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第45話 スキャンダルはセンセーショナルな方が盛り上がるんですのよ

「ありがとう。ぜひリンドベルグの劇に出ていただきたいわ」

「……こちらこそ、ありがとう、ございます。私を……、私を、また、舞台に立たせてもらえる、なんて」


ステラは手を握りしめる。

感極まっているのか、目頭に涙が込み上げている。


彼女は強い。芯のある女性だ。

震えながらも、じっと顔を上げて、わたくしを見つめている。



ーーー彼女の舞台を見たくなるわね。





わたくしはにっこりと笑った。


「マティアス。劇場の建設スケジュールはいかが?」

「あ、え、ええと……。九月上旬に完成予定です」

「そう。ほかの演劇キャストは決まっているかしら?」

「はい。ほとんどOKをもらってまして、リンドベルグに戻り次第稽古が始まる予定です」

「順調ね」


いまは五月中旬。あと半年ほどってところか。

もともと九月の劇場オープンに合わせて初日の劇を行う予定だった。

主役も決まったなら、いけるわね。


「プレオープンを九月二十日に行うわよ。それまでに必ず劇を完成させて」

「は、はい! ……わかりました」

「新聞各社、投資家、起業家。有力貴族、演劇関係者。……あと、そうね、ステラのファンも全国各地から呼んで。チケット価格は下げていい。むしろタダ同然でいいから、一般観客も含めたくさんの人をご招待して」


マティアスは急いでメモをとる。

先ほどまで頭に血が上っていたのに、仕事の話になると急にスイッチが入ったようだ。




「ステラさん」

「は、はい」

「あなた、軟禁されてるのよね。家は出られる?」

「……ひとりだけ、私のファンでいてくれている見張りがいて。その人の時は比較的出やすいと思います」

「上出来よ」


わたくしが微笑むと、ステラはほっと胸を撫で下ろす。


「九月一日。わたくしたちはあなたを迎えにいくわ。このホテルに身を隠していて」


そして、わたくしは貨幣をいくらか包んでステラに渡した。

ステラはぎょっとしながら手元のお金とわたくしの顔を交互に見遣る。


「これはいざという時の逃走資金。わたくしたちと合流できなかった場合、ひとりでリンドベルグまで来てほしいの」

「え、あ、は、はい」


ステラはぎゅう、と包んだ貨幣を握り締める。

やっぱり。おそらく、彼女のお金はハルムートに握られている。



そして、マティアスからステラに台本が渡された。


「リハーサルはほとんどできないと思う。申し訳ないけど、練習はバレないようにひとりでしてくださる?」

「はい」


台本を握り締め、ステラはきゅうっと唇に力を入れる。



「あのっ」

「なあに?」

「わ、私を選んでくれて、ありがとうございます」


ステラの手は震えていた。

焦りと恐怖。もしもう一度バレたら、きっと軟禁どころでは済まされない。



けれど、ここで立ち上がらなければ、一生部屋の中で囚われることになる。




「私、精一杯、がんばります。絶対、リンドベルグへ行きます」




顔を上げたステラは、決意に満ちた表情をしていた。


安心だわ。

彼女ならきっと、国中を熱狂に包む、素晴らしい演劇をしてくれる。








ステラをマティアスに送らせ、わたくしたちはほっと息を吐いた。

怒濤の展開だったわ。まさか、ラスボスの妻が現れるなんてね。


「エレーナ、ステラは大丈夫なのか」

「分からないわね。わたくしとしてはステラに出てもらいたいけれど」


ヴィルヘルムが訝しむように話しかけてきた。

テオドールも首を傾げている。



分かっている。

この作戦はかなり薄氷を踏むものだ。

ステラがリンドベルグに来られなかったら、全てが破綻する。




ステラは一度、ヘンネの劇に出ようとしてハルムートに見つかっている。

それ以来、ハルムートはステラの行動に目を光らせているはずだ。

特にマティアスはファルネリア邸に何度も足を運んでいる。監視の目が厳しくなってもおかしくはない。


念のため主演はダブルキャストにしておこう。

初日はステラで、二日目がその女優さん。場合によってはその方だけにする。

もしステラが来られなかったら、リンドベルグの劇場オープンをメインにした宣伝に移行すればいい。宣伝機会は無駄にならない。



……けど、やはりインパクトが薄まるから、ステラに出てほしいわね。

絶好の”お披露目”の舞台だもの。





ハルムートとの結婚発表から、ステラは舞台に立っていない。

その理由が顔に火傷を負ったからだと世間に知られたら。

そして、それがまさか夫からの暴力だなんて知られたら。


ハルムート・ファルネリアの信頼は地に落ちる。

ヤツがステラの傷を必死に隠しているのはそのためだ。





ーーースキャンダルはセンセーショナルな方が盛り上がるんですのよ。





わたくしは口角をニヤリと上げた。

まさか、ここに来て最大の手札が手に入るとは思わなかったわ。



「……エレーナ、何を企んでいる」

「いいえ。ステラが可哀想だなって思ったのよ」


物語は可哀想な方が盛り上がる。


行う劇が”ざまあ”もので、主人公は強い女性。

アイデンティティーである美しい顔に傷がついても、自分の足で立ち上がる姿。


必ずや大衆の心を掴むだろう。

そして、なによりステラの傷は”本物”なのだ。





「あと半年ね。できることは全てやっておきましょう。テオドール、ユリウス王子との謁見をお願いできる?」

「承知いたしました」

「あと、」


手を組んで、にっこりと笑う。

まあ、念には念を込めておきたいから。


「あの愚かな”破産者”は今何しているのかしら?」

第四十六話は明日の11時30分頃投稿予定。

完結は1/25(日)を予定しています。

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