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第24話 これが次の戦いへの第一手でしてよ

周りにいた参加客がちらりと視線を向ける。

半信半疑といったところか。



「………すごいこと言うね」

「ええ」

「”ザンクトラーデ総合商会”は数百年の歴史を持つ、この国でも五本の指に入るくらい老舗の総合商社だ。それを、設立してすぐのきみの会社が乗っ取るって言うの?」


ユリウス王子は首を傾げる。



”ザンクトラーデ総合商会”は大企業だ。

この国で流通する商品はほぼ全て”ザンクトラーデ総合商会”が絡んでいると言っても過言ではない。

貴金属だけでなく、繊維や資源も扱う。

業績はずっと右肩上がりだ。


でも、だからこそ。




「わたくしは本気ですわ」




()()()()()、わたくしは”ザンクトラーデ総合商会”を乗っ取ることが出来る。





ちらちらと、周りの参加客の視線が突き刺さる。

ユリウス王子は「へえ」と瞳を輝かせた。

いいパフォーマンスになりましたわね。


これで『エレーナの新興会社がトビアスの老舗企業を乗っ取るつもりだ』という噂が流れることでしょう。

これが対トビアス戦の第一手でしてよ。



「ユリウス殿下。わたくしに協力してくださる?」

「……乗っ取る方法を教えてもらえるかな?」

「詳しくは企業秘密ですが」


ふふ、と口元で笑みを噛み殺す。


「トビアスお兄様が相手でしたら、わたくしは”最後の仕上げ”をするだけかもしれませんわね」


ーーー彼は、本当に愚かですから。









「それにしてもすごかったです! 昨日のエレーナ様!」


パーティーの翌日、わたくしはアルマと王都にショッピングに来ていた。

あのあとのパーティーは観衆がざわついて仕方がなかった。

さすがのわたくしも背筋が丸まる思いでしてよ。

まあ、必死に平気なふりをしていたけれど。



ユリウス王子は「わかった」と笑い、それから握手を交わした。

新たな株主と前向きな協力関係を築けたのは大きい。


対ルイーズ用に作成した偽ダイヤのイヤリングは、ユリウス王子に差し上げた。

適当な貴族に安価で売ろうと思ったのだが、ユリウス王子が欲しがったのだ。

「これは有効活用させてもらうね」と微笑んでいた。


彼は食えない男だが、賢い。

わたくしの意図を汲んで行動してくれるだろう。







「ユリウス王子に求婚されるだなんて、やっぱりエレーナ様の魅力がすごいからですね!」

「あら、そんなことなくてよ。ユリウス王子はわたくしを見定めていたのですわ」


アルマと王都の大通りを歩く。

石畳の道は綺麗に整備され、左右にお店が連なっている。

人が多く、活気づいていた。


「見定める? 王子はエレーナ様に一目惚れしたんじゃないんですか?」

「一国の王子の結婚相手がそんな簡単に決まるのは、おとぎ話の中だけでしてよ」


アルマは眉を下げ、がーん、と落ち込んだ。

純粋ねぇ。

こんな純粋な子を連れ回しているのが少し後ろめたいわ。


「この国ではいまだに”女性は男性を支えるべきだ”という考えに囚われているでしょう」

「え? はい。でも、まあ、それって当然のことじゃ……」

「わたくしが単なる金目当ての女なら、王子との結婚に飛びつくと思ったんでしょう。わたくしの合成宝石にかける覚悟を計っていたんですわ」


それに、とわたくしは続ける。




「ユリウス王子は真剣に国を憂う方ですわ。今の”ファルネリア家”が、国を傾かせる存在だと気づいている。どうにかしたいと思っていたのでしょうね」




そこに現れたわたくし、エレーナ・ファルネリア。

彼の目の前でファルネリア三兄弟のひとりを破滅に追い込んだのだ。


30億クラムという出資金はおそらく、国の経済状況を健全にするためだ。

投資がどう返ってくるか見定めるためにも、リーダーであるわたくしの覚悟を知っておきたかったのだろう。

飄々とした笑顔だが、そんな甘い方ではないはずだ。





「そうだったんですね……。でも、アルマはエレーナ様が女王様になってもついてきます!」

「ありがとう。まあ、その時がきたらちゃんと考えるわ」


結婚なんてまだよくわからないわ。やはり目先の復讐が先よ。

と、なんだかわたくしも悪女みたいに思えるわね。

自嘲気味に笑ってしまった。







王都の城下町を歩く。

小物を売っている店がちらほらと建ち並んでいる。


アルマは一千万クラムを手に入れたばかりだ。

いくらかをぎゅっと握り締めてショーウインドウをキョロキョロしていた。

小型犬と散歩に来たみたいね、とわたくしはくすくすと笑った。


