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第22話 邪魔だからステージから降りてくださる?

ルイーズはステージに膝をついた。

近くにはきらびやかなダイヤモンドのイヤリングが散っている。

わたくしは足元のお姉様を見下ろした。




「オークションを続けてもよろしいでしょうか」


隣で立っていた黒服がにこりと微笑む。ビジネスライクな上辺だけの笑顔だ。

この滑稽な劇をパフォーマンスと受け取ったのか、ただ単に面白がっているだけなのか。まあ両方だろう。



わたくしは足元で震えるルイーズに近づく。

耳元で、そっと囁いた。


「これがお姉様のダイヤモンドです。お返しいたしますわ」

「……あ、」

「邪魔だからステージから降りてくださる?」


にこり、微笑む。

ルイーズはカタカタと震えていた。


わたくしは黒服に指示を出す。

ずるずると引きずられ、放心状態のルイーズは舞台から去った。





さて、ここからが本番ですわね。

わたくしは足元に散っているイヤリングを拾って、箱に詰めた。


箱を台座に置く。

黒服からマイクを受け取り、わたくしは数百人の観客に向かって背筋を伸ばした。



「みなさま、お待たせいたしました。ただいまからお見せするのは世にも珍しい、"ガラス"からできた宝石、合成宝石でございますわ」



箱から一つを取り出し、光にかざす。虹色の光がキラリと輝く。

観客は「おお」と驚きの声を上げた。



「原材料はガラス。わたくしどもの特別な技術で加工しました。その出来は先ほど皆さまもご覧になったように、あの”ファルネリア家のご令嬢が手に取ってみても本物かどうか分からなかった”ほどですわ」



観客の熱が上がっていく。


すごい、近くで見てみたい、そんなに本物そっくりなの? と、興味津々だ。

ざわざわした声が気持ちいいわね。ぞくぞくするわ。



「わたくしどもが出品するのは大きく二点。ひとつは、先ほどのご紹介の通り、合成宝石のイヤリング。ここにいる彼女が作りましたわ」



とん、と隣に立つアルマの背中を叩いた。

途端にアルマはぴしっと背筋を伸ばす。

不安なのだろう、顔は強ばっていた。


偉いわ、よく頑張ったわね。でも大丈夫よ。

ここの観客は皆、アルマをすばらしい技術者だと思ってるわ。



ついにオークションが始まった。

黒服が聴衆に呼びかけ、舞台下から「10万クラム」「20万クラム」「100万クラム!」「300万クラム!!」と聞こえてくる。必死だ。


野太い声にアルマがたじろぐ。


300万クラムってアルマの年収と同じくらいですものね。

数字がぽんぽんと上がっていくのにむしろ恐怖を抱いているのかしら。

アルマが真っ当な精神でよかったわ。



結果、アルマのイヤリングは一千万クラムで落札された。

落札したのは有力貴族のご婦人。落札したときの顔はツヤツヤしていた。

近くで見てみたかったのだろう、”あの”ルイーズを破滅に追い込んだ合成宝石を。


「い、いっせんまん……? ひぇ、な、何買えばいいんだろ……」


アルマは隣でふるふると震えていた。

なんとまあ、可愛らしい子犬のようですわね。


この一千万クラムはそのままアルマのものだ。

だってわたくしは手を貸しておりませんし、アルマが一から作ったんですもの。






「エレーナ様、お次の出品する商品をご説明いただけますでしょうか?」


黒服が、にこにこ笑顔で語りかける。

オークション最初の商品に高値がついてウキウキなのだろう。声が弾んでいる。


会場が一度しんとした。

無数の期待に溢れる視線がわたくしに刺さる。


次は何を売ってくれるの? という、キラキラした眼差しだ。

期待には応えなければね。




「わたくしたちは”合成宝石”の製造会社を立ち上げます。その株式を18パーセント、オークションにかけますわ」




ざわっと、会場の声がうねった。

合成宝石の会社? その株式を、18パーセント!?

先ほどとは比にならないくらい観客が盛り上がる。


”合成宝石”はガルデーニエ王国にはない唯一の技術。

その出来は先ほど証明されたように、本物そっくり。

さらには”合成宝石”の技術で作られたイヤリングが一千万クラムで落札されたばかりだ。


株があれば会社の方針に口を出せるし、配当だけでもかなりの額になる。

手に入れたらいくら儲けられるか。

観客たちはわあっと盛り上がっていた。




「わたくしどもの会社のご説明をさせていただきますわ」


舞台袖に向かって微笑みかけると、ヴィルヘルムが壇上へ現れた。

途端に、この場にいる全員がほぅ、と見とれる。


きらびやかな宝石が施されたマントが波打つ。

耳や首元には豪華なアクセサリー。

ダイヤモンドだけでなく、サファイアやルビー、エメラルドもある。


長身を活かすように仕立てた美しい姿。

端正な姿も相まって、魔法の国から現れたようだ。

本人は緊張しているけれど、数百人の観客は一目で心を奪われていた。



「わたくしどものリンドベルグ・ジェムテック株式会社は、リンドベルグ領で合成宝石を製造いたします。アクセサリーにしたり、このようにパーティー衣装に施すことも可能ですわ」



ヴィルヘルムがステージの上から聴衆を見下ろす。

動く度に光が瞬いて、令嬢たちが「ひゃあ……」と真っ赤になっていた。


うふふ、これまでにない広告塔ですわね。



「1400組のイヤリングを約一ヶ月で製造いたします。高い品質を保ちつつ、速いスピードで量産できる。今後のガルデーニエ王国でも、トップクラスで成長する企業であると自信を持って言えますわ」



わたくしは強気に微笑んだ。

観客はみな、期待にごくりと唾を飲み込む。





黒服が「落札スタート」と声を掛けた途端、叫ぶような怒号が会場を包んだ。


「1000万」「2000万」「ばか、たったの18パーセントだぞ」「3000万」

「リンドベルグって遠いじゃない」「1億」

「でも所詮偽物でしょう?」「2億」「3億」



おお、すばらしいわ。数字がバンバン上がっていく。

まさか、億にいくとは。

ほんとに払えるのかしらね? ちょっと不安になるわ。


想定では1億クラムいけば万々歳だった。

3億クラムはリンドベルグ辺境伯領の一年の予算に匹敵するくらいだもの。




「30億クラム」




凜とした声が響いて、会場が途端にしんと静まりかえった。



30億クラムーーーー?




一息して、観客がざわつく。

黒服がぴくりと眉を動かす。



「30億クラムですね。これ以上はおりませんか」



観客は黙り込んだ。


そりゃそうだ。払えるわけがない。

リンドベルグ辺境伯領の国家予算十年分。

国の一大事業と言ってもいいくらいのお金だ。




一体、誰が。

わたくしは汗で濡れた手を握りしめ、声がした方向に目を向ける。


金髪でふわりとした髪。思ったより若い。

人を食ったような笑顔を浮かべている美男子だった。



「では、こちらの株式は、ユリウス・ガルデーニエ様に落札されました」



は、と息を呑んだ。

金髪の美男子ーーーーユリウス王子が、遠くからひらひらと、手を振ってきた。

第二十三話は17時30分頃投稿予定。

ブクマ&☆5評価、ぜひぜひよろしくお願いします!!

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