第7話 石を焼いて宝石を作りますわ
「な、なんですか、これぇ!」
アルマは小さな身体で必死に瓦礫を運ぶ。
小動物みたいで可愛い。けど、なんだかそのせいで罪悪感も湧いてくる。
朝食を終え、わたくしたちは動きやすい服装に着替えた。
庭に出て瓦礫を拾い、ふたりでコツコツと組み立てていた。
「窯を作るんですの」
「窯!? 窯ならもうお屋敷にありますよ! 毎朝シェフの方々がパンを焼いてくれます!」
「『石を焼きたい』って言ったら断られたのよ」
しれっとした顔でレンガを置くと、アルマは目を見開いていた。
「ケチよね。ちょっとくらいいいじゃないの」
「え、と、当然じゃないですか……? 石を焼くって、なんでです……?」
アルマがおろおろとわたくしを伺う。その間もレンガを置く手を緩めない。
わたくしはその様子を見て、ふふっと笑う。
命令に素直な子は好きよ。
「宝石を作るの」
「ほ、宝石!? 焼いて作るんですか? あれって削り出す物ものでは……?」
「本物はそうでしょうけど」
組み立てた木枠の中にレンガを積み上げると、だんだんと窯の形になってくる。
もうわたくしたちの身長を超えてきた。
あとはこれを固めたりしなきゃいけないのか。
やはり一から窯を作るのは大変だな。
外は寒いけれど全身から汗が噴き出ていた。
「偽物の宝石を作るんですか……? エレーナ様、何を企んで……」
「人聞き悪いわね。合成宝石と言って売ればなんの犯罪でもありませんわ」
「う、売るんですか!?」
「ええ」
ふう、と少し休憩をする。額の汗を拭った。
窯の形はかなりできている。
昔、職人の元で下働きしていた甲斐があったな。
さすがに窯を作ったことはないけれど、図面を見たことがあった。
あとは隙間を泥で埋めて、中から焼けば完成だ。
「ヴィルヘルム様はわたくしが働くことを了承しましてよ」
「え、え!? でも、さすがにこれは想定してないんじゃ……?」
「働くことには変わりはなくてよ?」
にこりと笑う。
聞かれなかったから答えなかっただけだ。
「そうだ。わたくしの宝石が売れたら、売り上げの一部をアルマにあげますわ。手伝ってくださる?」
「えっ、え!? い、いや、うーん……?」
アルマは眉を下げ、えっと、と葛藤する。
宝石作りはメイドの仕事の範疇から外れてしまう。
手伝ってもらった分はそれなりに手当を出すつもりだ。
けれど”偽物の宝石”というのが犯罪臭がするからか、領主に怒られやしないかと、かなり躊躇っている様子が窺える。
「これは主人の命令ではなく、社長のお願いとして言ってますの」
何かあったらわたくしのせいにしてかまいませんわ、と続けた。
アルマは大分迷いながらも、首を縦に振った。
このまま断ったら何をしでかすか分からない、放置するより見張っていたほうが安全だ、と思ったに違いない。
まあ、窯を作ってる時点で、もうわたくしの一味になってしまいましたものね。
「エレーナ、ちょっといいか」
その日の夜、夕食が終わってお風呂も入った頃。全身が筋肉痛だった。
もう寝ようかなとのんびりと構えていたところ、ヴィルヘルムに声を掛けられた。
まさか夜のお誘いですの?と顔を引きつらせると、「そうじゃない」と遮るように言われた。
逆に腹が立ちますわ。
わざわざ応接室に呼び出された。
自室じゃないところがまた、彼のパーソナルスペースを表している。
今回はお茶が出た。優しい香りのする紅茶をヴィルヘルムつきのメイドがテーブルに並べる。
アルマは今、別の仕事で不在だ。
「庭で何をしていたんだ?」
おずおずと、訝しむような瞳で尋ねられた。
ああ、と納得する。
夕刻ごろに泥だらけの格好で屋敷に戻ってきたところを、ヴィルヘルムに見られたのだ。
「窯を作っていたんですの」
「……屋敷にあるだろう」
「使いたいって言ったら断られたので。作りましたわ」
は、とヴィルヘルムが目を丸くする。
あ、石を焼くって言い忘れた、と思いながらも訂正するのがめんどくさくて黙っていた。
わたくしはカップに口をつけた。
ヴィルヘルムは口元に手を当て、じっくり考えている。
「……うちの使用人が申し訳ない」
「かまいませんわ」
「きみを傷つけるつもりはなかった。仮だが……いや、この言い方も失礼かも知れないが。きみは俺の婚約者としてここにいるんだ。もう、きみはうちの領地の人間だ」
ヴィルヘルムが真っ直ぐにわたくしを見る。
金色の瞳がきらりと輝いていた。
真摯な方だ。嘘のつけない、真面目な方なんだろう。
「困っていることや、必要な物があれば言ってほしい。贅沢はさせられないだろうが、生活に必要な物であれば手配できる」
「……ありがたく受け取りますわ」
彼の表情は硬く、わたくしを気遣う様子が窺える。
もしかして、使用人が意地悪でわたくしのお願いを断ったとでも思っているのだろうか……。
なんだか騙してしまったような気がするな。
いや、あなたの使用人は真っ当でしたけれど。
ま、いいわ。使える物は使っておきたいし。
「では、職人を数人手配して欲しいんですの」
「あ、ああ。わかった。領地にいるものに声を掛けよう。どんな職人だ」
「窯を作るので、大工さんがいらっしゃると助かりますわ。火力の高い物を」
「……屋敷の窯では不足なのか?」
「ええ」
ヴィルヘルムは狐につままれたような顔をする。
「きみは何を焼くつもりだ?」
「石です」
「…………は?」
「宝石を作りますわ」
わたくしがにっこりと笑うと、ヴィルヘルムは端正なお顔で、間抜けに口を開けていた。
第八話は明日の11時頃投稿予定。
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