第9話 冒険者ギルド
第9話 冒険者ギルド
街の中央に近づくにつれ、人の数が増えていった。
行き交うのは、旅装の者、商人らしき者、武器を携えた者。服装はまちまちだが、共通しているのは、どこか慣れた足取りだった。
コーイチは、その流れに逆らわず歩いた。
立ち止まらず、早すぎず、遅すぎず。周囲と同じ速度を保つ。
目立たないというのは、特別なことをしないことだ。
彼は無意識にそれをやっていた。
ほどなく、他の建物よりも人の出入りが多い建物が見えてきた。
石造りの二階建て。扉の上には、剣と盾を模した紋章が掲げられている。
――ここだろう。
直感に近い判断だったが、外れてはいない気がした。
中から聞こえる声の量、装備の傾向。情報を集める場所として、最も自然だった。
扉を開ける。
中は思ったよりも広く、天井が高い。
掲示板、長机、カウンター。酒の匂いと、汗と金属の匂いが混じっている。その一方で、帳面をめくる音と、紙を揃える音が途切れない。
一瞬、視線が集まる。
知らない顔が入ってくれば、それは当然だ。
だが、その視線はすぐに逸れ、それぞれの会話に戻っていった。
コーイチは壁際を選び、掲示板の前に立つ。
依頼書らしき紙が、所狭しと貼られている。だが、よく見ると全部が依頼ではなかった。短い注意書きのような紙、印の押された紙、すでに剥がされた跡もある。雑然としているようで、完全には崩れていない。
文字は読める。言葉が通じるなら、文字も同じように処理されているらしい。
内容をざっと追う。
討伐、護衛、採取。難易度や報酬らしき数字も書かれている。
――単独は無理だな。
戦闘経験はない。魔法も、見ただけで使えはしない。
できることと、できないことの線引きは、はっきりしている。
そのままカウンターへ向かう。
受付に立つ女性は、事務的な表情でこちらを見た。
年齢は若く見えるが、目は鋭い。
「登録か?」
「……はい」
短く答える。
余計な説明はしない。
いくつかの質問を受け、名前と簡単な経歴を伝える。
嘘はついていない。ただ、詳しく話していないだけだ。
手続きは淡々と進み、名前が帳面に記され、仮の札を渡される。
「当面は下位だ。無理はするな」
「わかりました」
それだけで会話は終わった。
コーイチは札を仕舞い、再び周囲を見渡した。
そこで、少し離れた机に集まっている数人の冒険者が目に入る。
会話が途切れ、視線が交差した。
「……新顔か?」
声をかけてきたのは、三十代前後の男だった。
装備は使い込まれているが、過剰ではない。
「はい」
「仕事、探してる?」
コーイチは一拍置き、頷く。
「なら、話だけでも聞くか」
断る理由はなかった。
無言で席に近づく。
簡単な依頼内容の説明がされる。
街道沿いの護衛。危険度は低いが、人手が足りないらしい。
コーイチは、話を遮らず聞いた。
必要なところだけ頭に入れる。
「役に立つかは……」
正直に言いかけて、言葉を切る。
「できることは、やります」
それだけで十分だった。
男は少し考え、肩をすくめた。
「まあ、いい。荷物持ちでも、目があれば助かる」
そうして、話はまとまった。
周囲から見れば、特に盛り上がりのない加入だった。
だが、その場にいた誰も、不満は口にしなかった。
コーイチは席を立ち、次の予定を確認する。
まだ何も始まっていない。
それでも、流れには乗れていた。
彼自身は、そのことをまだ意識していなかった。




