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第4話 この技術であいつらの財産を無価値にする


「あらあら。やっぱり汚いわね」



わたくしはひとり、倉庫の中に入った。

一度ここで殺されたからか、ぞくりと背筋が粟立つ。

衝撃と痛みが脳裏によみがえって、怒りも同時に復活する。


念のため扉を閉め、誰も入れないようにした。

相続会議で異議を唱えなかったから、わたくしに用はないと思うのだけれど。念のため。

もう殺されたくないしね。





小窓から太陽の光が差し込む。ほかに明かりはない。

古びた本を開ける。『合成宝石加工術』だ。

隣国・ヴァルデンフルト王国で書かれたものらしい。



わたくしの住むガルデーニエ王国は、昔宝石がよく採れた。

ダイヤやサファイア、エメラルドなど。


けれど採りすぎたのか、宝石鉱山は空っぽになった。ここ百年は採れていない。

宝石の価値を保つため、歴代宰相は宝石の輸入を固く禁じた。


おかげで宝石は一部の貴族、たとえばファルネリア家や王族が所有するのみになった。

希少性が増し、宝石の価格は天井知らずに上がった。



隣国では宝石は採れない。

代わりにガラスで綺麗なものを作ろうと、ガラス加工の技術が発展したようだ。


宝石が高いガルデーニエで偽物の宝石を売れば、ヴァルデンフルト王国よりも高く売りさばける。

そう考える闇組織も多かったが、その試みは父によって失敗していた。


ここにある押収物は、ガラスで”偽宝石”をつくる道具だった。






ーーーいいものを相続したわ。


”この合成宝石の技術があれば、あいつらの財産を無価値にできる”





わたくしはひとり、にやりと笑った。

ぱたりと本を閉じる。


そして早速、ハルムートお兄様に会いに行かなくては、と、心を躍らせた。









「ハルムートお兄様。わたくし、結婚したい方がおりますの」



執務室で事務処理をしていたハルムートはわたくしを見て眉をひそめた。


「結婚?」

「ええ。お相手はヴィルヘルム・リンドベルグ辺境伯。以前お目にかかって、一目ぼれしてしまいましたの」


ウソ。わたくしは噂でしか知らない。

舞踏会に行ったこともない小娘が貴族に会うなんて不可能だ。



ハルムートが訝しむように睨み付ける。

わたくしはしゅん、と眉を下げた。

可憐に聞こえるように、そっと声を落とす。


「実は、お父様も亡くなって……。わたくしはファルネリアの一員でいていいのか考えてしまいました」

「そうか」

「でも、結婚すればほかの家に入りますでしょう。お兄様たちにもご迷惑をかけなくて済む……。そう考えると、早く嫁いだ方がいいのかなと」


ハルムートお兄様はじっと考え込むが、「わかった」とだけ呟いた。



ヴィルヘルム・リンドベルグ。二十二歳。

噂にちらっとしか聞いたことないけれど、絶世の美男子らしい。

”辺境伯”とあるくらいだから、王都からは遠く離れた土地に住んでいる。

国境の山沿いに近い土地で、ろくな産業はない。貧乏な貴族だ。


もしわたくしが彼と一緒に何か企んでも、ファルネリア家なら軽く潰せる。

厄介払いもできると判断したのだろう。

ハルムートは「では使いを出そう」と、早速手配をした。




そして、わたくしの願いは聞き遂げられた。

リンドベルグ辺境伯から「一度お会いしたい」と返事が届いた。

かなり怪しんでいるのが手紙から伝わってきたが。

地位が高いファルネリア家からの縁談は断れないのだろう。


貧乏貴族が宰相一族との結婚なんて「逆玉」と言われてもおかしくないけれど。

実際は何の財産も持ってないメイドの子で申し訳ないわね。


別に彼自身にそれほど用はない。結婚できなくたってそれでいい。

用があるのは”火山帯”の”土地”だから。


「ま、仲良くできるんならしておきましょうかね」



リンドベルグへ向かうのは春。今は雪が深くてたどり着けない。

婚姻を結ぶかもしれないという一大事でも、ファルネリア家ではひっそりと処理された。

誰にも見送られず、ファルネリア家を出ることになった。



わたくしは”開かずの倉庫”の中身を、すべて馬車に積んだ。






道中、かたかたと馬車が揺れる。

謎に重い石や道具ばかりで、馬の進みは遅い。

御者がいらだった目でわたくしを見る。

王都を抜けてからは、あからさまに舌打ちもしてきた。



「ごめんなさいね。大事な嫁入り道具なんですの」



わたくしはそう、にっこり笑った。

第五話は23時頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

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