第8話 偽宝石は違法ではありませんわよ?
「すばらしいですわーーーーっ!!!!」
数日後、わたくしは瞳を輝かせていた。
もう、腹から声を出すレベルで興奮している。
わたくしたちがせっせと組み立てた窯は、もう完成間近だった。
さすが職人だ。ぐらぐらしていた木枠もきっちり整えてくれた。隙間もない。
送風のためのふいごもつけてくれた。わたくしのワガママでお願いしたものだ。
これで窯の温度を高温にすることができる。
想定よりかなりレベルが高い窯ができた。
頼るべきはやはり権力者ですのね。
背後に立つヴィルヘルムに、わたくしはにこにこ笑顔で振り返る。
彼は興味深そうに、けれど腑に落ちないような表情で窯作りを眺めていた。
ヴィルヘルムはここのところしばらく、わたくしの窯作りに立ち会っている。
わたくしが何をするか見張っているのだろう。
先日、ヴィルヘルムに合成宝石の話をした。
すると、目を剥いてすごい勢いで止めてきた。
詐欺だのなんだのと言って。
人聞きが悪いなぁ。
わたくしはツラツラと説明する。
そもそも”合成宝石”を禁じる法律はない。
まあ、国内にない技術なので”ニセモノを作る”という発想もなかったのが実態だろうが。
『本物のダイヤモンド』として売るのは犯罪だが、
『人工的に作った、宝石のような綺麗なガラス』として売る分にはなんの問題もないのだ。
冷静に言い負かすと、ヴィルヘルムは、しぶしぶ、本当に渋々、首を縦に振った。
ただ、領地で使用するものについてや、どこで誰に売るかを事前に相談することなどを条件にして。
それくらいなら呑んでもいい。
むしろ領地経営の経験があるヴィルヘルムは相談相手として適任だ。
にっこり笑顔で頷くも、ヴィルヘルムはそれでも警戒の瞳を解かなかった。
「働くことを許可する」と言ったのを後悔しているに違いないが。
まあ、頭から否定しないのがお人好しの証拠ですわね。
「あとは中から火を入れて、水分を飛ばせば完成です」
「さすがですわ! 本当に素晴らしいです」
「いえ、そんな」
職人たちはまんざらでもない笑顔だった。
わたくしは握手をし、ハグをして、全身で喜ぶ。
ヴィルヘルムが賃金を渡すのを横目に、早く金を稼がなければと心の中で強く誓った。
わたくしがこの領地にいる間に使うお金は、ヴィルヘルムが建て替えてくれる。
合成宝石の事業でお金を稼ぎ、返済すると約束していた。
「エレーナ、あと三十分くらいで焼けるそうだが……」
何をしている、と、何度聞いたかわからない言葉をかけられた。
窯の火を焚いている間にすることもなく、庭の隅でルチル鉱石を砕いていたところだ。
「それが偽ダイヤの材料か?」
「ええ。ルチル鉱石ですわ。大きいので潰してるところですの。焼くときにムラができそうなので」
「……どこで手に入れたんだ」
「うちの倉庫ですわ」
ごりごり、ひたすらに金属製の乳鉢で擦っていく。
金色の鉱石はさすがに硬い。
木の棒では太刀打ちできず、鉄のすりこぎ棒を使っている。
もう何時間やっているだろうか。
さきほどまでアルマも手伝ってくれていたのだが、屋敷の作業もあるようで今は抜けている。
「父の倉庫にありましたの」
「父? ……ファルネリア宰相か」
ヴィルヘルムは隣まで来て、腰掛ける。丸太を置いただけの椅子だ。
広い庭に木を並べて、簡易的に作業用テーブルと椅子を作っていた。
「ヴィルヘルム様は父をご存じでして?」
「直接会ったことはないが、世話になった。国境では輸出入を取り仕切ることも多くてな。よく相談させてもらった」
懐かしむように目を伏せる。
父が現役だった頃は、よく手紙でやりとりをしていたようだ。
「此度のこと、謹んでお悔やみ申し上げる」
「ありがとうございます」
「立派な国葬だったと聞いている。貴方のお父様は国に愛されていた」
このリンドベルグ辺境伯領から王都は馬車で一ヶ月。
葬儀に参加するのは難しかったらしい。
わたくしは鉢に目を落とした。
金色の砂。大きな塊はなくなり、鉢の中できらりと輝いている。
「そうですね。わたくしは一般参加でしたが」
ぽつりと零す。
ヴィルヘルムが、息を呑んだ。
「わたくしがいると一族のみながいい顔をしないので」
「でも、きみは、家族だろう。大事な別れの場で、そんな……」
「あいにく、そうは見なされてなかったようですわね」
ふふっと笑った。
胸の奥がずきりと痛む。葬儀の日。
わたくしは一般客に紛れて、外から眺めるしか出来なかった。
最期の顔は見れなかった。
「まあ、あんな国民の視線が集まる場にわたくしのような”汚点”がいるのは耐えられなかったんでしょうね、お兄様は」
言葉にすると簡単なことに思えた。
ただの事実だ。
わたくしが直面していることは、貴族社会では別に珍しくもなんともない。
「……偽ダイヤを作るのは、どうして」
「あいつらにぎゃふんと言わせるのに必要なんですわ」
ふん、と鼻を鳴らす。
わたくしの計画は壮大だ。
偽宝石であいつらの財産の価値をゼロにする。
そのためには、こんなところで負けていられませんのよ。
手がヒリヒリとして、テーブルに鉢を置いた。
数時間もゴリゴリ擦っているとさすがに痛んでくる。
手のひらは真っ赤で、皮がむけている。
手袋でもすればよかったと反省した。
「貸せ」
「え?」
「きみは冷やしてこい」
置いたばかりの鉢と金属製の棒を、ヴィルヘルムが横からとった。
そしてごりごりと、砕き始める。
「何してるんですの」
「気にするな」
「気にするなって……」
「うるさい」
ヴィルヘルムは、ただひたすらに、硬い石を砕いていた。
第九話は17時頃投稿予定。
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