10 認めない
婚約の話が出てから。
庭園の空気は、妙に落ち着かなくなっていた。
ラウラはまだ頬を赤くしたまま立っている。
「む、無理です!」
「そんな急に言われても!」
伯爵は苦笑した。
「落ち着きなさい」
ハーヴェル公爵は楽しそうに笑っている。
「なかなか元気なお嬢さんだ」
ラウラはむっとした。
(元気って何よ)
その横で。
セドリックが腕を組んだまま言った。
「俺は認めない」
庭園が少し静まる。
公爵は面白そうに眉を上げた。
「ほう?」
セドリックはラウラをちらりと見る。
そしてすぐ視線を逸らす。
「こいつと結婚なんて無理だ」
ラウラの眉がぴくりと動いた。
「こいつって言わないでください」
「それに、私だって嫌です」
セドリックは即答する。
「だろうな」
ラウラはむっとする。
「何よその言い方!」
また睨み合いになる。
その間で。
シーフがラウラの隣に座ったまま、のんびり尻尾を振っていた。
セドリックの眉間に皺が寄る。
(なんでそこなんだ)
エリオットが横で笑った。
「シーフ、完全にラウラの隣が気に入ったみたいだね」
ラウラは少し困った顔になる。
「私、本当に何もしてないんですけど……」
「ただ撫でただけで」
エリオットは優しく言った。
「それがすごいんだよ」
「この子、人に懐かないから」
ラウラは驚く。
「そうなの?」
セドリックがぼそっと言った。
「普通は近づくだけで逃げる」
ラウラはシーフを見る。
シーフは嬉しそうに尻尾を振っていた。
「……?」
(全然そんな感じしない)
ラウラはもう一度頭を撫でる。
シーフは満足そうに目を細めた。
その様子を見て。
セドリックは、なぜか少しだけ苛立った。
エリオットがふと笑う。
「でも」
「もし婚約が嫌ならさ」
ラウラとセドリックが同時に振り向く。
エリオットはさらっと言った。
「僕が立候補してもいいよ?」
一瞬。
空気が止まった。
ラウラ
「え?」
セドリック
「は?」
エリオットは穏やかに笑っている。
「だってラウラ、可愛いし」
「優しいし」
「シーフにも好かれてるし」
「いいお嫁さんになりそう」
ラウラの顔が一気に赤くなる。
「え、ええっ!?」
セドリックの顔が一瞬で険しくなった。
「おい」
低い声だった。
エリオットは首をかしげる。
「なに?」
セドリックは一歩前に出る。
「ふざけるな」
エリオットは笑う。
「ふざけてないよ」
「本気だけど」
ラウラは完全に混乱している。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「なんでそんな話に!?」
その横で。
シーフがのんびりとあくびをした。
まるで
「好きにしろ」
と言っているようだった。
ハーヴェル公爵は腕を組み、楽しそうに呟く。
「ほう……」
「これは面白くなってきたな」
伯爵も苦笑する。
「ええ」
「本当に」
こうして。
まだ誰も気づいていない。
小さな火種が、一つ生まれた。
それは
嫉妬。
そして。
初めて芽生える恋だった。




