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傀儡姫

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/07/27

 

 あぁ、あの姫が可哀想だ。

 生まれた頃から蝶よ花よと育てられ、美しく聡明に育ち何一つ不自由なく暮らしていたのに。

 ある日、突如起きた反乱のせいで両親はもちろん配下の者達まで皆殺しにされて。

 簒奪者によりその体に眠る王の血だけを求められ、美しさから女としての尊厳を踏みにじられ――今はただ、傀儡のように王座に着座する。


 あぁ、実に哀れだ。

 可哀想だ。

 されど、民に出来ることなどなく、虚構の王座に座る傀儡姫を見つめるばかり。

 あぁ、実に哀れだ。

 可哀想だ。


 傀儡として生き、傀儡として生かされた。

 あの傀儡姫ほど残酷な運命を背負った人間など居ない――。



 *



「それで」


 偉大なる女王陛下は読んでいた物語を投げ捨てて言った。


「この後どうなるの?」


 そう問われれば臣下として答えるしかない。

 唾を飲み込み、覚悟を決めて。


「あぁ、えっとまぁ。そのですね。強い暴力の果てに子供を授かり、子供を産んで、傀儡姫は悲劇のままに心労から命を絶ちます」

「……アホか」


 吐き捨てるように女王陛下は言う。

 言うまでもなく、彼女こそ数年前まで城下で流行っていた物語に登場する『傀儡姫』その人である。

 物語は概ね事実通りに記されていた。


 女王陛下のご両親……即ち、先代国王夫妻は愚か者の反逆によって命を落としたし、女王陛下と仲の良かった配下の多くもその最中に命を落としたのも事実だ。

 そして『傀儡姫』がその身に宿る王の血を求められ、女としての尊厳を踏みにじられたのもまた事実ではある。


 どの時代でもそうであるが悲劇というのは人々を魅了する。

 不謹慎極まりないが突如の反乱に混沌とする貴族を他所に、城下では早くも全てを失った姫を主人公にした悲劇が作成され流布されていたのだ。

 繰り返しとなるがその悲劇は概ね事実に即していたのだ――少なくとも前半は。


「貞操を奪われたのは事実。退屈な玉座に縛り付けられたのも事実。だけど、孕まされて心労で死ぬですって? そんなことをしたら一体誰がお父様の無念を晴らすのよ」


 そう。

 現実の傀儡姫は全てを奪われて尚、挫けることがなかった。

 それどころか実に狡猾で表向きは廃人のように無気力な姿を見せ、一時は成すがままに簒奪者に従うように『振る舞い』そのまま私を始めとする協力者の手を借りて時勢を窺い続けた。

 結果。

 簒奪者の土台が実に貧相であることを見抜いた傀儡姫は貴族や兵士はもちろん、商人や傭兵、果ては奴隷までも絡めて、少しずつ武器と味方を自身の下へ蓄えていき十分だと判断した時に臥所であっさりと簒奪者の首を刎ねた。


 裸で震え、涙を流し、慈悲を請い、あまつさえ媚びを売る美しい女。

 その姿は如何なる男であっても支配を確信する。

 いや、支配どころか『戦利品』としてさえ扱っていた事だろう。

 だが、それも彼女に言わせれば――。


「女として最強の武器である『美しさ』を持っている気高い女がそう簡単に傀儡になるわけないでしょうに」


 あの日、簒奪者の首を放って宣言した力強い言葉を今一度私の前で吐き捨てる。


「男は剣で全てを奪う。けれど、女はその男の全てを奪えるのよ。その気になればね」


 気高き女王陛下に臣下である私は深々と一礼するばかりだった。

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― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 悲劇の物語を変えるのは自分次第。 ずっと復讐の牙を隠し、屈辱と凌辱に耐え、その時を待った女王様凄いですね。 気高く美しき女王、ここから先の未来が光に溢れているといいな。 …
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