「アルマ、せっかくなら好きなものを買いなさいね? 王都に来れる機会は少ないんだから」

「分かってます。でも、何買っていいんだか分からなくて……。エレーナ様は欲しいものありますか?」

「ん~~。そう言われると難しいわね」


わたくしはうーんと唸る。

昨日のオークションで大金を手に入れたものの、それらはわたくし個人のお金ではない。会社の運営資金だ。


そもそもリンドベルグ領に来てからのお金は全てヴィルヘルムに借りている。

そうした状況のせいか、脳にストッパーがかかってあまり物欲が湧かなかった。

王都の小物はどれも可愛らしくておしゃれなのだけれど。




「あ、あのお店行きましょう、エレーナ様!」

「あらいいわね。可愛い」


アルマが指さした先には、鹿やリスの可愛らしいイラストがあった。

吸い込まれるように二人してお店に入る。


「わあ、どれも可愛い……! いまの私ならお店のもの全部買えるんですかね……?」

「ほどほどにしときなさい。いつ何があるか分からないんだから」

「……そっか。それもそうですよね。いつエレーナ様の結婚式があるか分からないし。貯金しないと」


アルマはきゅっと唇を噛む。

まったく、この子は。わたくしの事業が失敗するとかは思わないのかしら。

それほどに信頼されると、絶対に成功させなきゃと思ってしまうわね。





アルマの背中を見ながら、わたくしも店内を見て回る。

実はわたくしもあんまりショッピングをしたことはない。下働き時代は生活に余裕もなかった。


へえ、お店ってこんなに種類があるのね。

ペンやノートも可愛いわ。

確かに買い占めたくなる気持ちは分かる。



そして、目の前にふっかふかのぬいぐるみが現れた。

狼、狐、フクロウ。リスやクマもいる。

サイズも大きいのから小さいのまでたくさん。


……かわいい。


けど、うーん、ぬいぐるみって別に、生活に必須って訳でもないし……。


うーん。でも、かわいいわ。





「エレーナ様?」

「わっ! な、なにかしら?」

「ぬいぐるみですか? 可愛いですね!」


アルマがニコニコ笑顔で話しかけてきた。

びっくりしたぁ。

わたくしはほっと胸をなで下ろす。



「ちょっと見てただけよ。アルマのお買い物は済んだの?」

「あ、えっとぉ、もうちょっとです! エレーナ様は先にお店を出てていいですよ!」

「あ、うーん、そう? じゃあそうするわ」


このままお店にいたら無駄遣いしちゃいそうだし。

お言葉に甘えてそっと店を出る。


しばらく外で待ち、やっぱりアルマが心配になった。

無駄遣いする子じゃないけど、変なテンションで買い占めとかしてないわよね。





ハラハラした心持ちで待っていると、やっとアルマが帰ってきた。


「お待たせしました、エレーナ様!」

「いいのよ。遅かったわね。何買ったの?」

「ええと、メイドのみんなにお土産と、あと両親たちにちょっとしたプレゼントとか」

「あら、いいわね」


アルマはほくほくしている。

手にしている荷物は大量だ。



「あと、これは、その……」

「なあに?」

「え、エレーナ様に……っ!」


アルマが大きな紙袋をぐいっと押しつけてきた。


「わたくしに?」

「あ、え、えっとぉ! さ、さっき見ていらしたので! も、もしよければっ!」


アルマは頬を赤らめてぎゅっと手を握る。

わたくしはぽかんとしながらも、渡された紙袋をあけた。

中には大きなオオカミのぬいぐるみが入っていた。


「……可愛い」

「あ、よかった! ですよね! そのオオカミさん、エレーナ様に似合いそうって思って!」

「え? そ、そう?」


アルマは瞳をぱっと輝かせる。


「エレーナ様、いつも眠りが浅そうで、心配してたんです! これ、抱き枕にもなるんですよ。あと、オオカミさんって旦那様みたいで、エレーナ様を守ってくれるかなって……。これがあれば、いつでもひとりじゃないです!」


えへへ、とアルマは笑う。

わたくしは口を間抜けに開けた。


……眠りが浅いの、気づいてたのね。





「プレゼントって、初めてもらったわ」

「そうなんですか?」




わたくしはオオカミのぬいぐるみを、ぎゅうっと抱きしめた。



柔らかい。ふわふわして、落ち着く。

不思議と心が温かくなって、目頭に熱いものが込み上げてきた。



「ありがとう、アルマ」



第二十五話は17時30分頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

(今後のモチベに繋がりますので……!!)

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