第8話 街への到達
道は、緩やかに起伏しながら森の中を続いていた。
左右に分岐する様子はなく、踏み固められた幅も一定だ。人が定期的に通っている――そう判断できる程度には、整っている。
ムラカミ・コーイチは、歩きながら視線を巡らせていた。
前方だけでなく、左右の草むら、背後。特別なことをしているつもりはない。ただ、視界に入る情報を流さないようにしているだけだ。
草が揺れた。
一瞬、足を止める。
音は小さく、一定ではない。風だと判断できる程度だが、距離を取るに越したことはない。コーイチは道の中央寄りに位置を変え、そのまま歩調を落とさず進んだ。
しばらくして、背後で枝の折れる音がした。
振り返る。
何も見えない。視線を戻し、今度は歩幅をわずかに狭める。速度は変えない。止まらない。立ち止まる理由がない以上、進むほうが安全だ。
森は徐々に明るくなっていく。
木々の間隔が広がり、下草も低くなる。視界が抜け、遠くの地形が見えるようになってきた。
――開けてきた。
それだけで、少しだけ気が緩む。
だが、完全には緩めない。獣が出るという話を思い出し、意識を戻す。
道の脇に、踏み荒らされた跡があった。
人のものではない。足跡は大きく、間隔も不規則だ。
コーイチは一度足を止め、位置を確認する。
そのまま直進することもできたが、わずかに道幅の広い側へ寄る。理由は単純だ。視界が広く、遮蔽物が少ない。
その判断が正しかったかどうかは、分からない。
ただ、そのまま何事も起きずに通り過ぎることができた。
さらに進むと、遠くから音が聞こえてきた。
金属が触れ合う音。人の声。風に乗って、断片的に届く。
街だ。
建物の輪郭が見え始める。石造りの壁が連なり、その向こうに屋根が重なっている。規模は大きくないが、確かに人が生活している場所だった。
コーイチは、そこで初めて歩調を落とした。
周囲を確認し、道を外れていないことを確かめる。森から街道へと自然に繋がっている。
門らしきものはあるが、厳重な検問はない。
数人の人間が行き来しているだけで、特に誰かに呼び止められることもなかった。
街の中に足を踏み入れる。
匂いが変わる。
木と土の匂いに、食べ物と金属の匂いが混じる。人の生活の匂いだ。
コーイチは、無意識に肩の力を抜いていた。
ここまで、何も起きていない。
振り返って考えてみても、特別な行動を取った覚えはない。
危険そうな場所を避け、視界の利く位置を選び、止まらずに歩いただけだ。
それで街に着いた。
理由を考えるほどのことでもない。
結果として、そうなった。それだけだ。
コーイチは、街の様子を一度見渡し、進む方向を決める。
まずは、情報を集める場所だ。
足を止めず、街の中へと歩いていった。




