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9 婚約宣言

庭園の空気が、少しだけ変わった。


ハーヴェル公爵がゆっくりと歩み寄ってくる。


ラウラの隣では、シーフが当然のように座っていた。


まるで守るように。


公爵はその様子を見て、口元を緩めた。


「ほう……」


低く、楽しげに呟く。


ラウラはきょとんとしていた。


ただ大きな犬が隣にいるだけだと思っている。


そのとき。


神官が静かに近づいた。


シーフの様子を確かめ、そしてラウラの手首に視線を落とす。


わずかに息をのむ。


「……」


神官は何も言わない。


ただ一度だけ、ハーヴェル公爵を見た。


公爵もまた、静かに頷く。


伯爵も気づいたように目を細めた。


ラウラだけが状況を理解していない。


「?」


セドリックは苛立った声で言った。


「父上」


「なんでそいつがシーフの隣にいるんだ」


ラウラはむっとする。


「そいつって何よ」


シーフは気にせず尻尾を振っている。


公爵は楽しそうに笑った。


「簡単な話だ」


「シーフが気に入ったんだろう」


セドリックは眉をひそめる。


「なんで…」


信じられない、という顔だった。


公爵は肩をすくめる。


「珍しいこともある」


そして。


ふと、伯爵の方を見る。


「伯爵」


伯爵も小さく笑った。


「ええ」


「珍しいことも、あるものですな」


二人の間で、何かが決まったようだった。


ラウラはますます混乱する。


(なんの話?)


そのとき。


ハーヴェル公爵が突然言った。


「伯爵」


「一つ提案がある」


伯爵が頷く。


「なんでしょう」


公爵は笑った。


「このお嬢さん」


ラウラを見ながら言う。


「うちの息子の嫁にどうだろう」


一瞬。


空気が止まった。


セドリック

「は???」


ラウラ

「は???」


エリオット

(面白そう)


三人の反応は見事にバラバラだった。


ラウラは顔を真っ赤にする。


「よ、嫁!?」


セドリックは怒鳴った。


「父上!!」


公爵は平然としている。


「なんだ」


「悪い話ではあるまい」


セドリックは即答した。


「悪い!!」


ラウラも叫ぶ。


「私も嫌です!!」


二人は同時に言った。


そして同時に気づく。


目が合う。


ラウラはむっとする。


「だいたい!」


「この人、初対面で私のこと不細工って言ったんですよ!」


庭園が静まり返る。


公爵は大笑いした。


「はははは!」


「それは酷い」


セドリックは真っ赤になる。


「それは……!」


言い返そうとして、言葉が出ない。


エリオットは横で肩を震わせている。


ラウラは腕を組んだ。


「そんな人と結婚なんて絶対嫌です!」


セドリックも即答する。


「俺だって嫌だ!」


また同時だった。


その間で。


シーフがのんびりとあくびをした。


まるで騒ぎなど気にしていない。


ハーヴェル公爵は楽しそうに笑う。


「まあまあ」


「今すぐ決める話ではない」


そして意味ありげに言った。


「ただ——」


「縁というものは、不思議なものだ」


伯爵も静かに頷く。


「ええ」


ラウラだけが置いていかれている。


(なんで婚約の話になってるの!?)


セドリックは舌打ちした。


(最悪だ)


そして。


エリオットだけが、静かにラウラを見ていた。


シーフに寄り添われている少女。


楽しそうに笑う横顔。


(やっぱり)


(綺麗だな)


小さな恋が芽生えた瞬間だった。


そしてこの日。


誰も知らないまま


小さな約束が一つ、結ばれた。


それが——


三人の未来を大きく変えることになる。



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