8 最悪な再会
数日後。
リンドグレイ伯爵家の馬車は、再びハーヴェル公爵家の門をくぐっていた。
ラウラは窓の外を見ながら、小さく息をつく。
「……はあ」
隣で伯爵が苦笑する。
「そんな顔をするな」
「まだ決まったわけではない」
ラウラは頬をふくらませた。
「だって」
「またあの人に会うんでしょう?」
「セドリック」
伯爵は肩をすくめる。
「そうだな」
ラウラは思い出す。
茶会の日のこと。
「不細工」
と言われたこと。
(本当に失礼な人)
ラウラは腕を組んだ。
「私、あの人嫌い」
伯爵は思わず笑った。
「正直だな」
やがて馬車は屋敷の前で止まった。
扉が開く。
ラウラは外へ降り立つ。
ハーヴェル公爵家の庭園は、今日も美しく整えられていた。
そして——
庭の中央に、銀色の影が座っている。
神獣シーフだ。
ラウラが一歩踏み出した瞬間。
シーフの耳がぴくりと動いた。
黄金の瞳がラウラを捉える。
次の瞬間。
銀色の体が、一直線に駆けてきた。
「えっ」
ラウラが驚く。
シーフは迷いなくラウラの前まで来ると、そのまま隣に座った。
まるで、そこが当然の場所であるかのように。
「……あ」
ラウラは目を丸くする。
「こんにちは」
恐る恐る頭を撫でる。
シーフは満足そうに目を細めた。
その様子を、少し離れた場所から二人の少年が見ていた。
一人はセドリック。
そしてもう一人は、栗色の髪の少年——エリオットだった。
エリオットはハーヴェル公爵家の常連だ。
幼い頃からセドリックと剣の稽古をしており、この日も遊びに来ていた。
二人は将来、同じ騎士団に入ると決めている仲でもある。
だが今。
セドリックの顔はみるみる不機嫌になっていった。
「……なんでだ」
エリオットが小さく笑う。
「やっぱり好きなんだね」
セドリックは睨む。
「違う」
エリオットは楽しそうに続けた。
「ラウラ、来たよ」
その声でラウラが顔を上げた。
そして。
セドリックと目が合う。
一瞬の沈黙。
ラウラの眉がぴくりと動く。
「……あなた」
セドリックも同時に言った。
「お前」
また沈黙。
エリオットが楽しそうに見守っている。
ラウラはむっとした顔になった。
「また会ったわね」
セドリックは腕を組む。
「来たのか」
「呼ばれたのよ」
「来なくてよかったのに」
「それはこっちの台詞よ」
二人は睨み合う。
その間で。
シーフがのんびり尻尾を振っていた。
まるで楽しんでいるように。
エリオットが口を開く。
「久しぶり、ラウラ」
ラウラはそちらを見る。
「こんにちは、エリオット」
少しだけ微笑んだ。
その笑顔に、エリオットは一瞬だけ目を見開いた。
(……やっぱり綺麗だ)
素直にそう思う。
春の光みたいな笑顔だった。
だが。
その瞬間。
セドリックの機嫌がさらに悪くなる。
「……なんでそっちには笑うんだ」
ラウラは即答した。
「優しいから」
セドリックは黙った。
エリオットは思わず吹き出しそうになるのを堪える。
シーフは相変わらずラウラの隣。
その光景を見て、セドリックは舌打ちした。
(最悪だ)
そのとき。
屋敷の扉が開く。
ハーヴェル公爵が姿を見せた。
楽しそうな笑みを浮かべている。
「おや」
「もう仲良くなっているようだ」
セドリックとラウラは同時に言った。
「違う」
こうして。
セドリックとラウラの
二度目の出会いは——
やはり
最悪の形で始まった。
そして。
エリオットだけが、密かに思っていた。
(この子、かわいいなぁ)
それはまだ、誰も知らない。
小さな恋の始まりだった。




