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第42話 お兄様の土地開発を参考にさせていただきたいだけなんですの

「わぁ~! ファルネリアって綺麗ですね~」


アルマは目の前に広がる美しい湖畔を見下ろし、感激の声を上げた。


五月中旬、わたくしたちはファルネリア領へ視察に来ていた。

メンバーはわたくしエレーナ、ヴィルヘルム、テオドール、アルマ、マティアス。

さらにエンタメ事業に詳しいひとたちを見繕った。

全体で二十名くらい。それぞれ自分の専門分野を見てくるよう言っている。




テオドールは「私も同行してよろしいのでしょうか? ゴシップ記事に抜かれたら大打撃ですよ」と懸念したけれど、ヴィルヘルムが「俺も行こう」と乗ってくれた。


「俺とエレーナが旅行に行くのは不自然ではない。そこに執事がいるのも当然だ。それに、もしハルムートと対峙することがあったら俺がいた方がいいだろう」


ヴィルヘルムは一領土の(あるじ)であるため多忙のはずだけれど。

意外な申し出だったが、正直同行してくれるのはありがたい。


今回は土地開発の話だ。領主のヴィルヘルムがいると話が早い。

ハルムートはわたくしを見下している。

けれど、ヴィルヘルムならハルムートは無視できない。

格下だろうが貴族で、かつ土地開発をするライバル領主だからだ。


お忙しいところ連れ回して申し訳ないわ。

そう呟くと、ヴィルヘルムはやや頬を赤らめて「きみと行けて嬉しい」なんて言ってきた。


……不意にドキッとしちゃったじゃないのよ。

この方って無自覚に乙女キラーなんだから。ご自身のイケメンフェイスをもっと自覚してほしいですわ。







そして、そうそうたるメンバーでファルネリア領を訪れた。

リンドベルグから王都までは線路が通っているものの、実は王都からファルネリアは線路が通っていない。


というのも、ファルネリア領は貴族御用達のリゾート地であるため、みな馬車に乗ってくるのだ。

汽車はまだ物流輸送の側面が強く、庶民の乗り物というイメージが強い。

王都からリンドベルグは馬車だと片道一ヶ月かかるけれど、汽車だと四日。

王都からファルネリアは、馬車で片道一日かかる。




「アルマ、ファルネリア領って初めて来ました!」

「そうね。実はわたくしもよ」

「エレーナ様の故郷じゃないんですか?」

「わたくしの生まれは王都ですわ。一度もファルネリアに招待されたことはございませんの」


使用人の子供ですからね。と心の中で小さく付け足した。

ファルネリア領の情報は知っていたが、来るのは初めてだった。


確かに綺麗だ。

街の至る所に実るレモンやオリーブ。さんさんと降り注ぐ太陽の光。

大きな湖沿いには白亜の建物が並んでいる。

みなが憧れるリゾート地というのは嘘ではなかったようね。


「とっても綺麗だわ。来てよかった。学ぶべきところがたくさんあるわね」

「……エレーナ、きみが言うとなんだか恐ろしいんだが」

「あら、杞憂ですわ。わたくしはちょぉーっとハルムートお兄様の都市開発を参考にさせていただきたいだけなんですの♡」


ふふっと笑顔を向けると、ヴィルヘルムは若干訝しんでいた。




今回ファルネリア領へ来た目的は大きく二つ。


ひとつは女優・ステラへの演劇出演の打診。

こちらはマティアスが熱意を持ってやってくれる。

「何ヶ月かかっても落としてみせます!」と意気込んでいた。


もうひとつはファルネリア領の土地開発の視察。

現地を見て、実際の進み具合と展開を調べるつもりだ。

わたくしたちリンドベルグが学べるところがないか。

このあたりでハルムートの弱みを握れたらラッキーだ。


南と北、どちらが企業にとって魅力的か、リンドベルグに呼び込むにはどうすれば良いか。

それらを検討するためにも直接敵陣を見るのは効果的だろう。





湖畔近くのホテルに部屋を借りた。ここに十日ほど滞在する。

マティアスのみ、場合によっては伸びる可能性がある。ステラの様子次第だ。

わたくしはファルネリア邸には近づかない方が良いだろうとのことで、街の視察を中心に行う。ヴィルヘルムたちも一緒だ。

偶然だが、ハルムートはこの滞在期間中、海外出張に行っているようだった。



本格的な稼働は明日から。今日はみんなで決起集会といったところ。


ホテルの大宴会場を貸し切りにしてぱぁーっと盛り上がる。

閉じた宴会場で、わたくしはグラスを片手に舞台に立った。

ワインを掲げて、みなを見下ろす。


「皆様、いつもありがとう。わたくしが安心して進むことができるのも、皆様が熱心に仕事をしてくださっているからですわ」


なんだか目頭が熱くなった。

いつも思っていたことだけれど、改めて口にすると感極まるものがある。

ここにいるメンバーだけじゃない。今リンドベルグで頑張ってくれている人たちもいる。


「リンドベルグを最高の土地にしましょう。ファルネリアの開発には負けない。そしてーーーー」


きゅっと唇を噛んで、そのままにこっと笑った。

わたくしに涙は似合わなくてよ。




「リンドベルグの開発を絶対成功させるわよ!」




高らかに宣言すると、おおーーっ!という、野太い声が上がった。

かんぱーい、と声をかけた。

みな一斉に「かんぱーい!」と叫んで、ぐびぐびワインを飲む。


わたくしも飲んだ。

くう、喉が熱いですわ。やっぱお酒ってテンションが上がるわね。




みなが盛り上がる中、わたくしは窓の外から見える湖畔に視線を向けた。


美しい景色。

沈みゆく夕日に照らされ、水面がきらきらと輝いている。

通りでは貴族がのんびりと馬車を走らせる。上品なマダムが談笑していた。


ーーーもったいないわね。


わたくしはグラスを揺らし、ふふっと笑った。

実際にファルネリア領に来て確信しましたわ。


もうすぐでファルネリア領の土地の価値を破壊できる、と。

第四十三話は18時20分頃投稿予定。

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