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1 言えなかった言葉

「セドリック様」


ラウラは静かに顔を上げた。


胸の奥が、少しだけ震えている。


けれど決めたのだ。


もう、これ以上迷惑はかけない。


「婚約を——」


その瞬間だった。


「待て」


低い声が落ちる。


ラウラは思わず言葉を止めた。


顔を上げると、セドリックがこちらを見ている。


珍しく、眉をひそめていた。


「……なんですか?」


ラウラがおずおずと尋ねると、セドリックは少し苛立ったように言った。


「お前、こんなところで立ち話するつもりか」


「え?」


「人が多い」


言われて周囲を見ると、確かに庭園には多くの令嬢や貴族子息がいた。


セドリックのことがきになる令嬢たちが、こちらを見ている。


セドリックは舌打ちをした。


「……ついて来い」


そう言うと、ラウラの返事も待たず歩き出す。


慌ててラウラは後を追った。


庭園の奥、人気のない回廊まで来て、セドリックはようやく足を止めた。


振り返る。


相変わらず整った顔立ちだ。


王都の令嬢たちが憧れるのも無理はない。


「それで」


腕を組み、彼は言った。


「さっきの続きだ」


ラウラの胸がきゅっと締め付けられる。


やっぱり言わなければならない。


深呼吸をひとつ。


「……セドリック様」


「なんだ」


「私たちの婚約を」


言葉を絞り出す。


「解消していただけませんか」


沈黙が落ちた。


風が回廊を抜ける。


セドリックは、しばらく何も言わなかった。


やがて。


「……は?」


低い声。


怒っているのだろうか。


ラウラは慌てて続ける。


「その、私のような伯爵令嬢では、セドリック様の隣には相応しくありませんし……」


「誰がそんなこと言った」


ぴしゃりと言葉が落ちた。


ラウラは目を瞬かせる。


「え……?」


「俺は聞いていない」


セドリックは不機嫌そうに言った。


「そんな話」


「ですが……」


ラウラは戸惑う。


だって。


ずっと、そう思っていたから。


「セドリック様は……セシリア様がお好きなのでしょう?」


言った瞬間。


セドリックの表情が、固まった。


まるで予想外の言葉を聞いたかのように。


「……は?」


もう一度、同じ声が落ちる。


ラウラは慌てて視線を落とした。


「だって、いつも……」


彼女と話している。


家同士も釣り合っている。


ため息もつかれる。


彼女のことを好いているとしか思えない。


だから——


「これ以上、ご迷惑をおかけするわけには……」


「ラウラ」


名前を呼ばれた。


顔を上げる。


セドリックは、なぜか額を押さえていた。


深いため息をつく。


そして。


「……お前」


信じられないものを見るような目で言った。


「本気で言ってるのか?」


ラウラはこくりと頷く。


その瞬間。


セドリックは空を仰いだ。


「……頭が痛い」


小さく呟く。


そしてぼそりと続けた。


「誰だそんな誤解させたのは……」


ラウラには聞こえないくらいの声で。


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