかわいそうでしょ!」

珍しいものに集るというのは人間の本能か。仕方なしにこの騒ぎが収まるのを待つことにした薪であったが一向に収まる気配を見せない。聞きたいことがあるのだがどうにも聞きにいける状況ではない。小さくため息をついて仕方なく薪は立ち上がった。

 質問攻めにあっている穂琥は少しうろたえていた。ここまで聞かれるとは思ってもいなかった。もともと家庭の事情で転校が多くてそういったことには慣れていたがここの人たちは今までとは少し違って大変だった。でもこうやっている中にとても暖かいものを感じていた穂琥にとっては悪い気はしなかった。

「あのさ、ちょっといい?」

「はい?」

突然声をかけてきた少年。ずっと教室の隅で静かに座っていた人だった。周りの反応を少しだけ確認するとどこか驚いているように見えた。

「あんた親はどんなヒト?」

突然妙なことを聞いてきたので驚いて目を丸くしてしまった。しかし、聞かれたからには答えなければと穂琥は声を発する。

「えと、私、ちょっと色々事情があって・・・。居ません」

あまり口にしたくない諸事情。その理由は親を覚えていないから。穂琥には昔から親がいない。今は義理の母と父に親切に面倒見てもらっている。そして本当の両親のことを何も知らない。決して義母たちが隠しているわけではない。幼かった穂琥が傷だらけで道に倒れていたのを今の家庭に見つけてもらい拾われた。穂琥としては記憶に残っていないくらい昔のこと。

 目の前にいるその少年の目はどこか冷たく見えた。それからその眼をふっと伏せてそして温かみを帯びた目ですまなかったと言って席に戻って行ってしまった。呆然としていてはっとして周りの人に目を移したが、クラスメイト達も呆然としていた。そしてみんな一様に声をそろえて言った。

「あれは薪じゃない」

初めてここに来た穂琥にとってそれがどういうことなのか全くわからないけれどどうやらここに居る人たちにとってもどういうことなのかわからないようだった。

「ちょっと、籐下、獅場!調べてきてよ!」

とある女子が二人の男子の名を呼んだ。一人は穂琥の隣の席の人。もう一人はその獅場という人と仲よさげに喋っていた人だった。彼がきっと籐下なのだろう。その二人も了承して先ほど声をかけてきた少年の元へ歩み寄った。

「なんでお前声かけたの?」

「悪いかよ」

獅場の質問に薪は適当にあしらうがごとく答える。

「いつもの薪だったら会話どころか見向きもしないじゃないか!」

籐下の言葉を完全に無視して帰り支度を進める薪。そんな薪の姿を見て二人はどうやら別の作戦に切り替えるようだった。

「よし、こうなったら○×作戦だ!」

「は?」

獅場が指を天井に向けて高らかと立てた。そしてそれを得て籐下が咳払いをする。

「ごほん!ではいきます!今穂琥ちゃんのところに言った理由について。まず1!一目ぼれしました?」

「・・・は?そんなわけないだろう」

突然訳もなく質問し来た籐下に呆れたように返す薪だったが、籐下と獅場の会話を聞いてこの作戦の意図を読み取った。

「違うな。一目ぼれじゃないって」

「よし、じゃぁ次だ」

あぁ、こいつらは嘘がつけないと知っているから回答がどっちかしかないという質問を投げてきているんだと理解する。そしてそうとわかった以上ここで話を聞く義理もこたえる義務もない。薪はさっさと教室から抜け出した。

「あ、逃げた!待て!」

叫び声が聞こえたが薪の足についてこられる人間がいるはずもないので振り返ることもなく薪は家を目指して走った。


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