第21話 これは”本物”ですか?それとも”偽物”ですか?
「エレーナ様ぁ!」
「よしよし、アルマ。よく頑張ったわね」
芋臭いメイドはぱあ、と顔を輝かせた。
エレーナはにこりと微笑む。
なに、どういうこと。なんでエレーナがいるの。
ルイーズは頭が真っ白になっていた。
怒りで我を忘れていたところ、大嫌いな女まで現れた。
意味が分からない。
気がつけば、数百人の視線は興味深そうに観察する瞳になっていた。
サッと血の気が引く。
先ほど黒服に怒鳴りつけてしまった。
ユリウス王子のお付きの者に、しかも数百人の貴族たちの前で。
どうしよう、どうすれば。
ルイーズは口の中が急速に渇いていくのを感じた。
築き上げてきた自分の高貴なイメージが崩れていく気がする。
けど、けれど、私は被害者なのだ。
そう、みなに分からせないといけない。
私は盗まれたのだと。
エレーナはメイドを庇うようにルイーズの前に立ちはだかる。
背筋を伸ばし、笑みを崩さない。
「エレーナ、あんた、何を言ってるの。そのメイドはあんたのメイド? ずいぶんと手癖が悪いんじゃなくて?」
「失礼なことを言わないでくださる? アルマはとっても優秀ですわ。その証拠に、ほら」
エレーナは台に掲げられていたイヤリングを手に取る。
そして、にっこりとルイーズの前に掲げた。
「このイヤリングを作ったのはアルマよ」
ルイーズは息を呑んだ。
何を言っている? イヤリングを作る?
そんなこと出来るわけがない。
だってこの小娘がダイヤモンドを手に入れられるはずがない。
それに、ただの小娘が物作りなんて男の仕事が出来るはずもないじゃないーーー
「嘘よ! 私を馬鹿にするのもいい加減にして!」
「本当ですわ。アルマがガラスから作った、合成宝石ですの」
ルイーズは目を見開いた。
合成宝石? そんなの聞いたことがない。
ガラスなんて、窓やグラスに使う物でしょう。
あれがこんな宝石になるわけがない。
ふざけたことを言わないで。
叫ぼうとするも、エレーナはイヤリングを、ルイーズの目の前にぐっと見せつけた。
「見てくださる? しっかりと、あなたの目で」
ルイーズはびくりと背を逸らす。
けれど、きらきらと目の前で揺れる宝石から目を離せなかった。
「アルマ・ブラウンーーーと刻まれているのがわかりませんこと?」
ルイーズは言葉を失った。
確かに、目の前のイヤリングの根元には、小さく、本当に小さく、文字が刻まれていた。
「まだお姉様はこれがあなたのものだと主張するんですの?」
「え、……で、でも、ちがう、そんな……違うわ、この女が、盗んで彫ったのよ、そうよ、そうに決まってる」
「あら、盗まれてほんの数分で? ずいぶんと高い技術をお持ちですわね」
「でもっ、こんな小娘が宝石なんて作れるわけがないじゃない!」
エレーナは微笑んでいる。にこにこ、何も動じないで。
ルイーズは唇を噛んだ。
どうして。
意味が分からない。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、うまく言葉にならない。
数百人の貴族たちが、ひそひそと話すのが聞こえた。
盗まれたって嘘ってこと? 合成宝石って何かしら? そんなにそっくりなの?
ルイーズ様でも見間違えるくらいなんだから。
いやいや、まさか。
ルイーズ様の見る目がないだけでしょうよ。
ーーーこんなに取り乱して、みっともない。
ルイーズは羞恥で顔がカッと熱くなった。
壇上へ、数百人の視線が突き刺さる。
スポットライトが真上から照らし、視界が白く、歪んでいく。
これ以上こんな姿を見られるのは……。
でも、じゃあ、私のダイヤモンドはどこにいったの。
「まあまあ、お姉様。あなたのイヤリングは、わたくしが間違って仕舞ってしまったんですの」
エレーナの声がざわついた会場に凜と響いた。
ルイーズはハッと意識を取り戻した。
エレーナが盗んだのか。間違ったなんて嘘に決まってる。
正当な娘であった私への嫌がらせだ。
公衆の面前でメンツを潰すなんて、謝って済む問題じゃない。
「早く返してよ! こんなことして許されるとでも思ってるの?」
「大変申し訳ございませんわ。心から深くお詫びいたします。ーーーああ、でも」
「何よ!」
エレーナは、三十センチ四方の大きな箱をルイーズに見せた。
「この中に紛れちゃったんですの。どれがお姉様の”本物”のダイヤモンドなのか、わたくしに教えてくださる?」
ルイーズは息を呑んだ。
箱の中には、数千個ものダイヤモンドのイヤリングが入っていた。
「あ……、え……?」
「手に取ってみてもよろしくてよ。ほら」
ぐい、と箱を差し出される。
ルイーズは恐る恐るイヤリングを手に取った。
同じサイズ、同じ輝き。同じ見た目だ。
自分が持っていたダイヤモンドと同じ。
それが、三十センチの箱にぎっしりと詰まっている。こんなに大量の宝石は見たことがない。
ーーー見分けがつかない。
咄嗟にイヤリングの根元を確認する。
先ほどメイドの名前が彫刻されていたところだ。
自分のダイヤモンドにはされていない。何もなければ自分の物だ。
けれど、箱の中の宝石には、どれにも彫刻されていなかった。
「……っ、……あ、…………」
「どうしましたの? もしかして、どれが自分のイヤリングかわからないんですの?」
「ち、ちがっ……!」
顔を上げる。
そして、途端にひっと息を呑んだ。
数百人の視線が、嘲笑するものに変わっていた。
まさか、自分のイヤリングもわからないの?
やっぱりルイーズ様の目は節穴だったんだわ。
ーーードレスの支払いも滞ってたらしいし、愛人にあげるお金も減ってたらしいわよ。
なんでなんで、なんで知ってるの。
ルイーズは足がガクガクと震えた。
お金に困ってるなんて誰にも言ってない。
そんなのファルネリア家の恥だからだ。
だから無理しても愛人にはお小遣いをあげていたし、パーティーだって開催したし、毎回高級なドレスだって仕立てたのに。
どうしてみんな知ってるの。
いつから、誰が言い出したの。
いや、ちがう。
みんな、私がお金に困ってることを知っていて、私をあんなに褒めそやしていたの?
背筋が震える。
視界が白く霞んでいく。膝から崩れ落ちる。
手にしていたイヤリングが、じゃらじゃらとステージに落ちる。
箱いっぱいに入っていた数千個ものダイヤモンド。
どれも同じに見える。虹色の光を反射している。
「あ、もしかしてこれですか?」
エレーナが頭上から声を掛けた。
その手には、ひと組のイヤリングがある。
「ねえ、答えて。お姉様。これは”本物”のダイヤモンドですか? それとも、”偽物”のダイヤモンドですか?」
ルイーズは、口を開けて、そのまま、固まった。
本物か偽物か。ルイーズには見分けることが出来なかった。
第二十二話は明日の11時30分頃投稿予定。
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