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第26話 わたくし、優秀な方が大好きですの

十一月、わたくしたちはリンドベルグ領に戻った。

領民に王都からのお土産を分けると喜んでいた。

ワインやシュトーレンが特に嬉しかったようだ。

子供たちにもおもちゃを買ってあげた。



雪深くなり、リンドベルグは冬支度に入る。

薪を割り、保存食を作り、家を整える。

外に出るのも億劫になるから、冬の時期はみんな引きこもりがちだ。


ユリウス王子はいくつかアクセサリーの注文をしてくれた。

納期は春。雪解けと同時に納品し、パーティーで広める予定だ。


領民にはアクセサリー作りの内職をさせ、賃金をあげた。おかげで、いつもより豊かな冬を過ごせたようだ。


わたくしがリンドベルグ辺境伯領で送る初めての冬は、のんびりと過ぎていった。







「来ちゃった」


……なんとまあ、驚きましたわ。


年が明け、三月。

王都では雪が溶けてきた頃だろうが、リンドベルグではまだ雪が積もっている。



ユリウス王子がリンドベルグ邸まで訪れた。

アポなしで。



一国の王子がそんな気楽に外出していいんですの?と首を傾げると、「まあ僕だからね」と笑っていた。

ユリウス王子はふらふら歩く呑気な王子だという噂があったが、半分事実だったようだ。


「おもてなししたいですが、あいにく今領地にはもてなせるものは残っておりませんの。リンドベルグで採れたリンゴ酒くらいしか……」

「いいんだ。気にしないで。あ、でもそのリンゴ酒は飲んでみたい」

「……用意させますわね」


冬終わりのリンドベルグ領は、保管庫の残り物を駆使して生きている。

野菜の残りでスープを作り、干し肉をちまちま千切ってその日の食事にする。そもそも物資が乏しい。

慌てて保管庫を見たけれど、やはり王子をもてなすような食材はなかった。




「やっぱリンドベルグは遠いねえ。馬車で来たけど大変だったよ」

「遠いところお越しいただきありがとうございますわ。ご用があるならこちらから伺いましたのに」

「いや、合成宝石の技術も見ておきたかったし、それに。色々調べときたくてね」


ユリウス王子は、応接室のソファでにこにこと座っている。

たまに、ちらりとリンドベルグ邸を観察しながら。


うう、こんな視察があるならもっといいものを用意しておけばよかったですわ。

オークションではきらびやかな格好だったのに、今のわたくしどもは領主だろうが粗末な服装ですもの。


ヴィルヘルムはユリウス王子の前に座り、強ばった表情をしている。

テオドールも笑顔を貼り付けてはいるが、警戒しているのが丸わかりだ。




「アクセサリーの進捗はどう?」

「作成はすべて終わりましたわ。チェックも昨日済んだところでして。もうすぐ王都に送ろうと思ったんですの」

「わあ、すごい」


作成終わったアクセサリーをいくつか見せた。

ユリウス王子は目を輝かせて「おお~」と声を上げる。

王子のお眼鏡に敵ってよかった。ほっと息をつく。


今回はイヤリングの他、小ぶりなネックレスを中心に作った。

メインターゲットは舞踏会に来たばかりの若い女性。

領民の女の子たちに意見を聞いてデザインした。




「王都はどうなんですの?」

「あ、聞いちゃう? 聞いてよ。僕、頑張ったからさ」


ユリウス王子は褒めて褒めて、とばかりに笑う。

この方……王子なのですよね? 

こんな辺境の女にそんなへりくだらなくても、と思ってしまうが。


「お聞かせ願いたいですわ」と微笑むと、ユリウス王子は嬉しそうに語り出した。





オークション以降、貴族の間では”偽ダイヤ”が話題となった。

ルイーズを疎んでいた貴族も多かったようで、彼女の凋落と同時に「ルイーズですら見分けられない偽ダイヤ」は、それだけでブランド価値を持った。


ユリウス王子はわたくしがあげたイヤリングを必ずパーティーで身に付けた。

そして、偽ダイヤに興味を持った令嬢たちに、余っているイヤリングをプレゼントする。




するとどうだろう。

偽ダイヤのイヤリングをつけている=ユリウス王子のお気に入り、の構図ができ、偽ダイヤを欲しがる令嬢が一気に増えたのだ。


見た目も綺麗で安価。ユリウス王子が気に入っているともあり、偽ダイヤの人気は爆発的に上がった。



皮肉にも、偽ダイヤは本物のダイヤより市場価値が高くなっている。

偽ダイヤは”確実に人工物ではあるが、一定の品質を保証している”ため、本物か偽物か分からない”本物の”ダイヤモンドより確実なのだ。








「すばらしいですわね」

「でしょでしょ! 僕、出来る男でしょ?」

「ええ、ホントに。イヤリングを有効活用していただきありがたいですわ」


ユリウス王子はえへへ~と笑う。

猫みたいなイメージだったけれど、なんだかお腹を見せてくる猫みたいだ。

野良猫に懐かれるのはこんな気持ちなのかな。


まさかあの偽ダイヤのイヤリングがそんな価値を持つとは。

ザントクラーデ総合商会への戦いとしては、かなりいい滑り出しだ。


わたくしはにやりと笑う。




「お、エレーナ。やる気満々だね」

「ええ、おかげさまで」

「ザントクラーデ総合商会は強敵だよ。早速この間、僕のとこにもスパイっぽい社員が来た」

「まあ。どんな方ですの?」


視線を向けると、ユリウス王子は飄々と語る。


「マティアス・グリューンベルク。三十歳。結構やり手でアイデアマンだよ。こっちに探りを入れてきた。偽ダイヤの技術を奪おうとしてる」



……へえ。



わたくしは目を細めた。

むしろ願ったりですわ。



「では、その彼は丁重にもてなしてくださる? なんならリンドベルグ領へお越しいただいてもかまわなくてよ」

「え? いいの? 敵だよ?」

「もちろんですわ」



手を組み、微笑む。



「わたくし、優秀な方が大好きですの」


第二十七話は17時30分頃投稿予定。

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